惑星ダルの日常(goo版)

(森下一仁の近況です。タイトルをはじめ、ほとんどの写真は交差法で立体視できます)

『プーチニズム』

2005-07-31 21:34:46 | 本と雑誌
 仕事と、趣味の――といっては不謹慎ですが――ロシアウォッチングを兼ねてアンナ・ポリトコフスカヤ『プーチニズム――報道されないロシアの現実』(鍛原多恵子訳、NHK出版)を読む。
 いやはや、ロシアは大変なことになっているなあ、ということを痛感。

 プーチンが説く「強いロシア」の下、ロシア社会では実際にどんなことが起こっているかを著者はレポートする。国家のあり方を、高所から分析するのではなく、市民の一人ひとりからじかに取材し、アリの目で描き出すのが彼女の手法。
 真実を押し潰し、正義をないがしろにし、人間性を無視したロシアの実態が浮かび上がります。悲劇を通り越して、ほとんど喜劇にまで至ってしまっているような、いくつもの出来事。うまくやっている者にとっては、やりたい放題なので実に快適かもしれない。でも、いったん陥穽にはまってしまうと救われることがない。不条理そのもの。

 この本を読んでいると、ロシアは法治国家ではなく、一部の者が法を気ままにねじ曲げて私利私欲を満足させる国だと思わざるをえません。これはソ連次代の悪しき因習というより、たぶん、ロシアそのものの伝統。皇帝や共産党委員長のもとで高度に(ずる賢く)発達した官僚主義を拭い去ることは永遠に不可能かと思えてしまいます。

 詳しい事例の紹介は省きますが、驚くべきエピソードが満載。『世紀の売却』に描かれていた時代が終わると、次はこんなことになってしまった。この2冊を読むことで、ロシアの現在がかなりわかってきたと思いました。


『スター・ウォーズ』終幕

2005-07-30 21:17:29 | 映画
 午後、ジョージ・ルーカス監督『ウター・ウォーズ エピソード3 シスの復讐』鑑賞。
 場所は『宇宙戦争』と同じTOHOシネマズ府中。つい最近オープンしたシネコンなので、設備は新しいし、全席指定だし、きわめて快適。

 私は『スター・ウォーズ』は第1作だけで十分という人間なので、シリーズに関しては良い観客ではありません。それでも付き合っているのは、この歴史的なSF映画を最後まで見届けなくては、という義務感のようなものに駆られて。

 ストーリー自体に興味が持てない。戦闘シーンに興奮できない(ライトセーバーを使っても、戦闘機が飛び回っても)。だから、観ているのは衣装やメーク、特撮やCGによる風景ばかりということになってしまいます。ホントに不幸な観客。今回も、前半、セリフでつないでゆく場面では何度か寝てしまいました。
 ただし、目覚めて眺めていた風景には感心しました。すばらしい映像。これだけでも、おカネを損したとは思いません。

 でも、これで終わってホッとした、というのが正直なところ――などと憎まれ口を叩いていますが、『スター・ウォーズ』と出遭えた人生で良かったと思います。初めて観た時の驚きは忘れることができません。ありがとう、ルーカス監督。


ちきゅう

2005-07-29 20:20:07 | サイエンス
 今日は地球深部探査船「ちきゅう」が完工し、海洋研究開発機構に引き渡される日。朝日新聞夕刊には写真入りで報じられていましたが、ウェブには載っていませんなぁ。さほどニュース価値がないと判断されたのだろうか。ここでは熊本日日新聞にリンクしておきます。

 「ちきゅう」の研究目的の解説書のような本が『地球の内部で何が起こっているのか?』(平朝彦・徐垣・末廣潔・木下肇著、光文社新書)。口絵の日本近海の海底図だけでも、持っておく価値があると思います。
 この本の扉には次のように書かれています――

本書を我が国における深海掘削の創始者、東京大学名誉教授、奈須紀幸先生に捧げる。そして、次代を担う若者に贈る。

 奈須先生こそは「地球」建造の立役者といっていいでしょうね。政府に働きかけて、これほどまでの研究船を作らせた。
 自慢をしてしまうのですが、奈須先生からは直接お話をうかがったことがあります。昨年、小松左京さんの事務所を訪ねた時のことでした。その際の写真が、折り良く、つい最近送られてきて、私はニコニコしながら『地球の内部で――』の本を読んだものでした。
 奈須先生は「ちきゅう」の完成をずいぶん喜んでおられるでしょうね。そして、最初の成果があがる日を待ち望んでおられるに違いない。

 火星に凍った水の塊
 クレーターの直径が35キロだそうですから、氷の直径は10キロぐらいでしょうか。凍った湖?
 地球以外にこれほど大量の水が存在するのを見るのは初めて。わくわくします。
 次は、水と火山活動とが一緒になっているところを、この目で見てみたい。そうなれば、いよいよ宇宙生命の発見だ。


『古代文明と気候大変動』

2005-07-27 20:58:15 | 本と雑誌
 最近読んだ本で特におもしろかったのは、ブライアン・フェイガン『古代文明と気候大変動』(東郷えりか訳、河出書房新社)。

 人類文明の成立は食糧確保の形態に起因するものであり、食糧生産は気候変動に支配されている――というのが、この本の基本的な立場。農業の成立が文明の成立とほぼ等しいことを考えれば、この立場はしごく当然ですし、目新しいところはないように見えます。しかし、最近の古気象学が明らかにしてきた成果と文明の変遷をフェイガンが絡め合わすと、目からウロコの新鮮かつ説得力に富む人類の歴史が展開されるのです。
 最後の氷期が終わって以来、急速に人類文明が発達してきた理由をこんなにもわかりやすく説き明かした本をほかに知りません。

 人類文明の初期について、私の理解したところを簡単に書いてみます。肥沃な三日月地帯と呼ばれる西アジア周辺での物語。

 氷期が終わって温暖で湿潤な気候に恵まれると、人類はそれまでの狩りの獲物に頼る生活から、大量に採れる森の木の実など、貯蔵の効く植物にも依存する生活へと生き方を変えた。それは定住集落をつくることにつながった。
 ところが、そこへ「ヤンガードライアス期」と呼ばれる氷期の戻りのような現象が起こり、冷涼で乾燥した気候になった。この旱魃は約1000年続いたが、その間に人はやむなく草原地帯に生える麦を食糧にすることを覚えた。それは栽培へとつながり、品種の改良がつづけられた。

 こうして農業が始まるのですが、ここで嬉しいことにW・ライアン&W・ピットマン『ノアの洪水』(集英社)の成果が取り入れられていて、農作技術を手にした人々が今の黒海沿岸からヨーロッパ各地へと散ってゆく様子が描かれています。ゲルマンの森に住む人々やケルト人たちの素性がはっきりとしてきたのです。
 こうした説は、まだ仮設の段階ではありますが、いろいろなことを考え合わせると極めて妥当なように見えます。将来、この本は文明の誕生を描く古典となるんじゃないでしょうか。文章も素晴らしい。

 ところで「ヤンガードライアス期」の「ドライアス」とは氷河周辺や高山など涼しくて乾燥した地域に繁殖する植物の名前。日本語では「チョウノスケソウ」ですが、これは須川長之助という人にちなんでいます。幕末から明治にかけて活躍した岩手の科学者で、幕末に来日したロシアの植物学者に師事し、立派な成果を上げた。偉い人はあちこちにいるものですねえ。

 夕食のデザートは桃。
 これは昼間、厳しい日差しの中をご近所の高千穂さんが届けてくださったもの。さっぱりした甘さの、みずみずしい絶品でした。
 高千穂さん、ごちそうさまでした。


台風散歩

2005-07-26 20:24:32 | 日記・エッセイ・コラム
 今日はいちにち家の中でおとなしく……と思っていたのですが、午後4時の台風の位置を見て予定変更。午後になってググッと進路を東寄りに変えている。東京は台風の裏側に入り、雨も風もこのままならあまり心配しなくて良さそうです。

 というわけで、夕方、いつもの時間に散歩。
 傘は持っているものの、差したり、差さなかったり。一時は川幅いっぱいに流れていた野川の水もすっかり引いて、岸の水たまりでコサギが逃げ遅れた小魚を狙っています。そのそばでカラスが3羽佇んでいる。何かを企んでいるふう。
 さすがに犬の散歩の人は少ない。遊歩道の周辺にいる猫たちも、どこかへ姿を消しています。

 途中でハケを登り、深大寺をぐるっと回ってきました。この時間に人がいないのはいつものこと。中央高速は特に車が少ないというふうでもありません。普段の雨の日と似たような光景。
 夜半にもっとも接近するとのことですが、たいしたことなく通過してくれれば、それがいちばんです。