詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

うるし山千尋『ライトケージ』

2022-02-03 15:15:08 | 詩集

うるし山千尋『ライトケージ』(七月堂、2021年12月28日発行)

 うるし山千尋『ライトケージ』の表題作「ライトケージ」は、こうはじまる。

二十年ぶりに
弦を巻く
サイレントギターという
音の鳴らないギターに
弦を巻く
やわらかい
弦は
空気のような他人の
風景のような
音が混じる

 「弦を巻く」を繰り返し、その間にサイレントギターの説明を閉じ込めてしまう。これを技法と呼んでいいのかどうかよくわからないが、とてもうまい。説明を閉じ込めた上で、その説明の中に残っている「鳴らない音」を展開していく。

空気のような他人の

 この一行が非常におもしろい。
 学校文法でいう「論理」になっていない。「空気のような他人、の」と読めばそれなりの「意味」になるが、「他人の」は次の行の

風景のような

 につながっているように見える。
 行渡り。
 切れているのに、次の行と強靱に結びついている。「切断」を装いながら「接続」が奇妙な形で(学校文法からはみ出した形で)動いている。
 ここには説明できない(説明すると、めんどうくさい)意識の動きがある。
 「撞着語」という「文法用語(?)」があるらしい。「明るい闇」とか「冷たい炎」という類である。「空気のような他人の」という一行は「撞着語/撞着行」というものではないかもしれないが、何かしら、私の意識を「攪拌」してくる。
 「撞着語」というのは何か、強烈な幻想、私は体験したことがないのだが、たとえば麻薬による幻覚のようなイメージがある。ふつうの感覚では体験できないが、錯乱だけがつかみうる真実というような強烈なイメージがある。
 しかし、うるし山のことばは、そういう「幻覚」とは逆に、なにかゆるやかなものがある。「ゆるやかな撞着語(行)」という感じ。
 これは「海辺に不良を数えながら」の次のような展開に、非常に巧みに表現されている。

わたしたちは
たくさん数えたけれど
たくさん数えすぎて
どこまで数えたかわからなくなって
たくさん
忘れてしまった
むしろ群れているのは
わたしたちの
たくさん数えてきたという その
たくさんの意味で

 「たくさん」が「数える」「忘れる」という動詞のなかにで集まってきて、離れていく。そしてそれは、そのふたつの動詞のあいだにある「わからなくなる」と結びついている。「数える」「わかる→わからなくなる」「忘れる」。撞着語として「「わかる→わからなくなる」という動き(動詞)が非常に奥深いところに隠されている。そして、その全体の動きを「その」というなんでもないような指示詞によって呼び出してみせる。
 あ、これはいいなあ、と思わず声に出してしまう。
 この「その」とか「あれ」とか、意識そのものの存在をさらりと「表」に露顕させるときの「動詞」をうるし山は、別のことばで、こう書いている。

どうする?
とおまえが訊いたので
しばらく考えて
どうしよう
と返すと
なんだかフェリーこわいね
とおまえは言った                    「いつかのフェエリー」

嘘言ってみろよ
とおまえが急に言う
そんなに急に嘘はつけない
と言うと
嘘つけ、嘘はいつでもつけるはずだ
と返してくる                            「詫びる」

 「返す」。それは、いつでも「反撃」なのだ。反対の方からやってくる。「撞着語」が反対の方から突然あらわれて、それまでのことばの向きを逆転させるように。
 うるし山は、詩とは「意識の裏切り/反撃」だと知っている。自覚している。何への「裏切り/反逆」なのか。「学校文法」への「裏切り/反逆」である。
 全面的にそれを展開するのではなく、そっと隠して実行している。隠された時限爆弾が、この詩集のなかにはある。

 

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Estoy loco por espana(番外篇135)Obra de Javier Messia

2022-02-03 13:33:09 | estoy loco por espana

Estoy loco por espana(番外篇135)Obra de Javier Messia

El cielo es el mar de estrellas.
Varias estrellas caen al suelo.
El contraste entre el color dorado y el color acromático es hermoso.
Siento el color que lleva al arte popular tradicional japonés.
La estrella es el color del dorado. El color en el suelo es el color de la tinta o el color del carbón.

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