リハーサルを何度も聞かされ、側近が「もう聞き飽きた」とボヤいたという安倍首相の米議会演説を読んでみました。
お祖父さんが米議会で演説した言葉から始め、自分だけでなく、岸信介首相の栄誉をも強調しようとしていて、本懐を遂げたかなと、安倍さんの心中を察してしまいました。
歴史認識に関する言葉が取りざたされていますが、私が心に留めたのは次の3つの言葉――「山羊2036頭」、「量子跳躍(クオンタム・リープ)」、「キャロル・キング」。
「山羊2036頭」は、戦後まもない日本にアメリカから贈られた援助物資の例として挙げられたもの。
山羊の頭数が細かく述べられているところが肝心ですね。ほんわかとしたユーモアが漂う。スピーチライターの手腕だと思います。
「量子跳躍」は、日本が今、さしかかっている歴史的転換について比喩的に述べたところ。「改革の精神と速度を取り戻した新しい日本……」と続きます。
この言葉はビジネス界での流行語なのでしょうか。たとえばこんなところでも、使われています。アメリカの議員さんたちが注釈なしに聞いて、すぐ呑み込める用語なのでしょうか。
個人的にはうなずけない言葉の選択です。「量子跳躍」ったって、エネルギーが拡大する方向ばかりではないだろう、突然すぼんでしまう跳躍だってあるじゃん、などと突っ込みをいれたくなります。
「キャロル・キング」の名は、演説の最後のくだりに登場します。安倍首相が高校生だった頃にラジオで聞いたというヒット曲「君の友だち You've Got a Friend」を引用し、東日本大震災でトモダチとして手を差し伸べてもらったことに感謝しています。
「君の友だち」のリリースとヒットは1971年。私が大学生の時でした。3歳下の安倍さんは高校生だったんですね(成蹊高校)。いちばん音楽に敏感な年頃だったんだと思います。たぶん、あちらの議員さんたちにも親しい曲。なるほどね、と思いました。
どなたかは知りませんが(内閣官房参与のT氏?)、有能なスピーチライターがついているのは間違いないですね。ユーモアとウイットを盛り込み、かつ総理が言いたいことを角が立たない形で表現している。でも、コーティングが滑らか過ぎるように、私には思えます。話が上手だとかえって胸の奥に届かないこともあるんですよねぇ。
今日の談志師匠のCDタイムは「五貫裁き」。10日前に聴いたのと同じ演目ですが、高座としては3年のへだたりがあるようです。
演出がかなり変化しています。大家のズル賢さが影をひそめ、吝嗇な質屋・徳力屋の狼狽ぶりに焦点が当たった感じ。
何度も同じ場所で同じ噺をするというのは、ちがう形を求めて、噺を練り直しているということなのでしょう。芸への執念が伝わってきます。