三角みづ紀「パプリカミュージアム」(「現代詩手帖」2020年01月号)
三角みづ紀「パプリカミュージアム」はセルビアに滞在したときの詩である。三角は市場と出会う。彼女を引きつけたものはパプリカである。
池井の書いている「ほんとう」と重なるものを感じた。三角は「ほんとう」とは書かずに「みんな同じ」と書く。「根源」という意味である。そして、それは「一」という意味でもある。
根源は「一」。そこからさまざまなものが生まれてくる。それら違って見える。「すき」に見えるときもあれば、「すきじゃない」に見えるときもある。池井は、その区別を、区別がないところまでさかのぼって、そこから「すき」を選びとって、「ひらく」という動詞になってほしいと呼びかけていた。
三角は、あるひとはたまたま「ニイハオ」という挨拶になり、三角は「こんにちは」という挨拶になるが、根源はひとにであったら挨拶するという「ひとつ」の運動であることを知る。そしてその「ひとつ」を「ひとり」ととらえなおす。「ひと」ととらえなおす。この根源としての「一」からは、もちろん「ボン・ディア(ブエノス・ディアス)」としいさつする「ひとり」も生まれてくる。
そして、私が最後に書いた「ひとり」はスペインの土地ともつながる。「みんな同じ」は「ひと」だけではないのだ。パプリカも土地も同じ「一」から生まれてくる。だからこそ三角は、
と書くのだが、これは土地の赤がパプリカの赤に結実しているということと同じである。すべては往復する。あるいは循環する。というよりも、「一」(ほんとう)のなかへ帰りながら、ふたたびかたちあるものとして生まれなおす。
この最初の一歩を三角は「返す」という動詞で肉体にしみこませている。思想にしている。
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三角みづ紀「パプリカミュージアム」はセルビアに滞在したときの詩である。三角は市場と出会う。彼女を引きつけたものはパプリカである。
粉になっているもの
ペーストになっているもの
赤いものたち
それを ください
もっと 少しだけ
赤いビニール袋をさげて
私たちは帰路につく
市場の匂いが
衣類にまとわりついて
それ以上に
パプリカの赤が
この土地に染みている
その赤は血ですか
ニイハオと声をかけられる
こんにちはと返す
中身はみんな赤いのだから
みんな同じひとりのひとだ
池井の書いている「ほんとう」と重なるものを感じた。三角は「ほんとう」とは書かずに「みんな同じ」と書く。「根源」という意味である。そして、それは「一」という意味でもある。
根源は「一」。そこからさまざまなものが生まれてくる。それら違って見える。「すき」に見えるときもあれば、「すきじゃない」に見えるときもある。池井は、その区別を、区別がないところまでさかのぼって、そこから「すき」を選びとって、「ひらく」という動詞になってほしいと呼びかけていた。
三角は、あるひとはたまたま「ニイハオ」という挨拶になり、三角は「こんにちは」という挨拶になるが、根源はひとにであったら挨拶するという「ひとつ」の運動であることを知る。そしてその「ひとつ」を「ひとり」ととらえなおす。「ひと」ととらえなおす。この根源としての「一」からは、もちろん「ボン・ディア(ブエノス・ディアス)」としいさつする「ひとり」も生まれてくる。
そして、私が最後に書いた「ひとり」はスペインの土地ともつながる。「みんな同じ」は「ひと」だけではないのだ。パプリカも土地も同じ「一」から生まれてくる。だからこそ三角は、
パプリカの赤が
この土地に染みている
と書くのだが、これは土地の赤がパプリカの赤に結実しているということと同じである。すべては往復する。あるいは循環する。というよりも、「一」(ほんとう)のなかへ帰りながら、ふたたびかたちあるものとして生まれなおす。
この最初の一歩を三角は「返す」という動詞で肉体にしみこませている。思想にしている。
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評論『池澤夏樹訳「カヴァフィス全詩」を読む』を一冊にまとめました。314ページ、2500円。(送料別)
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(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料別)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
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(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
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(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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