監督 フォン・シャオガン 出演 チャン・ツィイー
シェークスピア「ハムレット」を下敷きにしている。
こういう映画を見ていると、愛と復讐の劇は全部「ハムレット」に見えてしまいそうな、不思議な気持ちになる。シェークスピアはやっぱり天才だ、と映画とは別な感想が顔を出してしまう。
見どころは人間描写よりも、活劇部分。中国の戦いの場面は殺戮とダンスが溶け合っている。ほとんどセックスの世界といってもいい。セックスにも「死」があるように、戦争にはやはり「愛」がある。ただし、その「愛」は憎しみの裏返しの愛である。また、「愛」を奪い返すための復讐という戦争もある。
愛と死のかたい結びつきが戦争とセックスを融合させる。
そのことを強く感じさせるのがチャン・ツィイーと皇太子(ハムレット)が最初に演武するシーン。肉体は戦うためというよりは、愛の接触を楽しむように近づき、離れる。逃げながら誘い、追いながら反撃される瞬間を待っている。同じ場の空気を呼吸し、その空気が二人の体を駆け抜け、胸に秘めた思いを燃え上がらせる。二人のきているゆったりした服の、その布までもが、愛の戯れを美しく彩る。
ああ、いいなあ、と思わずため息が漏れる。
冒頭も非常に刺激的だ。
皇太子が潜んでいた竹林の館。そこで繰り広げられるダンス。歌。ほとんど前衛舞踏といっていい仮面のダンスなのだが、そこには偽りの「死」(仮面--表情を隠したいのち)と、顔をみせないことによって苦悩する肉体を動かしているのがこころであることを浮き彫りにする。コーラス(歌)と肉体を複数の人間で共有する--それこそ「劇」であるという、演劇へのオマージュ。そこへ乱入してくる軍隊。血の惨劇。それがそのまま、この芝居全体の凝縮された世界である。
この凝縮された世界を、この映画では、最後のクライマックスでもう一度繰り返している。ダンスと、それを破壊する武力。復讐。地の惨劇。血といっしょに奪われていく「愛」、そして、もたらされる「死」。愛と死の結合。
色彩もきれいだ。竹林の緑。それとは対照的な茜色。補色。どちらが「愛」であり、どちらが「死」なのか。時によって入れ代わる。入れ代わることによって、さらに緊密になる。
チャン・ツィイーの演じた役は、昔ならコン・リーが演じたのだろうか。コン・リーが演じたなら、もっともっと人間の部分が強調されたかもしれない。コン・リーを主役にして、年齢を超えた愛と憎しみの世界を展開すれば、さらにおもしろかったかもしれない、とちょっと残念な気もする映画であった。
シェークスピア「ハムレット」を下敷きにしている。
こういう映画を見ていると、愛と復讐の劇は全部「ハムレット」に見えてしまいそうな、不思議な気持ちになる。シェークスピアはやっぱり天才だ、と映画とは別な感想が顔を出してしまう。
見どころは人間描写よりも、活劇部分。中国の戦いの場面は殺戮とダンスが溶け合っている。ほとんどセックスの世界といってもいい。セックスにも「死」があるように、戦争にはやはり「愛」がある。ただし、その「愛」は憎しみの裏返しの愛である。また、「愛」を奪い返すための復讐という戦争もある。
愛と死のかたい結びつきが戦争とセックスを融合させる。
そのことを強く感じさせるのがチャン・ツィイーと皇太子(ハムレット)が最初に演武するシーン。肉体は戦うためというよりは、愛の接触を楽しむように近づき、離れる。逃げながら誘い、追いながら反撃される瞬間を待っている。同じ場の空気を呼吸し、その空気が二人の体を駆け抜け、胸に秘めた思いを燃え上がらせる。二人のきているゆったりした服の、その布までもが、愛の戯れを美しく彩る。
ああ、いいなあ、と思わずため息が漏れる。
冒頭も非常に刺激的だ。
皇太子が潜んでいた竹林の館。そこで繰り広げられるダンス。歌。ほとんど前衛舞踏といっていい仮面のダンスなのだが、そこには偽りの「死」(仮面--表情を隠したいのち)と、顔をみせないことによって苦悩する肉体を動かしているのがこころであることを浮き彫りにする。コーラス(歌)と肉体を複数の人間で共有する--それこそ「劇」であるという、演劇へのオマージュ。そこへ乱入してくる軍隊。血の惨劇。それがそのまま、この芝居全体の凝縮された世界である。
この凝縮された世界を、この映画では、最後のクライマックスでもう一度繰り返している。ダンスと、それを破壊する武力。復讐。地の惨劇。血といっしょに奪われていく「愛」、そして、もたらされる「死」。愛と死の結合。
色彩もきれいだ。竹林の緑。それとは対照的な茜色。補色。どちらが「愛」であり、どちらが「死」なのか。時によって入れ代わる。入れ代わることによって、さらに緊密になる。
チャン・ツィイーの演じた役は、昔ならコン・リーが演じたのだろうか。コン・リーが演じたなら、もっともっと人間の部分が強調されたかもしれない。コン・リーを主役にして、年齢を超えた愛と憎しみの世界を展開すれば、さらにおもしろかったかもしれない、とちょっと残念な気もする映画であった。