詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

鈴木正樹「同じ」

2007-07-28 14:57:53 | 詩(雑誌・同人誌)
 鈴木正樹「同じ」(「葡萄」54、2007年07月発行)
 娘が結婚したあとの父親の家の風景。娘の写真や少女の人形が増えている。尋ねてきた妹が「父親に同じ」と鈴木に言う。その妹が結婚したあと、父は少女の人形を飾っていた、というのである。

それから何年も経ち
僕が娘を結婚させる年になり
式が住んで 一ヶ月
妹が真顔で
「寂しいの?」と 聞く
そんなことは無い そう答え
そう思うのだが

 「そんなことは無い そう答え/そう思うのだが」の2行が美しい。「そう思うのだが」の断定を避けた語尾が、鈴木自身のこころを探している。鈴木自身の気づかないこころを探している。自分のこころだからといって、自分に理解できているわけではないのである。
 最終連もいい。

妹は
「同じ」と つぶやいて
笑いながら 部屋を見回している

 妹は鈴木のこころを知ることで、父のこころを確認している。結婚して父親のもとを離れたとき、父は寂しいこころでいた。それくらい自分を愛していた--そう知ることは、喜びなのである。鈴木をとおして、妹は自分の喜びを再発見し、その再発見のなかで父と出会っている。
 そうした家族の愛というものを感じるからこそ、鈴木は「そんなことは無い そう答え/そう思うのだが」と、半分、妹の指摘に対してこころを開いたのだともいえる。

 家族というものを静かに描いていて、軽いユーモアと悲しみ(これは「愛しい」に通じる)が漂い、気持ちがいい作品だ。

コメント
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