ルーシー・ウォーカー監督「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」(★★)
監督 ルーシー・ウォーカー 出演 キューバの音楽家たち
映画はむずかしいなあ。映画で「見る」のは何なのだろうか。前作は、キューバで生きつづけた音楽の力をなまなましく伝えていた。私は音楽には疎いので、キューバの音楽のことは何も知らなかった。だから、とてもおもしろかった。年をとっても音楽を生きている姿がかっこよかった。
今回は、続編。もう死んでしまった人もいる。もちろん、その人たちの映像もある。でも、最後まで音楽といっしょに生きようとしている。
それはそれで感動的なのだが。
実は、いちばん興味深かったのは、音楽のシーンではない。オバマ大統領の発言だ。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」がホワイトハウスに招かれて、演奏をする。そのときオバマは20年前に彼らのCDを買った、というようなことを言う。そのとき「いまの若い人は知らないかもしれないけれどCDというのは丸い盤で……」。
あ、そうなんだ。いまは音楽の媒体はもうCDではないのだ。(もちろんレコードでもない。)ネットでダウンロードする音源が主流なのだ。「もの」はどこにもなく、情報だけがある。
これは、考えれば恐ろしい。
それよりも、このオバマのことばを聞いた瞬間、私がなぜこの映画にのめりこめないかがわかった。
音楽は、その音楽が実際に演奏されている「場」で体験しないと音楽にならないのだ。映画はさまざまなライブを再現してくれる。でも、それは、どうもスクリーンの外にまではみ出してこない。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のメンバーが音楽を生きているということは「頭」ではわかるが、どうも「実感」として感じることができない。遠いのだ。音楽というよりも、「情報」として見てしまう。こういう老人がいる。まだツアーをやっている……。
うーむ。
私は最近は音楽をまったくといっていいくらいに聞かない。街では若者が(そしてかなりの年配の人も)イヤホンで音楽を聞いている。私もiPodを持っていたが、あれで音楽を聞いて以来、どうも音楽になじめなくなった。音の善し悪しを聞き比べる耳をもっていないので、音質が気に食わないとかそういうことをいうつもりはない。ただ、耳をふさいで、音楽だけを聞くという感じが「肉体」にあわない。どうも楽しめない。聞いて何をしてるんだろう、と感じてしまう。何のために聞いているのか。こういう曲があるという「情報」のために聞いている気がしてきたのだ。
あらゆるものが「情報」といえば「情報」になるのだが、それが気に食わない。「情報」以外のものがほしいなあと思う。
思えばCDができたころから、妙だったなあ。レコード(LP)は針を落とすときぽつんとノイズが入る。LPの途中の曲を聞くときは、針を正確に落とすのに気をつかう。そこには何か「肉体」がかかわるものがあった。CDはスイッチ、リモコンを押す指くらいしか「音楽」に参加しない。便利といえば便利なのだが、あのころから私は違和感を感じ始めていたのかもしれない。
あ、話がずれてしまったかなあ。
この映画も、何と言うのか、その後の「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」はどうなった?という「情報」を伝えることに終始している感じがする。
「情報」をおもしろく感じないのは、「情報」は操作されている、という思いが強いせいなのか。
(2018年08月08日、KBCシネマ2)
*
「映画館に行こう」にご参加下さい。
映画館で見た映画(いま映画館で見ることのできる映画)に限定したレビューのサイトです。
https://www.facebook.com/groups/1512173462358822/
監督 ルーシー・ウォーカー 出演 キューバの音楽家たち
映画はむずかしいなあ。映画で「見る」のは何なのだろうか。前作は、キューバで生きつづけた音楽の力をなまなましく伝えていた。私は音楽には疎いので、キューバの音楽のことは何も知らなかった。だから、とてもおもしろかった。年をとっても音楽を生きている姿がかっこよかった。
今回は、続編。もう死んでしまった人もいる。もちろん、その人たちの映像もある。でも、最後まで音楽といっしょに生きようとしている。
それはそれで感動的なのだが。
実は、いちばん興味深かったのは、音楽のシーンではない。オバマ大統領の発言だ。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」がホワイトハウスに招かれて、演奏をする。そのときオバマは20年前に彼らのCDを買った、というようなことを言う。そのとき「いまの若い人は知らないかもしれないけれどCDというのは丸い盤で……」。
あ、そうなんだ。いまは音楽の媒体はもうCDではないのだ。(もちろんレコードでもない。)ネットでダウンロードする音源が主流なのだ。「もの」はどこにもなく、情報だけがある。
これは、考えれば恐ろしい。
それよりも、このオバマのことばを聞いた瞬間、私がなぜこの映画にのめりこめないかがわかった。
音楽は、その音楽が実際に演奏されている「場」で体験しないと音楽にならないのだ。映画はさまざまなライブを再現してくれる。でも、それは、どうもスクリーンの外にまではみ出してこない。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のメンバーが音楽を生きているということは「頭」ではわかるが、どうも「実感」として感じることができない。遠いのだ。音楽というよりも、「情報」として見てしまう。こういう老人がいる。まだツアーをやっている……。
うーむ。
私は最近は音楽をまったくといっていいくらいに聞かない。街では若者が(そしてかなりの年配の人も)イヤホンで音楽を聞いている。私もiPodを持っていたが、あれで音楽を聞いて以来、どうも音楽になじめなくなった。音の善し悪しを聞き比べる耳をもっていないので、音質が気に食わないとかそういうことをいうつもりはない。ただ、耳をふさいで、音楽だけを聞くという感じが「肉体」にあわない。どうも楽しめない。聞いて何をしてるんだろう、と感じてしまう。何のために聞いているのか。こういう曲があるという「情報」のために聞いている気がしてきたのだ。
あらゆるものが「情報」といえば「情報」になるのだが、それが気に食わない。「情報」以外のものがほしいなあと思う。
思えばCDができたころから、妙だったなあ。レコード(LP)は針を落とすときぽつんとノイズが入る。LPの途中の曲を聞くときは、針を正確に落とすのに気をつかう。そこには何か「肉体」がかかわるものがあった。CDはスイッチ、リモコンを押す指くらいしか「音楽」に参加しない。便利といえば便利なのだが、あのころから私は違和感を感じ始めていたのかもしれない。
あ、話がずれてしまったかなあ。
この映画も、何と言うのか、その後の「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」はどうなった?という「情報」を伝えることに終始している感じがする。
「情報」をおもしろく感じないのは、「情報」は操作されている、という思いが強いせいなのか。
(2018年08月08日、KBCシネマ2)
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