詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

自民党改憲案(3)

2018-04-09 12:03:22 | 自民党憲法改正草案を読む
自民党改憲案(3)
             自民党憲法改正草案を読む/番外203(情報の読み方)

 「参院選合区の解消」問題。
 現行憲法は、

第47条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

 と単純である。
 これを自民党は、こう変更する。(1)(2)は、私が便宜上つけた。

第47条 1項 両議院の議員の選挙について、(1)選挙区を設けるときは、人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案して、選挙区及び各選挙区において選挙すべき議員の数を定めるものとする。(2)参議院議員の全部又は一部の選挙について、広域の地方公共団体のそれぞれの区域を選挙区とする場合には、改選ごとに各選挙区において少なくとも一人を選挙すべきものとすることができる。
2項 前項に定めるもののほか、選挙区、投票の方法、その他両議院の議員に関する事項は、法律でこれを定める。

 「2項」は現行憲法を踏襲している。というか、現行憲法の条文は「2項」に押し下げられている。
 「1項」が重要なのだが、条文が長すぎて、意味がわかりにくい。
 (1)はは、どういうことか。
 現実の衆院選と参院選にあてはめてみると、わかりやすい。
 衆院選。「一票の格差」を是正するために、「市区町」という「行政区域」がそのまま「一つの選挙区」とはなっていないところがある。福岡市の場合、たとえば「福岡2区」はかつては中央区・南区・城南区の全域となっていたが、南区の一部が5区へ、城南区の一部が3区へ移動した。つまり、「行政区域」が一部で「分断」された。これを「やめる」ということ。
 参院選。鳥取県と島根県、徳島県と高知県では「県単位」の選挙区ではなく、ふたつの県が合わさって一つの選挙区になった。これを「やめる」。
 (2)で、さらに補足して、「都道府県単位」で最低一人以上の議員を選出できるようにしている。
 これは、どういう狙いがあるのだろうか。
 「一票の格差」が少しだけ改善されたのだが、それをもとに戻してしまうことになる。国民の「法の下の平等」がないがしろにされる。国民が訴訟を起こし、司法が現行の選挙制度は一票の格差を生み、「違憲」であるという判断を示した。その結果、やっと少し改善されたのに、それをもとに戻してしまう。
 なぜか。
 自民党の議席を確保するためである。参院選の「合区」が端的に示している。それまでは「鳥取県、島根県、徳島県、高知県」でひとりずつ、計四人議員が選ばれたのに、この制度では合計二人になってしまう。二人減になる。
 でも、議員数の確保だけではない。
 それは(1)の市区町の行政区域の「分割」を解消するという部分にあらわれている。なぜ行政区域の「分割」がまずいのか。「行政区域」ごとに国民を支配するという「制度」が揺らぐからだ。言い換えると、「行政区域」ごとに国民を支配する(独裁をおしつけるシステムを強化する)ためなのだ。
 「衆院選福岡2区」を例にとると。たとえば南区にある「法令」が適用されたとする。そのとき、「私は南区の住民だが、選挙区は2区だから南区に適用される法令は関係ない」と主張するということが起きるかもしれない。これでは「統制」がとれない。そういうことを避けるためである。
 
 だから、というか。その「証拠」に、というべきか。
 「合区の解消」を「名目」にしながら、憲法の改正は「47条」だけではなく、さらに別の狙いへ向けて動く。「47条」は「第4章 国会」のなかの条文だが、この改正が「第8章 地方自治」の「92条」にまで波及している。
 なぜなのか。

 現行憲法は、

第92条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

 と短い。これが、こう変わる。

第92条 地方公共団体は、基礎的な地方公共団体及びこれを包括する広域の地方公共団体とすることを基本とし、その種類並びに組織運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。

 「基礎的な地方公共団体」というのは「市区町」のこと、「広域の地方公共団体」というのは「都道府県」を指している。「行政区域」と「選挙区域」を合致させるために、「地方公共団体」を定義し直しているのである。
 そして、このとき、その「広域の地方公共団体(都道府県)」を定義するのに「包括する」ということばが挿入されていることを見落としてはならないと私は考える。
 「包括する」は、すぐに「統括する」にかわる。上下関係ができる。
 地方自治では、いま「分権」が進んでいるが、これに逆行することが、これから起きるのだ。「分権」ではなく「権力の統合」が再編成される。安倍の独裁を強めるためである。
 「合区が解消される」「分割がなくなる」というだけでみつめてはいけない。
 司法判断にもとづいて、国会で決めた「合区」「分割」を否定し、権力の都合でもとに戻してしまう。そこに、すでに「独裁」が動いている。憲法で決めたのだから、「一票の格差は違憲だ」と訴訟を起こすことは許さない、という「独裁」が動いている。

 「合区の解消」という「名目」にだまされてはいけない。「名目」の陰で陰謀が動いている。47条改正を前面に出して、92条の改正についてはなるべく触れないようにしている。それこそが「狙い」だからだ。


#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


*

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憲法9条改正、これでいいのか 詩人が解明ー言葉の奥の危ない思想ー (これでいいのかシリーズ)
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井崎外枝子『出会わなければならなかった、ただひとりの人』

2018-04-09 07:38:04 | 詩集
井崎外枝子『出会わなければならなかった、ただひとりの人』(草子舎、2017年12月01日発行)

 井崎外枝子『出会わなければならなかった、ただひとりの人』の「さみしい椅子」は静かな詩である。

その人を座らせた記憶に
椅子は向かい合っているようだ
テーブルには
その人の読みかけのページがめくられたまま
椅子だけが その人の身体の形をして待っている
たがいに長年 寄り添い 支え合った
その記憶が 椅子のいまのすべてで
椅子はただ その人を待っている

 「その人の身体の形をして待っている」は、椅子に「その人」の形が残っている。たとえば座面(クッション)がへこんでいるということだろう。具体的な描写である。しかし、同時にそれは椅子に託した井崎の「身体」の比喩でもある。このときの「身体」とは単に「肉体」ではなく「精神」をも含んでいる。
 椅子にその人が座っていた、と井崎は思い出している。その椅子に井崎は向かい合っている。そのとき椅子はその人である。
 椅子は井崎であり、その人であり、また椅子そのものでもある。以前は椅子は椅子であり、その人はその人であり、井崎は井崎だったが、いまはその区別がない。その人がいないために、三つの存在は三つではいられなくなり「ひとつ」になっている。
 「ひとつ」だからさみしいのか。
 「ひとつ」だけれど、瞬間瞬間に椅子になり、その人になり、井崎にもなる。三つになる。
 三つにわかれてしまうから、さみしいのか。
 両方である。
 三つは、さらにいくつもに分かれていく。

布地の汚れややぶれ
ささくれ立ちまで顕にし
椅子は 毛羽だった顔をして
じっとその人を待っている
ページを開くものは もういない
次のページすら めくることはできない
色とりどりの付箋もアンダーライン一本さえ引けない
椅子はただじっと見ている

 「その人」は本のページになり、付箋になり、アンダーラインになる。本のページから、付箋から、アンダーラインから「その人」があらわれてくる。それを「椅子」も井崎も知っている。
 この「さみしさ」は「カップ一杯の…」と言い換えられている。

ようなものだった
なのに 一杯は
何をもってきても
釣り合わないのだ
まるで底しれぬ谷か
山のような険しさで

 「釣り合わない」。「その人」と「椅子」は釣り合わない。けれども入れ代わる。釣り合うものがない、正確な比喩(?)にはならない。言い換えがきかない。けれども、「言い換え」を求めてしまう。探してしまう。「こころ」が「釣り合い」をとろうとして。


*


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目次

森口みや「コタローへ」2  池井昌樹『未知』4
石毛拓郎「藁のひかり」15  近藤久也「暮れに、はみ出る」、和田まさ子「主語をなくす」19
劉燕子「チベットの秘密」、松尾真由美「音と音との楔の機微」23
細田傳造『アジュモニの家』26  坂口簾『鈴と桔梗』30
今井義行『Meeting of The Soul (たましい、し、あわせ)』33 松岡政則「ありがとう」36
岩佐なを「のぞみ」、たかとう匡子「部屋の内外」39
今井義行への質問47  ことばを読む53
水木ユヤ「わたし」、山本純子「いいことがあったとき」56 菊池祐子『おんなうた』61
谷合吉重「火花」、原口哲也「鏡」63

谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(下)68


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母音の織りもの―井崎外枝子詩集 (北陸現代詩人シリーズ)
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