金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

銀行レースは死語だった

2007年11月29日 | 金融

欧米の銀行が震源地となり、株式市場や為替市場がボラタイルになっている。昔日本では銀行が安全の代名詞に使われた時代があった。私は競馬をやらないが、勝ち馬が決まっているような安全レースを昔「銀行レースと 呼んでいたなぁ、まだ使われているのかしらん?」と思い、グーグルで検索してみた。検索エンジンにかかった件数はわずか7百件である。ほぼ死語同然と考えてよいだろう。

FTは「銀行はどうしてこんなに混乱を引き起こすのか?」「どうしてこの業界は利益が上がるのか?」 「どうして従業員はそんなに高い給料を支払われるのか?」という疑問を掲げ、その答は同じだと言う。そしてその答は銀行がハイリスクを取るということだ。銀行はリスクを取る一方「公益事業的機能」を提供しているので、公的セクターが補助金をだす。銀行はこれをあてにしてスペキュレーションを行うというのだ。これでは銀行レースという言葉が死語になっても何の不思議はない。

FTは銀行セクターを特徴付ける属性は「収益性」だという。収益性を測定する最も重要な指標はROE(株主資本収益率)だ。97年から2006年の間の英国の銀行のROEは20%だった。アイルランド、スペイン、ノルディック諸国の2006年のROE
20%だ。米銀のROEは12%を少し超えたあたりで、ドイツ、フランス、イタリアの銀行もこれに近いレベルだ。
もっともこれらの話は邦銀以外の話である。
私が邦銀の直近のROEを見たところ、三菱UFJが7.66%、三井住友銀行が10.49%、中央三井が3.35%と押しなべて低い。そして従業員の給料もそれ程高くはなくなっている。わき道にそれるが、DODA(デューダ)のHPから引用すると、3034歳クラスで
一番給料の高い仕事は「投資銀行」で887万円、二番目が「運用会社」で880万円、邦銀(メガ、地銀)の法人営業担当は6番目で639万円だ。この資料を見て思うことは、単に邦銀という区分ではなく、法人営業という業務部門で給料が出ていることだ。法人部門は投資銀行等へ転職するステップボードと考えられているのかもしれない。

話を戻してどうすればROEをあげることができるかというと、分子である利益を増やすか分母である自己資本を減らせば良い。自己資本を減らすということは借入金や社債を増やすということで、これをレバレッジを効かせるという。銀行が高いROEをあげることができるのは自己資本比率が低いからである。
ではどうしてその様な低い自己資本比率で不測の事態を乗り越えていけるかというと明示的・暗示的な幾つか公的保証があるからだ。それは中央銀行からの資金供与や預金保険の形を取っている。またこれらの安全装置があるので、銀行はより多くのリスクを取っている・・・とも言える。もちろん政府も馬鹿ではなく、銀行に自己資本規制を設けたり、
様々なリスク管理を求めているのだが。

銀行と従業員の関係を見ると~あくまで外国の銀行の話だが~短期間の業績に対して高い報酬が支払われる仕組みになっている。これがSIVのようなストラクチャーを生み出すインセンティブになり、銀行がリスクの高い取引を行う原因の一つになっている。

FTはこの仕組みを変えないと問題は繰り返されると言う。仕組みを変えるには「銀行を公共財としてリターンを規制する。あるいは自己資本比率の下限を引き上げる」といった規制強化の方向か「銀行を利益追求産業とみなして、市場経済のルールにゆだねる」という方向が考えられるが、後者は受け入れることができないとすると前者になる。

今欧米の銀行は火達磨になっている状態なので、直ぐに自己資本比率の引き上げの動きにはでないが、事態が落ち着いてくるとこの動きがせわしなくなるだろう。そうすると銀行はそれ程儲かる商売ではなくなり、従業員のペイが下がる。ペイが下がるとアグレッシブな連中が他の業界に移り、銀行には保守的で退屈な従業員が増えることになる。その頃には再び「銀行レース」という言葉が復活するということがあるのだろうか?


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

指紋採取に痛烈な皮肉

2007年11月28日 | うんちく・小ネタ

1120日より改正出入国管理法が施行され、日本に入国する外国人の顔写真と指紋が取られることになった。 これについてエコノミスト誌が痛烈な皮肉を交えた記事を書いている。まずポイントを紹介しよう。

1641年に幕府は長崎に出島を築いて、外国人を閉じ込めた。後に日本はもっと外国人を歓迎するようになったが、最近入国する外国人の顔と指紋の写真を撮ることを始めた。プライバシー擁護者は監視国家の出現だと激しく非難している。
批評家達はこれは日本の反外人感情におもねるもので、外国人観光客を増したり、東京を国際的な金融センターにしようとする国策を傷つけるものだという。

余談だが「おもねる」の原語はpanderで「おもねる」という意味の他「売春を斡旋する」という意味がある。おもねるには売春を斡旋するのが手っ取り早かったのだろうか?

これに対して政府は「単にテロリストを締め出す手段だ」と言う。ここでエコノミスト誌の最初の皮肉が出る。「蝶の愛好者である鳩山邦夫法務大臣が説明したように、彼の蝶仲間の友人であるアル・カイーダのメンバーの一人は偽のパスポートを使って日本に出入国を繰り返していた。新しい管理法はこのような奴をブロックするのだ」

鳩山邦夫という人は蝶のコレクターとしてつとに有名らしい。そのため評論家の佐高信から「変質者の代名詞のような蝶のコレクター」と中傷されたことがある。なおこの中傷によって佐高もまた昆虫研究家達から非難されている。

本題の戻るとここでエコノミスト誌は二発目の皮肉を飛ばす。「日本のテロリズムはただ日本国内で生まれたものばかりだ。最近の例ではオウム真理教信者によるサリン攻撃で12名が東京の地下鉄内で殺された」
エコノミスト誌は言外に外国人の取り締まりを強化するより日本人のチェックの方が大切じゃないの?と言っている訳だ。
そしてエコノミスト誌は別の箇所で自ら答を用意している。それは「日本には隣組というものがあってお互いに監視しあっている」ということだ。

この「隣組」だが、配給の効率化や思想統制を図る目的で太平洋戦争前の1940年に明文化された制度である。つまり監視国家の下部構造を支えていたのだ。

日本の顔写真・指紋システムは米国のUS-VISITプログラムのコピー版であり、本来はそれ程議論を呼ぶような話ではない。総ての国が生態認証情報を収集する方向に動いているからだ。問題はその実施ともに起きてくるとエコノミスト誌は言う。米国のシステムは欠陥含みで、費用は予算を上回っている。技術的な問題で欧州ではデジタルパスポートの導入が遅れている。

ここでエコノミスト誌の最後の皮肉が出た。「日本のコンピュータをデザインする優れた能力に比べて、政府は奇妙なことにそれを運用するのが下手である。今年政府は50百万件の年金の電子データを失ったことを認めた」

以上がエコノミスト誌の記事のポイントだ。それにしても指紋採取の問題を論じながら日本の問題点を浮かび上がらせる同誌の筆力は並々ならぬものがある。私がエコノミスト誌を好んで読む一つの理由はエスプリの利かせ方を学ぶところにある。最後にエコノミスト誌が書いていない問題点を一つ指摘しておこう。

それは日本人には隣組はあっても米国のソシアル・セキュリティ番号に相当する統一背番号がないということだ。このため国民年金や厚生年金の掛け金・給付管理の問題が発生したり、金融一体課税制度の導入のネックになったりしている。「隣組」制度などでお互いを監視しながら、国民背番号問題になると急にプライバシー議論が頭をもたげる。きちんと税金や社会保険料を納めている我々にとって納税者番号が導入されることで便利になることはあっても、不利益はないはずだ。導入反対を唱えている人はなにかやましいことがあるのか?と勘ぐりたくなる次第だ。

外国人の入国に目を光らすことの必要性を否定する訳ではないが、国民の必要な情報を電子的に把握することの方が優先課題ではないだろうか?


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

昭和記念公園の紅葉

2007年11月25日 | まち歩き

今日(11月25日日曜日)ワイフと昭和記念公園で紅葉を楽しむ。恐らく今週がベストに近いだろう。美しいのはメインゲートの前に広がる銀杏並木だ。銀杏の樹の背が低いので歩くと黄色いトンネルを歩いているような気がする。

Icho

今日の最終ゴールは日本庭園だ。池沿いに歩いていくとススキと紅葉のバランスが良い風景があった。Susuki

今日は三連休の中では一番穏やかな天気だ。池には沢山ボートが出ている。原っぱの方に向かうところでイイギリの赤い実を見た。

Iigiri

これはズイコー50-200mmの望遠ズームレンズの望遠側で撮った写真で一脚を使っている。手ぶれ防止内臓の一眼レフE510と一脚の組み合わせは機動性があり便利だ。今日は風がほとんどないので日本庭園の池には紅葉がきれいに写っていた。

Mizubae

昭和記念公園の紅葉は人の手になる紅葉だが美しいことは美しい。この日本庭園を往復して約1時間半、ちょっとした散歩には手頃だ。

Momiji

この後私達は車で15分程のところにある武蔵村山旧日産工場跡のダイヤモンドシティに寄り、遅い昼飯を食べた。昭和記念公園とダイヤモンドシティの組み合わせは安易だが、楽しい休日の過ごし方である。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

名門が名車を作れるか?

2007年11月24日 | 社会・経済

先週某米系投資銀行の日本人社員と雑談をしていたら、本国の方ではサブプライム問題でM&Aは開店休業状態だが、日本では結構ディールがあるということだった。しかしM&Aのディールが盛んなのはやはり経済の元気が良い中国、インドだろう。インドといえば英国のジャガーとランド・ローバーの買収候補としてインド企業の名前が上がっていることは既に良く知られているが、エコノミスト誌が最近の状況を分析していた。

ジャガーとランド・ローバーを持っているのはフォード社で同社は米国での事業に専念するためジャガーとランド・ローバー両者をまとめて売りたがっている。今週フォードは3つの最終候補を選択した。インド最大の自動車メーカー「タタ・モーターズ」、インドの多目的車メーカーの「マヒンドラ・マヒンドラ」とプライベート・エクイティのアポロの連合軍そして最後はプライベート・エクイティの「ワン・エクイティ・パートナーズ」だ。

三つの買い手候補が出した値段は15億ドル近辺だと信じられている。フォードはオークションの手法を使って値段を吊り上げることができるだろうが、それ以上の懸念材料はジャガーとランド・ローバーの利益と1万6千人の労働者の問題だ。これはフォードの利他的な判断によるものではなく、フォードにとって二番目に大きい市場である英国で良き企業市民と思われたいからである。

三つの買い手候補の中でタタが最短距離にいると見られている。タタが何故ジャガーとランド・ローバーを買おうとしているかについては見方が分かれている様だ。英国の名門企業を所有するという名声を欲していると見る者がいる一方、ジャガーとランド・ローバーの業績が急回復しているから興味を示しているという者もいる。

だがジャガーにしてもランド・ローバーにしても古い企業で、最新の燃費の良い車を作る技術は持っていない。ここは非常に効率性の高いディーゼルエンジンを作っているドイツのメルセデスなどに劣るところだ。欧州では排ガス規制法が2012年から施行されるので、基準に到達できないと思われるジャガーやランド・ローバーは車を売るたびに課徴金を支払うことになる。ということは名門ジャガーやランド・ローバーの企業価値が低下するということだ。計算の得意なインド企業はそれ位のそろばんは弾いているに違いないが、勝算の程を聞いてみたいものである。

さて四輪駆動の名門であるランド・ローバーの話が出たついでに、今私が買い換えようと考え始めたSUVについて話をしよう。それはフォルクスワーゲンが最近モーターショーで発表したティグアンTiguanという車だ。大体日産のデュアリスより少し大きくX-Trailより少し小さいサイズでワーゲンのSUVトゥアレグの弟分になる。

TSIというツインチャージャーを備えたガソリン・エンジンとTDIという直噴ディーゼル・エンジンの2つのタイプがあり、高性能と低燃費という二律背反を実現した車だ。フォルクスワーゲンというと「国民車」=経済性優先でスピードは今ひとつというイメージを持っている人がいるかもしれない(実は私も大昔にワーゲン・ジェッタに乗っていたことがあり、そんなイメージを持っていた)が、現実は違う様だ。ベンツのAクラスでは全くワーゲンに歯が立たないというマニアもいる。

このティグアン、買うか買わないかは最後は値段との相談になるが、四輪駆動車の悪路踏破能力とクーペのような加速感を備え持つなら、まじめに検討する必要がある。

話はすっかりそれてしまったが、車に求められる技術も日進月歩なので名門企業が良い車を作り続けるという保証はないかもしれない。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人を見に高尾の山へ

2007年11月23日 | まち歩き

11月23日勤労感謝の日、ワイフと電車に乗って高尾山に紅葉狩りに出かけた。今日は蛇滝口から登ることにする。蛇滝口のバス停にはJR高尾駅からバスで10分程度。満員のバスからは我々の他1組が降りただけだ。ほとんどの人は小仏峠に行くのだろう。10時10分頃登山開始。蛇滝では信者の方が滝でお祈りをしていた。しばらく登っていくと「高尾山の頂上はこちらですか?」と言いながら青年が一人降りてくる。聞くとロープウエイを降りてから頂上に向かう予定が蛇滝口のルートに入ってしまった様だ。間違いを教えてあげたが、青年はそのまま蛇滝の方へ下っていった。2号路合流点でルートを間違えたのだろうが、ドンドン下りながら疑問に感じなかったのだろうか?

40分程で尾根筋に出るとそこは人、人、人の波。蛇滝口からの登りでは数組の登山者とすれ違っただけだが、ここはもう都会の喧騒そのものだ。

Torii

高尾山の本山の薬王院の紅葉は青い空と赤い鳥居とマッチして美しい。ワイフが「薬王院ってお寺でしょ?どうして鳥居があるのかしら」と言う。「それは神仏習合の残りだよ」という私の答。もっと丁寧にいうと薬王院には飯綱権現が奉られている。権現とは仏教の仏が日本の神に姿を変えて現れたとする本地垂迹説による神様だからお寺で奉られて不思議はない。そしてまた鳥居があっても不思議ではない。ただ明治初期の廃仏毀釈運動の中でお寺の前の鳥居は移動されたはずだ。お寺の前に鳥居が残されたことは、山深い高尾山の上まで運動が及ばなかったということだろうか?専門者のご意見を聞きたいものだ。

さてこの辺りからいよいよ人の密度が混んでくる。

Hitononami

これはもうラッシュ時の新宿駅のようなものである。高尾山の頂上には11時50分頃到着したが、おにぎりを食べるスペースがないので、そうそうに引き返し少し下ったところでやっとの思いで飯とした。

表参道を通って高尾山口に下山する途中で今日一体何人位高尾山に人が入っているか想像してみた。まず1分間に何人の人とすれ違うかを数えた。そうすると約200人である。ということは表参道だけで1時間に1万2千人の人が登っていることになる。登山時間帯を9時から2時の6時間とすると7万2千人の人が高尾山に登ったことになる。これに加えてロープウエイやリフトあるいは別ルートで登る人がいるから10万人程度の人が今日山に入ったと考えて良いだろう。

Hudou

人ごみは勘弁して欲しいが紅葉はきれいだ。私は真っ赤な紅葉も良いと思うが、写真の様に色が変わりつつあるグラデーションも好きだ。ところで3時間ほど山を歩いたが一番美しい紅葉は高尾山口にあった。

Ekichikaku

このブログを書いているとテレビを見ていたワイフがやってきて「テレビで言っていたけれど、高尾山はフランスでミシュランの観光ガイドブックに京都や奈良とならんで取り上げられたのだって」「高尾山が京都や奈良と一緒に観光ガイドブックに入るのはおかしいはよね。それで専門家の間でもミシュランの変な格付を『高尾山格付』と呼ぶのだって」といった。

なるほどそれで今日高尾山で随分外人を見かけたのだと私は納得した。高尾山をミシュランが取り上げたことは始めて知ったが、多くの日本人は知った上で高尾山に押しかけたのだろうか?それとも単に東京近郊の手頃な紅葉の名所ということで押し寄せたのだろうか?

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする