「ようやく」というのは「読むのが大変だった」という意味ではありません。昨年10月末に出ていた本なのに、取りかかるのが遅く、今頃になって読んだ、という意味です。
読書中は大変に充実した時間を過ごすことが出来ました。大変長い小説であるにもかかわらず、読み終えるのがもったいなかったほど。
タスマニア島のアボリジニ絶滅という重い史実を踏まえているので、簡単に「ユーモア小説」といってしまってはいけませんが、しかし、これは絶望と背中合わせになった大ユーモア小説。イギリス人のバカバカしさ、愚かさを描いて、こんなに愉快な小説はまずないでしょう。
英国のユーモア小説の名作にジェローム・K・ジェローム『ボートの三人男』があって、あれは英国紳士3人がテムズ川を下る話ですが、こちらは英国人3人が外洋を航海し、はるばるオーストラリアの南にあるタスマニア島まで行くお話。
3人は、牧師と医者と植物学者の卵。リーダーは牧師で、彼が思いついた「エデンの園はタスマニアにあった」という「大発見」を実証するためにスポンサーを得て、出かけて行くのです。しかし、チャーターした船がこれまた大変なシロモノで……。
タスマニアでアボリジニに降りかかった悲劇と並行して、上記探検隊の愚行が主要人物それぞれの一人称で語られます。それぞれは自分がまっとうで利口な人間だとうぬぼれきっているが、他人の目から見るとどうしようもない鼻つまみ者ばかり。このギャップが大きくて、読みながらニヤニヤしっぱなしなのです。
皮肉とユーモアと自国の歴史への告発がないまぜとなった、いかにも英国的な大傑作。愚か者やならず者が実に魅力的でたまりません。英国ものが好きな人には絶対のオススメ――宮脇孝雄訳、早川書房〈プラチナ・ファンタジイ〉。
作者のマシュー・ニールの父親は、あのナイジェル・ニール(知る人ぞ、知る!)。マシューさんは日本で英語の先生をしていたことがあるそうです。他の作品もぜひ読みたい。
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