詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

國峰照子「帽子屋」

2018-04-07 08:36:31 | 詩(雑誌・同人誌)
國峰照子「帽子屋」(「かねこと」13、2018年03月31日発行)

 國峰照子「帽子屋」は「帽子屋は言った」という一行からはじまる。

一日に五分でも日に当ててください
本来自然のなかの生きものですから

 なるほど。でも、こういう強い思い入れは、「うさんくさい」。「本来自然のなかの生きものですから」の「……ですから」は「理由(根拠)」を指し示す。「うさんくささ」は「論理」で説明するからである。
 私は、こういう「論理」を口にする帽子屋からは帽子を買わないだろうなあ。
 そのあと、こうも言う。

帰宅後はかならずブラシをかけてやってください

 これは、いいなあ。「ブラシをかける」という行動が具体的なので、そこに生きている人間が見える。「かならず」には愛情がこもっている。こういうことを言われると、帽子を買う気になる。
 「商売」は「ことば」しだいだね。

行き先は帽子の気分しだい
坂を下りるときまって帽子屋の前を通る
ブラインドの隙間から伺うような眼
わたしの右手がHiと鐔をあげる
そうしたいからでなく
帽子がさせるのだ

 「帽子」と「わたし」が入れ代わる。
 ここがおもしろい。
 「帰宅後はかならずブラシをかけてやってください」を守った結果、そうなったのだろう。「かならず」は「坂を下りるときまって帽子屋の前を通る」の「きまって」ということばに引き継がれている。
 「かならず」は「決める」ことで「気分」になる。「気分」が生まれる。この「気分」は「帽子」と「わたし」のあいだで共有される。こういうことを「一体になる」ともいう。





*


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目次

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石毛拓郎「藁のひかり」15  近藤久也「暮れに、はみ出る」、和田まさ子「主語をなくす」19
劉燕子「チベットの秘密」、松尾真由美「音と音との楔の機微」23
細田傳造『アジュモニの家』26  坂口簾『鈴と桔梗』30
今井義行『Meeting of The Soul (たましい、し、あわせ)』33 松岡政則「ありがとう」36
岩佐なを「のぞみ」、たかとう匡子「部屋の内外」39
今井義行への質問47  ことばを読む53
水木ユヤ「わたし」、山本純子「いいことがあったとき」56 菊池祐子『おんなうた』61
谷合吉重「火花」、原口哲也「鏡」63

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荒木時彦『NOTE 003』

2018-04-07 08:09:19 | 詩集
荒木時彦『NOTE 003』(2018年04月01日発行)

 荒木時彦『NOTE 003』は薄い詩集だ。

bは、仕事帰りにコンビニエンスストアのイート・インで晩御飯を食べることにしていた。ゴミもその場で捨てられる上、一度食べて足りなければ、また買い足して食べればよい。効率が良く、便利だ。

 この部分を何度も読み返してしまった。「コンビニエンスストア」という言い方に、妙に、力がある。「コンビニ」と省略しない。
 この「省略しない」ことばが、そのあとのことばを動かしている。
 「ゴミもその場で捨てられる上」というのは、食べることからみると「逸脱」である。なくてもいいことばだ。腹が減っているから食べる。食べても足りなかったら、また食べる、ということとは無関係である。
 だが、無関係のはずの「ゴミ」と「捨てる」が、「効率が良く、便利だ。」へとしっかりとつながっていく。
 たしかに家で食べれば、ゴミをどこに捨てるか(いつ捨てるか)という問題が起きてしまう。コンビニを利用すれば、そこには「ゴミ」を「捨てる」場所がある。即座にそれを利用できる。「効率が良く、便利だ。」

 うーむ。

 私は考え込んでしまう。
 この詩集は、実は、

何が大切だったのだろうか?

 という一行ではじまっている。
 実際、何が大切だったのだろうか。
 食べることか、ゴミをその場で捨てることか。
 主題(テーマ)は「食べる」ことにあるように見えるが、「生きる」ということはテーマだけ成り立っているのではない。何を食べるかよりも、食べるときに出る「ゴミ」をどうするか、いつ、どこへ捨てるかの方が、もしかすると荒木を悩ましているのかもしれない。
 「食べる」を選びながら、どこかで「ゴミを捨てる」ということも選んでいる。
 どんなことでも、ことばにしてしまうと、思いがけない動きをする。


*


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