詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

森鴎外「杯」

2021-03-07 10:45:40 | その他(音楽、小説etc)
鴎外選集 第二巻 「杯」

散文詩のような作品。
その24ページ。(漢字、仮名遣いはテキトウに直した。)

琥珀のような顔からサントレアの花のような青い目が覗いている。永遠の驚を以て自然を覗いている。
唇丈がほのかに赤い。

「覗いている」がこんな短い文章に二回も出てくる。
鴎外らしくない下手な文章?
いやあ、私は、思わず欄外に印をつけてしまう。
最初の覗いているは、「見える」である。作者(鴎外)が見ている。そして、読者も見る。彼女は青い目をしている、と気がつく。これは、客観描写。
ところが二度目の覗いているは違う。
彼女が、彼女の目が自然(世界、風景)を見ている。これは、少女の主観であり、鴎外がかってに想像したこと。ほんとうは、全然違うものを見ているかもしれない。鴎外が、少女に自然(世界)を見させている。言い直せば、鴎外の主観と少女の主観が一体になった「超主観」。
この視点の変化を、あえて同じ「覗いている」ということばを繰り返し、あいまいに隠している。

物語は、ここから青い目の少女に荷担するように展開する。
この荷担の「伏線」が「覗いている」ということばなのだ。
小説の最後。26ページ。

第八の娘は徐かに数敵の泉を汲んで、ほのかに赤い唇を潤した。

最初に引用した「唇丈がほのかに赤い」が、最後によみがえるのである。
いいなあ、と思わず声をもらすのである、私は。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする