詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

嵯峨信之『詩集未収録詩篇』を読む(81)

2020-07-18 18:41:15 | 『嵯峨信之全詩集』を読む
* (ぼくにはそのぜんたいを埋めることはできなかつた)

ところどころでも桜草を植えてみた

 「そのぜんたい」の「その」は何を指しているか。この詩からはわからない。わかるのは、嵯峨が「その」と意識していることだけだ。
 「ぜんたい」に対しては「ところどころ」が向き合っている。
 「ところどころ」というのは離れた場所をあらわしているだろう。
 この「分断(非連続)」が「できなかった」ということばを強調しているように感じられる。



*

詩集『誤読』は、嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で書いたものです。
オンデマンドで販売しています。100ページ。1500円(送料250円)
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岡部淳太郎「長い時間のくさはらにて」

2020-07-18 18:37:09 | 詩(雑誌・同人誌)
岡部淳太郎「長い時間のくさはらにて」(「エッセンス」18、2020年05月12日発行)

 詩をどこで「おわり」にするか、とてもむずかしい。
 岡部淳太郎「長い時間のくさはらにて」。

その前にたちどまればすべてが赦されてあるように思えた
長い歩行のすえにおとずれた長い時間のくさはらで
そこは昼も夜もなく
光も闇も ましてや罪
それに応じた報いなどというものが
あるわけもなかった
長い 長い時間だった
それを時間であると感じることもないような
長い時間のくさはらだって
そこではすべてがそよぐ
ただ沈黙のうちにあり
ただ風だけがなんどもわたり
しずかにうずくまることがあふれていた
ここが世界そのものであると
この長い時間のなかでなら
信じることができた

 どこで「おわる」べきか。
 「しずかにうずくまることがあふれていた」でおわってもいいかもしれない。「うずくまることがあふれていた」というのは不思議な表現であり、その不思議さのなかで時間をかかえてみたい気がする。「あふれる」が「長い」に通じるからだろうか。
 でも、その後の三行があるから詩は落ち着くのかもしれない。一行目の「思えた」が「信じることができた」に変わるまでの「長い時間」が納得できるものとしてあらわれてくる。
 でも、これでは中途半端? まだ書きたい?
 とてもむずかしい。
 二行目の末尾の「で」。これは思い切って捨てた方がいいかもしれない。その方が「くさはら」が見えてくる。「で」があると、どうしても「主役」がくさはらではなくなってしまう。
 そこからまた、どこで「おわる」か、という問題が始まる。「で」があると、「くさはら」でおわることができない。書かれていない「私」が登場しないことには、落ち着かなくなる。
 さて、どうします?








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「現代詩通信講座」開講のお知らせ

メールを使っての「現代詩通信講座」です。
メール(宛て先=yachisyuso@gmail.com)で作品を送ってください。
詩への感想、推敲のヒントを1週間以内に返送します。

定員30人。
週1篇、月4篇以内。
料金は1篇(40字×20行以内、1000円)
(20行を超える場合は、40行まで2000円、60行まで3000円、20行ごとに1000円追加)
講評後の、質問などのやりとりは、1回につき500円です。
費用は月末に 1か月分を指定口座(返信の際、お知らせします)に振り込んでください。
作品は、A判サイズのワード文書でお送りください。
少なくとも月1篇は送信してください。


お申し込み・問い合わせは、
yachisyuso@gmail.com


また朝日カルチャーセンター福岡でも、講座を開いています。
毎月第1、第3月曜日13時-14時30分。
〒812-0011 福岡県福岡市博多区博多駅前2-1-1
電話 092-431-7751 / FAX 092-412-8571

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「詩はどこにあるか」6月号を発売中です。
132ページ、1750円(送料別)
オンデマンド出版です。発注から1週間-10日ほどでお手許に届きます。
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オンデマンドで以下の本を発売中です。

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嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
2018年の話題の詩集の全編を批評しています。
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(4)評論『ことばと沈黙、沈黙と音楽』190ページ。2000円(送料別)
『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
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(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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エミリオ・エステベス監督「パブリック 図書館の奇跡」(★★★★★)

2020-07-18 12:25:05 | 映画
エミリオ・エステベス監督「パブリック 図書館の奇跡」(★★★★★)

監督 エミリオ・エステベス 出演 エミリオ・エステベス、アレック・ボールドウィン、クリスチャン・スレイター

 大作というのでもない。傑作というのでもない。けれど★5個をつけたくなる映画というものがある。このエミリオ・エステベス監督「パブリック 図書館の奇跡」が、それである。
 父親はマーティン・シーン、弟はチャーリー・シーン。ふたりに比べると「地味」だが、足が地についた「主張」がある。だから脚本も監督もやるのだろう。
 この映画でのエミリオ・エステベスの「主張」とは何か。
 ことばはだれのものか。必要としている人間のものだ、につきる。
 そして、この「必要としている人間のもの」はことばだけではなく、ほかのものにもあてはまる。音楽も美術も。この映画では「図書館」が「寒さを避けるための空間(室内)」として求めれている。この「求め方」はほんらいのあり方とは違う。違うけれど、そういうものが求められたとき、どう人間は対応できるか。自分の「肉体」をとうして「再現(実行)」できるか、それが、問われている。
 オハイオ州シンシナティ。寒波に襲われた街。行き場のないホームレスが「図書館」を占拠する。どう対応するか。それがテーマ。図書館は、ホームレスのシェルター(受け入れ場所)ではない。でも、追い出してしまうと、彼らは凍死する恐れがある。
 そのやりとりの過程で、エミリオ・エステベスが「怒りの葡萄」を引用する。
 ここで、私は涙が出てしまう。おさえきれない。しばらくはスクリーンが見えなくなってしまう。エミリオ・エステベスは、無意識のうちに「怒りの葡萄」のことばに支えられて生きてきた。何か言わなければならなくなったとき、そのことばを語る。それは彼のことばではない。けれど、それを口にしたとき、それはスタインベックのことばではなく、彼のことばなのだ。
 このとき、エミリオ・エステベスは、「一個の肉体(ひとりの人間)」なる。「ことば」ではなく「声」を生きる。ことばを「肉体」にしてしまう。
 このとき、そのことばは、それを聞いているホームレスのことばでもある。「声」にならない「声」が、いま、エミリオ・エステベスがスタインベックの「ことば」を生きることで「声」になり、共有されて、ホームレスの「肉体」のなかで動いている。
 ことばの共有は、最後にまた違った形で展開される。
 警官が突入することを知ったエミリオ・エステベスとホームレスたちは裸で逮捕されることを望む。無抵抗の象徴として裸になる。そのとき、エミリオ・エステベスが歌い始める。その歌をホームレス全員が歌う。音楽の共有だけれど、その音楽は、そのとき何よりも、ことばなのだ。いいたいことが、そのことばのなかにつまっている。他人の書いたことば(歌詞)だが、歌うとき、そのことばはホームレスの「声」となって彼らの「肉体」を結びつける。
 ことばはだれもが話すが、だれもが語れるわけではない。でも、語らないといけないときがある。自分でことばを組み立てる必要がある。だれにでもできるわけではない。そういうときは、知っていることばに頼る。覚えていることばに頼る。覚えているのは、そのことばが彼を支えてくれていたからである。ことばは、覚えられて、肉体になる。肉体になって「共有」が広がっていく。
 こういうことが、図書館を舞台に繰り広げられる。
 図書館はことば(情報)の宝庫だ。そこにやってくるひとたちは、「情報」を求めている。なかには、「実物大の地球儀はない?」というとんでもないものもあるが、世の中にはとんでもないものを「情報(ことば)」として求めている人もいるのだ。そういうものを図書館はもっていない、図書館にはない情報(ことば)もある。それを、どうやって獲得するか。その「答え」のひとつが、「怒りの葡萄」と「歌」によって表現されている。「共有」は図書館にはないのだ。共有できる「ことば(情報)」を提供できるが、「共有」そのものを提供できない。「提供」を獲得するとき、ことばも情報もかわっていく。そこから現実のドラマが始まる。「生きている」ということが始まる。
 ことばをあつかう仕事をしてきたこと、ことばを読んだり書いたりすることをつづけている私には、ひとつの「理想」を見る思いがする。そういうことも★5個の理由だな。
 それにしても、「交渉人」「テレビのレポーター」も組み合わせ、ことばの「共有」の問題を、ことばがいっぱいの図書館を舞台にして、ドラマにする脚本には細部に目配りがきいていて、エミリオ・エステベスの演技同様、浮ついたところがなく、とてもいいと思った。
              (KBCシネマ、スクリーン2、2020年07月18日)





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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料別)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009

(3)評論『高橋睦郎「つい昨日のこと」を読む』314ページ。2500円(送料別)
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『聴くと聞こえる』についての批評をまとめたものです。
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(5)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料別)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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