中村不二夫「川の名前」(「みらいらん」5、2020年01月15日発行)
中村不二夫「川の名前」の一連目。
抽象と具象が交錯する。抽象の方が強いかもしれない。中村は副題に川の名前を書いてる(私はあえて紹介しない)から、名前を知っている。しかし、それを「だれも知らない」と否定で語る。そこには強い抽象指向がある。「具象」であるけれど、それを「抽象」として語ることで、「個別」を「永遠」に変えたい、「真理」に変えたいという思いがあるのかもしれない。
詩の多くは、そういうものを意図している。
私は、しかし、実はこういう「意図」(作為)は好きではない。いかにも「詩」という感じがして、なじめない。
しかし、この詩の6行目、「呼吸」ということばで、私はこの詩が好きになる。「命」は抽象的だし、さらに「命の色」になるともっと抽象的だが、呼吸は「肉体」的だ。「呼吸」という名詞は「呼吸する」という動詞にかわり、私の「肉体」に響いてくる。「呼吸する」とき肉体(胸)は膨らみ、また凹む。起伏する。あるいは「息」が喉をとおり、音をたてる。「川」が「肉体」のように「うねる(起伏する)」のが見える。「川」が「肉体」になったのか、「肉体」が「川」になったのか。
ここも抽象的といえば抽象的だが、「光を拾う」が強くて美しい。「石を洗う」「岩を押す」というのは川の水でなくても、つまり私の「肉体」でもできる。しかし、「光を拾う」はどうか。手のひらで光を受け止めることはできる。しかし、それは「拾う」とは違う感じがする。だいたい「水」が「光を拾う」とはどういうことか。単に受け止めるのではなく、逆に「反射する」という動きがあると思う。「ひろう」は、いわば、ふつうのことばとは違うつかい方がされている。
ここには「肉体」を超越する運動が、あたかも「肉体」でもできるかのように書かれている。
この瞬間、私の「肉体」は拒絶され、同時に、絶対的な「力」(運動)が存在することを知らされる。こういう瞬間も、私は好きだ。あ、ここからほんとうの詩が始まる、と実感できる。
詩は、「絶対的存在」を指し示したあと、その「絶対」を言い直す。
「川(の水)」は「絶対」の「光」を拾う。しかし、人間は人間の「影」を拾う。それは記憶するためにである。自分自身の「肉体」のなかへ「反射」させるためである。この「影」を呼び言い方にはいろいろある。「命」もそのひとつだが、私は、ここでは「呼吸」ととらえておきたい。
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中村不二夫「川の名前」の一連目。
その川の名前をだれも知らない
川の時間はだれの目にも見えない
同じような流れでも同じではない
たえず人の命が流れて行っているのだ
一人一人 違う命の色が流れている
姿は見えないが 川の呼吸で分かる
人よ 昨夜見た夢を川の流れに語れ
抽象と具象が交錯する。抽象の方が強いかもしれない。中村は副題に川の名前を書いてる(私はあえて紹介しない)から、名前を知っている。しかし、それを「だれも知らない」と否定で語る。そこには強い抽象指向がある。「具象」であるけれど、それを「抽象」として語ることで、「個別」を「永遠」に変えたい、「真理」に変えたいという思いがあるのかもしれない。
詩の多くは、そういうものを意図している。
私は、しかし、実はこういう「意図」(作為)は好きではない。いかにも「詩」という感じがして、なじめない。
しかし、この詩の6行目、「呼吸」ということばで、私はこの詩が好きになる。「命」は抽象的だし、さらに「命の色」になるともっと抽象的だが、呼吸は「肉体」的だ。「呼吸」という名詞は「呼吸する」という動詞にかわり、私の「肉体」に響いてくる。「呼吸する」とき肉体(胸)は膨らみ、また凹む。起伏する。あるいは「息」が喉をとおり、音をたてる。「川」が「肉体」のように「うねる(起伏する)」のが見える。「川」が「肉体」になったのか、「肉体」が「川」になったのか。
川の水は光を拾う 石を洗う 岩を押す
何かを為すには なんの言葉もいらない
ここも抽象的といえば抽象的だが、「光を拾う」が強くて美しい。「石を洗う」「岩を押す」というのは川の水でなくても、つまり私の「肉体」でもできる。しかし、「光を拾う」はどうか。手のひらで光を受け止めることはできる。しかし、それは「拾う」とは違う感じがする。だいたい「水」が「光を拾う」とはどういうことか。単に受け止めるのではなく、逆に「反射する」という動きがあると思う。「ひろう」は、いわば、ふつうのことばとは違うつかい方がされている。
ここには「肉体」を超越する運動が、あたかも「肉体」でもできるかのように書かれている。
この瞬間、私の「肉体」は拒絶され、同時に、絶対的な「力」(運動)が存在することを知らされる。こういう瞬間も、私は好きだ。あ、ここからほんとうの詩が始まる、と実感できる。
詩は、「絶対的存在」を指し示したあと、その「絶対」を言い直す。
昨日 この川を静かに帰った友がいた
ぼくは川を帰った人たちの影を拾う
「川(の水)」は「絶対」の「光」を拾う。しかし、人間は人間の「影」を拾う。それは記憶するためにである。自分自身の「肉体」のなかへ「反射」させるためである。この「影」を呼び言い方にはいろいろある。「命」もそのひとつだが、私は、ここでは「呼吸」ととらえておきたい。
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「詩はどこにあるか」2019年12月の詩の批評を一冊にまとめました。
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(バックナンバーについては、谷内までお問い合わせください。)
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注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
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