詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

神原芳之「石蕗の花」「泰山木」

2018-04-14 09:26:28 | 詩(雑誌・同人誌)
神原芳之「石蕗の花」「泰山木」(「午前」13、2018年04月15日発行)

 神原芳之「石蕗の花」は、さっと書かれたことばが、強い印象を残す。

人生の十一月に入り 石蕗の花を意識した
金木犀の香りが消え 紅葉の華麗な彩りが
静かに褪せ 小春日和に君臨した柿の実も
鳥に突つかれて姿を崩してしまったあとに
少し濁りの入った黄色い花びらが輪を開く
香りも彩りもほかの花と競う気は見えない
庭が素面になったのを見て長い首を伸ばす

 「人生の十一月」は「意味」がありすぎる。それが「意識」ということばを誘っている。これはこれでわかるけれど、押しつけ、という感じもする。「華麗」や「君臨」ということばも私は好きではない。
 しかし、そのあとの石蕗の具体的な描写は美しい。
 「少し濁りの入った」ということばは深くて強い。「濁る」と「入る」。「入る」は書き出しの「十一月に入り」にもあって、その「動詞」の重なりが、「人生の十一月」と「濁り」を重ねる。「少し濁りが入った」と神原は自分の人生を「比喩」にしている。そして、そこから石蕗に生きる祈りを重ねていく。
 「競う気は見えない」は、神原自信が「競う」という気持ちを放棄しているから、石蕗がそう見えるということ。
 「素面」になったのは「庭」だが、そこに咲く石蕗もまた「素面」の美しさである。「少し濁りが入って」いるが、それを隠さない。むしろ、そのまま見せる。庭と石蕗は重なり合っている。その重なりの中から、「首を伸ばす」。自己主張する。「伸ばす」という動詞が、少しだけ「競う気」を刺戟する。「競う」という明確な「気持ち」はないけれど、「生きる」ということは何かを突き破って進むこと。
 他人と競うのではなく、自分自身と競う、自分の乗り越える、と読めばいいのかもしれない。まだ「十一月」、まだ「一か月」も残っている。

 「泰山木」も開花を描いている。

ミシシッピーの平坦な沃野にただよう
艶やかな南部の大気が香ってくる
毛皮のような花びらで蕊を包みながら
硬い守りの盾のあいだから 眼下で
満開を謳歌する紫陽花たちの賑わいに
物憂いまなざしをそっと投げかける

 「投げる」という動詞に深みがある。「投げる」は「放る」、つまり「放す」でもある。何かを手放し、捨てるのだ。
 「投げかける」の「かける」には、自己を何かに「たくす」(任せる、預ける)の意味もある。捨てながら、それを他者に託す。そういう「複雑性」がここにはある。
 何を捨て、何を託すのか。
 神原は最終行で言いなおしているが、私はあえてその一行を省いて引用した。言いなおさなくても、十分に言い尽くしている。
 言わない方が、言い尽くすということもある。





*

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自民党憲法改正案(4)

2018-04-14 00:00:00 | 自民党憲法改正草案を読む
自民党憲法改正案(4)
             自民党憲法改正草案を読む/番外208(情報の読み方)

 自民党の「緊急事態対応」は、非常にわかりにくい。
 ふたつの部分からなっている。「国会に関する4章の末尾に追加」と「内閣の事務を定める73条の次に追加」である。
 現行憲法と「追加条項」をつづけて読んでみる。

(現行憲法)
第64条 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
2 弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。
(追加部分)
 64条の2
 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又(また)は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認めるときは、国会は、法律で定めるところにより、各議院の出席議員の三分の二以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。

 これは、何度読んでも「つながり」が悪い。
 64条は「弾劾裁判」に関する条項だ。趣旨は、日本は「三権分立」制度を採用しているが、だからといって「裁判官」の「独断」を許しているわけではない。国会でコントロールできるようにしている。そのことを定めているのが64条である。
 このあとに、「大規模災害」のときには選挙を省略し、衆院、参院両議院の任期を延長できるというのは、どうもおかしい。
 「司法」をコントロールするという条項の後に、国会議員の任期延長を置くのはなぜなのか。その前に書かれている「大地震その他の異常かつ大規模な災害」のなかに「司法」を含んでいるためではないのか。つまり、「司法」が政府(安倍)にとって不都合な判断を下す。これを「異常な大災害」であるとみなし、不都合な判断を下した裁判官を国会で弾劾してしまう、ということが狙われているのでではないのか。
 たとえば、「一票の格差は違憲である」という判断は、安倍が狙ってる「参院選の合区解消」とは真っ向対立する。一票の格差を残したままの選挙は「違憲」であると判断され、その結果、1県に1議席はかならず確保できた自民党の議席がなくなるというのは、自民党にとっては「異常な災害(人災、司法による災害)」である。
 「大地震その他」の「その他」を見落としてはいけない。
 この項目は、「合区解消」(参院選の選挙区は都道府県単位)という項目と連動して読み直さなければいけない。
 もし「任期」に関しての「改正」というのなら、現行憲法の45条、46条の後の方が「論理的」に読むことができる。
 現行憲法は、こうなっている。

第45条 衆議院議員の任期は、4年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
第46条 参議院議員の任期は、6年とし、3年ごとに、議員の半数を改選する。

 「任期延長」だけが問題なら、「任期」について書いてある条項のあとにつけるべきである。それを避けて、「弾劾裁判」のあとにつづけているのは、「大災害」として想定されているものが、「大地震」などの「自然災害」ではないからだ。
 政府(安倍)の判断に異議を唱えるものは、すべて「災害」と認定し、それを弾圧する。「独裁」がここでも隠されている。
 これを「補強」するのが、

各議院の出席議員の三分の二以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。

 という部分である。「任期」は「特例」として、どこまでも延長できる。
 安倍に異議を唱えるもの、独裁反対を叫ぶ人間がいなくなるまで、安倍の言いなりの自民党議員が国会を支配する。

 73条の方は、どうか。

(現行憲法)
第73条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によっては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。

(追加部分)
73条の2
 1項 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
 2項 内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。

 ここでも「問題」は「法律」なのだ。
 政府は裁判所が「違憲」と判断しないかぎり、法律にもとづき行政を執行できる。しかし、「違憲」は判断されたときは、その執行ができない。
 参院選の「一票格差」は「違憲」と判断された。だからなんとかして憲法を変えないと「合区」は解消できない。「合区」は国会で法律を制定し実施したものだが、もし「合区解消案」が承認されなくても、「73条の2 その1項」によって強引に「合区」を解消できる。「都道府県ごとに1人の議員が選ばれないのは異常な事態である」と判断すれば、政令を制定できる。「政令」では選挙はできないと言うかもしれないが、それをやってしまうのが安倍である。「合区された都道府県民の生命、身体及び財産を保護するため」と言ってのけるだろう。
 多くの人が指摘しているように「大地震その他の異常かつ大規模な災害」の「その他」が具体的に明示されていないのも非常に問題である。
 安倍退陣を要求し、国会前で大規模なデモが行われたとする。これも「定義」しだいでは「異常かつ大規模な災害」と言うことができる。デモ隊が車道にあふれ、車が通行できない。これは「異常事態(災害)」であると言えるし、「安倍が批判される」ということ事態が「異常な大規模災害」と言うこともできる。安倍にとって「打撃」だからである。あらゆることが「恣意的」に判断され、取り締まられる。
 「2項」は内閣による「政令」の乱発、恣意的な発令に歯止めをかけているように見えるが、そのときの「国会」は自民党によって支配されているから、単なる「追認」にすぎない。
 現行憲法では「政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない」という文言があるが、追加されたその文言がない。同じ「政令」であっても、平常時の「政令」と緊急事態時の「政令」は違うから、「罰則は可能」という「読み方(解釈)」もできる。すでに安倍が、憲法を独断で「解釈」するということが起きている。新しい「政令」にはきっと「罰則」がついていて、国民の自由はなくなる。「独裁」が加速する。

 憲法は権力の暴力を許さないためのものである。
 「改憲案」は権力の暴力についてどんな歯止めをかけているか、という点から読まないといけない。「独裁」を封じるために、どういう文言をつかっているか、そこから読み直さないといけない。
 安倍が主導している「改憲案」には権力に対して制限を加える項目はどこにもない。
 「内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない」は歯止めに見えるが、歯止めとしては働かない。このときの国会は、勝手に任期を延長した国会であり、そこには安倍の独裁に支配された議員しかいないからだ。
 どんなふうに「独裁」を支えるための罠が隠されているか、それを探しながら読まないといけない。




#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


*

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松井久子監督「不思議なクニの憲法」上映会。
2018年5月20日(日曜日)13時。
福岡市立中央市民センター
「不思議なクニの憲法2018」を見る会
入場料1000円(当日券なし)
問い合わせは
yachisyuso@gmail.com


憲法9条改正、これでいいのか 詩人が解明ー言葉の奥の危ない思想ー (これでいいのかシリーズ)
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