Billy Elliot(Imperial Theater)
映画「リトル・ダンサー」をミュージカル化した作品。音楽はエルトン・ジョン。主演は4人が交代で演じていて、私が見たのはDavid Alvarez 。
音楽、ダンスが楽しく、演出がスピーディーで、とても楽しい。2幕の冒頭には、映画にはなかったシーンがある。「白鳥の湖」を少年と青年が踊る。少年は将来こんなふうになるのだ、と想像させるファンタジックなシーンだ。(「リトル・ダンサー」のもどるになった青年は実際に「白鳥の湖」に主演している。)
最初はふたりが同じ振り付けで踊り、そのうち一体になって少年が宙を舞う。湖で優雅に泳ぐ--グレイス・ケリー主演の映画「白鳥」では、白鳥は優雅に見えるけれど、水面下で足を必死に動かしている、というせりふがあるが、優雅に泳ぐだけではなく、白鳥は飛びもするのだと実感させてくれるとても美しいダンスだ。
幻想ではなく、リアルな(?)ダンスシーンでは、椅子をつかったダンスがすばらしい。床ではなく、椅子の上で回転する--という練習のための椅子なのだが、それを片手でまわしながら(椅子をパートナーとして)踊る。人間だけではなく、椅子さえも、このミュージカルでは踊るのだ。
装置もまた「演技」をするのだ、と実感した。
小道具だけにはかぎらない。
舞台は、あるときは少年の家、あるときはバレエ教室、あるときは炭鉱の街の路上にもなる。せり上がり式の少年の部屋が効果的だし、椅子やテーブルの小道具で場所を激変させる演出も美しい。せり上がり式の少年の部屋は、クライマックスの少年がロイヤル・バレエからの手紙を読むシーンでは、特に美しい。回転し、せり上がっていく部屋を追うようにして、父親たち家族が舞台を回る。少年に注ぐ視線がくっきりと浮かび上がる。視線などというものは無色・透明でほんとうは見えないのに、その視線がまぎれもなく見える。そして、視線が「愛」だと実感できる。とてもすばらしい。
「The 39 STEPS」のときも感じたが、舞台で演じられるのは「うそ」である。「装置」は「うそ」であって、ほんものではない。ほんものは舞台にあるのではなく、観客の「想像力」のなかにある。その想像力を刺戟しつづける演出、そのために装置にさえも演技をさせてしまう手腕がすばらしい。父親がスト破りをするときの、フェンス、バリケードの動きは、「The 39 STEPS」の「扉」と同じ種類のものだが、緊張感がゆるまず、ただただ感心する。
カーテンコールも楽しい。芝居の楽しみは、芝居そのものにもあるが、カーテンコールも楽しいものである。演技を離れた顔、役者の一瞬の地顔(でもないのかもしれないけれど)のやわらかさが私は大好きだ。このミュージカルでは、最後に全員がチュチュをつけて登場する。父親までもチュチュをつけて一緒に踊るし、認知症のおばあさんも踊るのだ。こういう幸福感はいいなあ、芝居ならではだなあ、と思う。
*
ロングラン記録更新中の「The Phanton of the Opera」(Majestic Theatre)も見たが、「Billy Elliot」の後では、あ、古い、と感じてしまった。劇的な音楽の魅力はかわらないが、演出のスピード感が、いまとは少し違っている。スピードを期待してはいけないミュージカルなのだとはわかるけれど、何か古びてしまったという印象がぬぐえない。地下の水路、舟のシーンなど、もっと水を感じさせてくれないとなあ、などと思いながら見てしまった。あ、すごい、ではなく、余分なことを考えてしまうというのは演出にむだがあるということだろう。
映画「リトル・ダンサー」をミュージカル化した作品。音楽はエルトン・ジョン。主演は4人が交代で演じていて、私が見たのはDavid Alvarez 。
音楽、ダンスが楽しく、演出がスピーディーで、とても楽しい。2幕の冒頭には、映画にはなかったシーンがある。「白鳥の湖」を少年と青年が踊る。少年は将来こんなふうになるのだ、と想像させるファンタジックなシーンだ。(「リトル・ダンサー」のもどるになった青年は実際に「白鳥の湖」に主演している。)
最初はふたりが同じ振り付けで踊り、そのうち一体になって少年が宙を舞う。湖で優雅に泳ぐ--グレイス・ケリー主演の映画「白鳥」では、白鳥は優雅に見えるけれど、水面下で足を必死に動かしている、というせりふがあるが、優雅に泳ぐだけではなく、白鳥は飛びもするのだと実感させてくれるとても美しいダンスだ。
幻想ではなく、リアルな(?)ダンスシーンでは、椅子をつかったダンスがすばらしい。床ではなく、椅子の上で回転する--という練習のための椅子なのだが、それを片手でまわしながら(椅子をパートナーとして)踊る。人間だけではなく、椅子さえも、このミュージカルでは踊るのだ。
装置もまた「演技」をするのだ、と実感した。
小道具だけにはかぎらない。
舞台は、あるときは少年の家、あるときはバレエ教室、あるときは炭鉱の街の路上にもなる。せり上がり式の少年の部屋が効果的だし、椅子やテーブルの小道具で場所を激変させる演出も美しい。せり上がり式の少年の部屋は、クライマックスの少年がロイヤル・バレエからの手紙を読むシーンでは、特に美しい。回転し、せり上がっていく部屋を追うようにして、父親たち家族が舞台を回る。少年に注ぐ視線がくっきりと浮かび上がる。視線などというものは無色・透明でほんとうは見えないのに、その視線がまぎれもなく見える。そして、視線が「愛」だと実感できる。とてもすばらしい。
「The 39 STEPS」のときも感じたが、舞台で演じられるのは「うそ」である。「装置」は「うそ」であって、ほんものではない。ほんものは舞台にあるのではなく、観客の「想像力」のなかにある。その想像力を刺戟しつづける演出、そのために装置にさえも演技をさせてしまう手腕がすばらしい。父親がスト破りをするときの、フェンス、バリケードの動きは、「The 39 STEPS」の「扉」と同じ種類のものだが、緊張感がゆるまず、ただただ感心する。
カーテンコールも楽しい。芝居の楽しみは、芝居そのものにもあるが、カーテンコールも楽しいものである。演技を離れた顔、役者の一瞬の地顔(でもないのかもしれないけれど)のやわらかさが私は大好きだ。このミュージカルでは、最後に全員がチュチュをつけて登場する。父親までもチュチュをつけて一緒に踊るし、認知症のおばあさんも踊るのだ。こういう幸福感はいいなあ、芝居ならではだなあ、と思う。
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ロングラン記録更新中の「The Phanton of the Opera」(Majestic Theatre)も見たが、「Billy Elliot」の後では、あ、古い、と感じてしまった。劇的な音楽の魅力はかわらないが、演出のスピード感が、いまとは少し違っている。スピードを期待してはいけないミュージカルなのだとはわかるけれど、何か古びてしまったという印象がぬぐえない。地下の水路、舟のシーンなど、もっと水を感じさせてくれないとなあ、などと思いながら見てしまった。あ、すごい、ではなく、余分なことを考えてしまうというのは演出にむだがあるということだろう。
![]() | Billy Elliot [Original Cast Recording]Steve Pearce,Elton John,Martin Koch,Ralph Salmins,Adam Goldsmith,Laurence Davies,Richard Ashton,Tim Jones,Stephen Henderson,David Hartley,Chris Dean,Pete Beachill,Simon Harpham,Tracy Holloway,Derek Watkins,John Barclay,Mike Lovatt,Simon Gardner,Tom Rees-Roberts,Bruce WhiteDeccaこのアイテムの詳細を見る |