詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

後藤光治『松山ん窪』

2018-04-10 11:26:28 | 詩集
後藤光治『松山ん窪』(鉱脈社、2018年03月01日発行)

 後藤光治『松山ん窪』は、「宮崎抒情詩」の系列の作品である。一括りにしてはいけないのだが、古くは菱田修三、嵯峨信之、最近なら本多寿、杉本昭人、谷元益男。ただし、嵯峨と本多とのあいだには完全な断絶がある。いま書かれているのは「新・宮崎抒情詩」というものかもしれない。
 宮崎にはもうひとり、みえのふみあきという忘れられない詩人がいる。私は、みえのふみあきの作品がとても好きだ。みえのふみあきは、彼らのなかではかなり異色だ。「新・宮崎抒情詩」には、属さない。
 宮崎弁(すべてではないが)は、独特のイントネーションがある。でも、不思議なことに「新・宮崎抒情詩」に限らないが、「書きことば」では「方言」が気にならない。他県の人の詩は、どこかでつまずくが、彼らの詩ではつまずかない。「音」が読みやすい。それで、私はついついひとくくりにしてしまう。

 「新・宮崎抒情詩」は「現代詩」とは距離をおいている。「いま」、ここに書かれている生活があるとは、私には思えない。
 たとえば後藤の「枯れ枝」。

女たちは
雑木林へ分け入った
木立をかき分けて行くと
枯れ枝の折れる乾いた音がした
厳しい生活のなかで
女たちは
竈や風呂の焚き木には
鉈を揮って枯れ木を集め
山の斜面を下りた

 「記憶」の風景だろう。
 「枯れ枝の折れる乾いた音がした」という一行に「宮崎抒情詩」の特徴があらわれている。こういう行は好きだ。
 一方、「厳しい生活」という表現にも、一種の「くせ」のようなものがある。「厳しい」ということばがなくても「厳しい」はわかるはずなのだが、念押しのように書いてしまう。そこに、ざらっとした理性というが、突き放したような冷たさを私は感じ、私はどうしても好きになれない。
 ついつい「竈や風呂の焚き木」なんて、「いま」では「贅沢」に属する。高齢化が進む「限界集落」では、ガスや電気がないと生きていけない。雑木林へ入ったら、老人はもう出てこれない、というようなことを言いたくなってしまう。
 でも、この詩を取り上げてしまうのは。

先日 僕は
あの頃の山に分け入った
母と来た場所に来ると
どの木も
母が鉈を揮う恰好をしていた
そして風が
枯れた木立の中を
溜息のように吹いていた

 「母が鉈を揮う恰好をしていた」が、とてもおもしろい。木そのものが鉈を揮うときの母親の形をしていたのか。そうではなくて、母ならば、その枯れ木に鉈を揮うだろう、その木を伐って薪にするだろう、ということだと思う。鉈を揮うのにふさわしい(?)木の形だろうと、私は「誤読」し、おもしろいと感じた。
 母と枯れ木が瞬間的に入れ代わる。なぜ入れ代わるか、入れ代わることが可能かというと、母と枯れ木は、枯れ木をたたききって薪にするという「暮らし」のなかで「一体」になっているからだ。区別がないのである。
 だからこそ書くのだが。
 「溜息のように」という比喩は、私には納得がいかない。「厳しい生活」ということばの「厳しい」と同じように、「世界」を突き放している。自分とは関係がないもののようにみつめている。実際に、そういう「暮らし」をしていると、「厳しい」ということば思いつかない。
 山に入る。切れない鉈で必死になって枯れ木をたたききる。つかれる。息があがる。それこそ、終わったころには「溜息」が出ると「想像」してしまうが、私の実感では違うなあ。溜息というよりも「安堵」である。あ、これで竈の火が炊ける、きょうは風呂に入ることができる。それは「うれしさ」である。
 ひとは誰でも、つらく苦しい「暮らし」を生きている。けれど、それを「他人」には言われたくない。たとえ、それが「母子」の関係であっても。いや、「母子」の関係なら、なおさらそうである。母なら、溜息をつくかわりに、「おまえも良くがんばったね。きょうはこれで風呂が焚けるよ」と言うのではないか。
 本多からはじまった、この「架空の山村物語」は、「架空」独特の美しさをもっているが、貧乏な生活をくぐり抜けてきた私には、何か、むかっ腹がたつところがある。



*


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目次

森口みや「コタローへ」2  池井昌樹『未知』4
石毛拓郎「藁のひかり」15  近藤久也「暮れに、はみ出る」、和田まさ子「主語をなくす」19
劉燕子「チベットの秘密」、松尾真由美「音と音との楔の機微」23
細田傳造『アジュモニの家』26  坂口簾『鈴と桔梗』30
今井義行『Meeting of The Soul (たましい、し、あわせ)』33 松岡政則「ありがとう」36
岩佐なを「のぞみ」、たかとう匡子「部屋の内外」39
今井義行への質問47  ことばを読む53
水木ユヤ「わたし」、山本純子「いいことがあったとき」56 菊池祐子『おんなうた』61
谷合吉重「火花」、原口哲也「鏡」63

谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(下)68


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「正しい王道」の選挙とは?

2018-04-10 09:59:03 | 自民党憲法改正草案を読む
「正しい王道」の選挙とは?
             自民党憲法改正草案を読む/番外204(情報の読み方)

 2018年04月10日の読売新聞(西部版・14版)の政治面に小さな記事がある。

 「安倍辞めろ」ヤジ/首相「選挙妨害だ」/昨年の都議選

 民進党・大島九州男の質問に対して、昨年の都議選で安倍が街頭演説中、市民が「安倍辞めろ」と野次を飛ばしたことに対して「選挙妨害だ」と答えた。さらに、

「候補者の話を聞いて判断するのが選挙だ。正しい王道の選挙を戦いましょうということを訴えた」と強調した。

 大島がこの答えに納得したのかどうか書いていない。
 即座に大島は反論しないといけない。

 「候補者の言っていることが事実に基づいているかどうか判断するには、その裏付けとなる資料が必要である。昨年春の森友学園、加計学園、自衛隊日報の問題以来、国民には正確な資料が(情報)が提供されていない。情報は隠されたままだ。都議選、秋の参院選は正しい王道の選挙だったと言えるのか」

 予算委で、大島がどういったのか政治面の記事には書いていないが、絶対に、そこから追及すべきだ。
 参院選は、加計学園問題を審議するのを避けるために、臨時国会が冒頭解散されて行われた。加計学園と安倍の関係を隠蔽するために行われた。
 昨年の国会をそのまま繰り返しているように、いまの国会では森友学園の文書改竄が取り上げられ、つづいて自衛隊日報が取り上げられている。加計学園でも「文書改竄」がおこなわれたことが一部で報道されている。今後、国会のテーマになるかもしれない。
 昨年、「正しい情報」が提供されていたなら、こんな二度手間みたいな審議は必要はない。安倍が「正しい情報」を提供しなかったことが、すべての原因である。

 「正しい情報」を提供せずに、「候補者の話を聞く」というのでは、候補者の嘘を信じろということである。安倍の話を黙って聞いて、黙って従えということである。
 安倍は常に、反対意見を封じ込める。私は、これを「沈黙作戦」と呼んでいる。安倍以外の人間に沈黙を強要し、従わせる。独裁である。その際に、「あんな人たち」と「安倍の友だち」を選別する。「あんな人たち」を排除する。しかし、「あんな人たち」と排除した人間からも税金をとるのが、安倍なのである。


#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


*

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松井久子監督「不思議なクニの憲法」上映会。
2018年5月20日(日曜日)13時。
福岡市立中央市民センター
「不思議なクニの憲法2018」を見る会
入場料1000円(当日券なし)
問い合わせは
yachisyuso@gmail.com

憲法9条改正、これでいいのか 詩人が解明ー言葉の奥の危ない思想ー (これでいいのかシリーズ)
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