惑星ダルの日常(goo版)

(森下一仁の近況です。タイトルをはじめ、ほとんどの写真は交差法で立体視できます)

『シュガーマン』

2013-06-03 20:26:33 | 映画
 新宿駅南口を出て東へすぐのK's cinema でマリク・ベンジェルール監督『シュガーマン』を観ました。

 本国アメリカではまったく売れなかった歌手のレコードが、本人も知らない間に南アフリカで大ヒット。しかし、現地では歌手についてはほとんど何も知られていなかった。その正体を訪ねてのドキュメンタリー……。

 事前の知識は、これだけ。ラジオで聞いたものです。あと、そのシンガーソングライター、ロドリゲスの歌を1曲。
 でも、これだけでとても観たくなり、どうせ観るなら予備知識は少ない方がいいだろうと思って、それ以上調べずに上映館へ向かいました。

 それが良かった。驚きと感動に思わず涙さえ流してしまいました。

 これから観る人のためにも、ここにはこれ以上のことは書きませんが、今の世の中でこんなことがあり得るのかという奇妙な事態と、人生の不思議。奇跡的な展開に胸を打たれること、必定。


『扉をたたく人』

2013-02-26 21:06:27 | 映画
 2008年のアメリカ映画『扉をたたく人』(監督:トム・マッカーシー、主演:リチャード・ジェンキンス)をテレビ録画で観ました。ちょっとユーモラスで、しかし大変に苦い味わいの佳品。

 原題は『The Visitor』つまり「訪問者」。邦題は少し違えてあるようでいて、重なり合っている部分もあり、結構いい線いってるかも。
 アフリカの太鼓(ジャンベ)が重要な役割を果たすので「たたく」という動詞を使ったのは巧み。ラスト近くで、実際に扉をたたくシーンがあるのも、このタイトルにした理由かもしれません。

 でも、原題の「訪問者」も捨てがたい気がするのは、社会的に広い意味合いが込められているように思えるから。
 アメリカという国への異国からの訪問者が、9.11以降、どのような目で見られているか、どのように扱われているのかという問いかけが、この映画にはあるのです。

 そういう意味で、排外的になり、「愛国心」が強調されるようになったアメリカを描いたコリイ・ドクトロウの青春SF『リトル・ブラザー』を思い出しました。
 『扉をたたく人』は老人の苦いラブロマンスを扱っていますが、老若ともに辛い思いを強いられている側面が、9.11以後のアメリカにはあるのかもしれません。


『ピアノマニア』

2012-02-05 21:12:13 | 映画
 スタインウェイ社の調律師を追ったドキュメンタリー映画『ピアノマニア』(リリアン・フランク+ロベルト・シビス監督、オーストリア・ドイツ合作、97分、2009年)を観ました。友人の映画評論家井口健二さんに教えていただいて、ぜひとも観たいと思っていたもの。

 メインとなるのはピアニストのピエール=ロラン・エマールがバッハ「フーガの技法」をコンサートホールを借り切って録音するまでの1年間。調律師のシュテファン・クニュップファーは、その間に、使うピアノを決め、要求される音を調律や補助器具を使って作り出し、本番では限度ぎりぎりまでの調律を繰り返す。調律の仕事の難しさと楽しさとをよく伝えてくれます。
 ラン・ラン、アルフレート・ブレンデル、ルドルフ・ブフビンダーらとの仕事の様子も挿入され、神経をすり減らす多忙さであることがわかります。同時に、巨匠たちと付き合えるのが羨ましい。

 個人的には、私も日曜大工で使ってある電動ノコギリ(ジグソー)を利用して、自動的に打鍵する道具に仕立てていることにびっくり。なるほどね。

 我が家にもピアノがあり、時々、調律師さんに来ていただくし、息子のコンサートや録音の際にも同じ調律師さんをお願いしたりしているので、大変興味深く、面白く、観ました。
 欲をいえば、巨匠の演奏をたっぷり聴きたかった(特にブレンデル)のと、映像はもっと音楽的でも良かったかなと感じたところでしょうか。


愛の歯磨き

2011-10-31 20:49:00 | 映画
 ゲイリー・マーシャル監督の映画『恋のためらい/フランキーとジョニー』を観ました。テレビでやっていたのを録画で。
 主演はミシェル・ファイファーとアル・パチーノ。ニューヨーク下町のレストランで働く中年コックとウェイトレスの恋物語です。

 テレンス・マクナリーの脚本が素晴らしい。自作の戯曲をシナリオ化したのだそうです。
 とりわけ感心したのは、ラストで2人が歯磨きをするところ。
 こんなに情愛のこもった歯磨きシーンは今までなかったのではないでしょうか。日常感覚溢れるユーモア。好きだなあ。

Moon1110 夕方は川崎市の緑ヶ丘霊園まで出かけました。

 写真は霊園の上に出た月齢4.5の月(ちっちゃいですが)。
 多摩丘陵の山と、夕映えの雲と、三日月と。うまく距離感が出ました。

 緑ヶ丘霊園は空がとても広くて、この季節の夕暮れを楽しむにはぴったりの場所ですね。


蛸の音楽

2011-09-15 20:57:27 | 映画
 戻ってきた暑さの中で締切に追われてました。今日の夕方でちょっとひと息。

 今はボーッとしていて、特に書き記すこともないのですが、最近、読んだ竹内博さんの遺作『特撮をめぐる人々 日本映画昭和の時代』(ワイズ出版)でおもしろかったところを。

 『ゴジラ』の音楽で有名な伊福部昭さんと監督の円谷英二さんはいくつもの映画でコンビを組んだが、伊福部さんは円谷さんに、「まず怪獣の絵を見せてください。心の準備があるから」と頼んだそうです。
 円谷さんは快く応じてくれたが、『キングコング対ゴジラ』(1962年)の時の「タコ」だけは、最後まで絵を見せてくれなかったとか。
 それについての伊福部さんの言葉――

 ……どんなタコだろうと思っていたら、本物のタコだもの。しょうがないよ。
 これは音楽つけるのに苦心しましたね。本物の力というのは恐ろしい。ゴジラなんかはねえ、作りものですから、これは音楽も手伝わなければならないという感じもするんですが、本物だったら、それだけでいいみたいな。だけどタコのピチャピチャだけではねえ。恐怖感を与えないので、なんとかということで十二音使ったり、グリッサンド使ったり、ノコギリ使ったりしていろいろした。とにかくタコの感じが出るようにということで作曲したんです。あれがまあ、一番やりにくかったです。
 大変そうだけど、愉快。
 『キングコング対ゴジラ』、見たくなりますねえ。