惑星ダルの日常(goo版)

(森下一仁の近況です。タイトルをはじめ、ほとんどの写真は交差法で立体視できます)

鰍沢

2015-10-08 20:57:57 | 落語

 台風23号は温帯低気圧へと変わりながらも勢力が強く、北海道は大変な荒れようだったみたいですね。
 しかしながら、関東は一時的な冬型の気圧配置となって、よく晴れました。夕方には西の空に富士山がくっきりと。

 今日の落語は、昨日につづいて六代目・三遊亭円生師匠。演目は十八番の「鰍沢」。

 三遊亭円朝作の怖ろしい噺で、中学生か高校生の頃、ほかならぬ円生師匠のラジオ高座を聴いた覚えがあります。半世紀ほども前のことなので、細部はすっかり忘れていました。ただただ、暗くて怖い噺だったような記憶のみが。

 今回、聴いてみると、山中の一軒家で旅人が殺されかかるという陰惨さはあるものの、怪談というほどのこともなかった。
 一軒家に住む美女の描写や、旅人とのやりとりの裏にあるさりげない企みなど、語りの巧みさを際立たせる要素が盛り沢山の、やりがいのある一席だと知りました。円生師匠は臨場感あふれる見事な語り口。芝居噺を得意としただけのことはあります。
 でもねえ、こんなに重厚な噺を「お材木のおかげで助かりました」と他愛ないサゲでまとめるとは。落語のカッコイイ腰砕けぶりに参ります。


三年目

2015-10-07 21:06:43 | 落語

 落語はほぼ毎晩、夕食後に聴いていますが、このところ感想を書こうという噺/噺家さんにはなかなか出会えません。

 今日はご贔屓の六代目円生師匠。「三年目」は初めて聴きました。

 幽霊譚なのですが、おどろおどろしいものではありません。むしろ、女性の可愛さを描く、どこかコミカルな怪談。円生師匠はくすぐりを入れながら、後味の良い落語に仕上げています。
 不治の病にかかった愛妻が、「私が死んだら、あなたはきっと次の人と一緒になるんでしょうね」と、未来へ向けてやきもちをやく。男は、「そんなに心配なら、俺が結婚する晩に化けて出ればいいじゃないか。そうしたら嫁は逃げて帰るから、俺は一人のままだ」。
 安心したのか、妻は間もなく逝く。
 周囲の勧めがあって、男はついつい後妻をもらうことに。式を挙げた夜、男は約束の八ッ(午前2時)まで寝ずに待つが、先妻の幽霊は出ない。何日、待っても出ない。そのうち、後妻との間に子供まで出来て、3年が経ち……。

 出てきた幽霊の描写は、さすが円生師匠、その時だけは怪談調が際立ちます。
 「女は緑の黒髪をおどろに振り乱し――」と印象深く語りあげ、それがオチにつながってゆきます。うまい! 


藁人形

2015-09-24 21:04:28 | 落語

 午後から雨。連休が明けると、これなんですか? まいったね。
 でも、この雨、夕食後に聴いた落語には良い雰囲気をつくってくれたかも。

 五代目志ん生の「藁人形」。
 いったいどうして、こんな演目が古典落語として残っているのか、首をかしげるような噺なんです。

 千住の宿場女郎の板頭(ばんとう:筆頭遊女)であるお熊という女が、二階の手すりにもたれて、下を通る西念という乞食坊主に声をかけるところから、話は始まります。
 お熊は23歳。若い頃から男と浮名を流して身をもちくずし、こんな場末の女郎になり下がった年増です(昔の女の人は盛りが若かった)。母親の命日だからお経をあげてくれといって西念を呼び込み、これを縁に取り入って、「旦那に見受けされることになった。絵草紙屋の良い出物があって、買ってくれると手付を打ったが、残りを払わないと別へ売られてしまう。あいにく旦那は今、留守だが、戻るとすぐに返せるから40両、どっかで借りてもらえないかしら」と、西念にもちかける。年老いた西念を親がわりのように思っているから、ゆくゆくは引き取ってそこで一緒に暮らそうよ、とも。
 喜んだ西念は、喜捨を長年かけて溜めた全財産40両を、お熊に貸してしまう。
 後日、西念は風邪にかかり、薬代に困ってお熊を訪ねる。お熊は、「カネはないから、無理だ」と冷たい態度。西念は騙されていたのだった……。

 ということで、このお坊さんが、騙した女を呪い殺そうとする。ま、最後にはしくじってしまい、ふざけた感じのオチとなるのですが、西念の恨みはもってゆき場がなく、一方のお熊はのうのうと暮らしてゆくのだと察せられます。ただただ陰々滅目々としているだけの噺で、聴き終わってしばらくはボー然としてしまいました。
 世の中こんなもの、というひとつの真実を突きつけているんでしょうか。あまりにもヒドイがゆえに忘れられず、時が経つとまた聴きたくなったりするのかもしれません。異色の落語ではあります。