詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

松浦寿輝「川の光」(2)

2006-07-27 22:53:17 | 詩集
 昨日書いた感想のつづき。

 「坂」--ジグザグの歩行。それは「坂」が登場する前から登場する。

 静かだった。
 西の空はもうきれいな茜色(あかねいろ)に染まりはじめていた。川の水面はもうなかばで土手の影に入っていたが、西日を浴びてきらきら輝いている部分もあって、そのあたりの目を凝らすと、水中に転がる石や岩の回りで大小の渦を作りながら、水が以外に早く流れているのがわかった。

 松浦は水の描写も大好きなようだが、冒頭の水の描写も「坂」の視線で構成されている。空の茜色→西日を浴びている水面→水中→石や岩→大小の渦→水の流れの速さ。視線は、次々に焦点をかえて動いていく。そして、この動きの中に、視線の動きそのものとは別に、「坂」が隠れている。

 水が意外に速く流れている

 水の流れの速さのなかに、「坂」が潜んでいる。見えない「坂」を川の水は流れていく。その流れが速いのは、その隠された坂が予想以上に「急」というこおtだろう。

 松浦の文章は、前後の描写がひそかに通い合う。水の流れは、その流れの方向を決定する土手、その「急坂」の横を流れる。
 主人公の行動を決定するのは、もしかすると主人公の思いよりも、主人公を取り巻く環境かもしれない。何を見るか、何をことばにするか。そのことばは前後のどのことばと通い合うのか。

 松浦の小説は詩を読むようにゆっくり読まないといけないのかもしれない。


コメント
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