リッツォス「証言B(1966)」より(34)中井久夫訳
儀式の後 リッツォス(中井久夫訳)
叫びに叫んだ。ざわめき。とりどりの色鮮やかな美しい衣裳。
すっかり忘我。目を挙げて見るのも忘れた。神殿の背の高い破風を。
つい一月前、足場を組んで職人が洗ったのを。だがあたりが暗くなり
ざわめきも静まった時、一番若いのがふらふらと皆を離れて、
大理石の階段を昇って独り高みに立った。儀式が朝にあった、今は無人の場所に。
彼の立ち姿(われわれは後に続いた。あいつより駄目に見えたくはなかった)。
端麗な容貌を微かに挙げ、六月の月光を浴びて破風の一部に見えた。
われわれは近寄って肩を組み、沢山の階段を下に降りた。
だが彼の雰囲気はまだ彼方のものだった。若い神々と馬の間の遠い大理石の裸像だった。
*
儀式の後、その儀式にとりつかれた独りの若者が「神」になる。憑依。それを見る「われわれ」。
最後の行は、どう読むべきなのか。
「若い神々と馬の間の遠い大理石の裸像」。特に、その「神々と馬の間」をどう読むべきなのか。私は、半神半獣を思うのだ。「彼」は単なる「神」ではない。「半神半獣」なのだ。それはたぶん単純な「神」よりもはるかに尊い。「神」は「人間」に似ているが、「半神半獣」は「人間」には似ていないからだ。
では、何に似ているのか。
欲望に似ている、と私は思う。私たちの肉体の内部に眠っている欲望。いのちの欲望。その、形の定まらないざわめき。
--ここから、詩は最初の1行に戻る。循環する。神話になる。
儀式の後 リッツォス(中井久夫訳)
叫びに叫んだ。ざわめき。とりどりの色鮮やかな美しい衣裳。
すっかり忘我。目を挙げて見るのも忘れた。神殿の背の高い破風を。
つい一月前、足場を組んで職人が洗ったのを。だがあたりが暗くなり
ざわめきも静まった時、一番若いのがふらふらと皆を離れて、
大理石の階段を昇って独り高みに立った。儀式が朝にあった、今は無人の場所に。
彼の立ち姿(われわれは後に続いた。あいつより駄目に見えたくはなかった)。
端麗な容貌を微かに挙げ、六月の月光を浴びて破風の一部に見えた。
われわれは近寄って肩を組み、沢山の階段を下に降りた。
だが彼の雰囲気はまだ彼方のものだった。若い神々と馬の間の遠い大理石の裸像だった。
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儀式の後、その儀式にとりつかれた独りの若者が「神」になる。憑依。それを見る「われわれ」。
最後の行は、どう読むべきなのか。
「若い神々と馬の間の遠い大理石の裸像」。特に、その「神々と馬の間」をどう読むべきなのか。私は、半神半獣を思うのだ。「彼」は単なる「神」ではない。「半神半獣」なのだ。それはたぶん単純な「神」よりもはるかに尊い。「神」は「人間」に似ているが、「半神半獣」は「人間」には似ていないからだ。
では、何に似ているのか。
欲望に似ている、と私は思う。私たちの肉体の内部に眠っている欲望。いのちの欲望。その、形の定まらないざわめき。
--ここから、詩は最初の1行に戻る。循環する。神話になる。