詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

川上明日夫「ひやで一杯と」、北條裕子「冬空」

2020-07-04 10:07:23 | 詩(雑誌・同人誌)
川上明日夫「ひやで一杯と」、北條裕子「冬空」(「木立ち」136、2020年04月24日発行)

 読みやすいことば、読みにくいことば。この違いは、どこからくるのか。
 川上明日夫は、私にとっては杉本真維子とは別の「読みづらさ」がつきまとう。そして、その「読みづらさ」はいつも「読みやすさ」と隣り合わせにある。

ながめは向こう岸にくれてゆき
とほい心に すこしいる
 だれかいる
それから そっと わたしを
はぐれて 水を改札してやる

河は 淋しさの面積でしたから

 「ひやで一杯と」の、この部分。「水を改札してやる」に私は非常にひかれる。ここだけ、ことばが「さっぱり」している。たぶん「やる」ということばの強さのためである。ほかのことばは「とほい」「すこし」「そっと」と、かなり気持ちが悪い。ひとつだけなら我慢できるが、重なるとぞっとする。その「ぞっとする感じ」が「くれてゆき」とか「はぐれて」とか「淋しさ」とを呼び寄せる。
 杉本のことばが、「主観」と「客観」をぼきぼき折りながらつづいていく不規則性を特徴としているとすれば、川上のことばは「客観」を「主観」でどこまでもどこまてもからめ捕っていくところに特徴がある。
 そこへ突然、

水を改札してやる

 「やる」は「主観」の押しつけ。自己主張だが、押しつけるときの「肉体」の動きが、「からめ捕る」ときとは逆なのだ。だから、気持ちがいい。
 まあ、こんなことは、私の「主観」にすぎないが。



 北條裕子「冬空」。

きみに沿っていくと 嘘をつくことで ほんとうを示したくなる きみに初めて会っ

たときから 瞬時に ぼくはぼく自身を 裏切ることがわかってしまった きみのこ

とは 恋じゃなかった

 この一行空きのスタイルは何だろうか。わからないけれど、この一行空きが、北條のことばを読みやすくさせている。「嘘」「ほんとう」「裏切る」ということばが出てくるが、その切断と接続が、こんなふうに一行空きのつながりだったらいいだろうなあと思う。もともと「空き」があるのだ。切断するわけではないのだ。「空き」があるから、どんなに接続したつもりになっても、のみこまれるということはない。
 「冬空」というタイトルに誘われたのだろうか。冬の星を見ながら、あるともないともいえない「星座」をつくりだしてしまう人間の不思議さを思うのだ。

JR線は遠くの空を走っているよ ぼくは遠くまでいくことにした

 このリズムは好きだなあ。






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