詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

スコット・ヒックス監督「幸せのレシピ」

2007-10-10 01:52:18 | 映画
監督 スコット・ヒックス 出演 キャサリン・ゼタ・ジョーンズ、アーロン・エッカート、アビデイル・ブレスリン

 高級レストランが舞台である。しかし、この映画でいちばんおいしそうなのはシェフが客に出す料理ではない。拒食症の少女が食べるパスタである。
 少女は母親が交通事故で死んでしまったので、こころを閉ざしている。何も食べようとしない。それを見た副シェフ(アーロン・エッカート)が少女(アビデイル・ブレスリン)の隣でバジルの葉っぱをちぎる。少女もいっしょになってちぎる。副シェフはパスタをもってきて、その上にバジルを散らす。そして食べる。少女はそれにこころをそそられる。自分のちぎった葉っぱもそのなかにあるからだ。どんな味だろう。つられて少女は食べはじめる。
 ここにこの映画のエッセンスがある。
 料理は自分がつくったものがいちばんおいしい。他人がつくってくれたどんなものより、自分の手がくわわったものの方がおいしい。
 そして、これは「もてなし」のこころそのものでもある。愛するひとのために料理をつくる。愛するひとのことを思ってつくる料理がおいしくないわけがないのである。
 この映画で、次に「おいしい」シーンは、その少女が副シェフといっしょになって、シェフ(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)の家でつくる料理である。キャサリン・ゼタ・ジョーンズは少女の叔母である。死んだと母親の姉である。
 少女は一生懸命に料理をつくる。ほとんどは副シェフがつくるのだが、気分的には少女が叔母のためにつくるという形だ。そのこころをうまく引き立てながらアーロン・エッカートは料理を少女といっしょになってつくる。
 そして、テーブルではなく、床にすわって、くつろげるだけくつろぎながら出来立てのピザを食べる。とてもいい感じだ。
 ここから、どんな料理でも、愛するひとといっしょに食べないのならおいしくない。愛するひとといっしょにつくって食べる料理にまさるものはない--という「哲学」のようなものが沸き上がってくる。ハリウッドのリメイクらしいストレートな感じが、しかし、ここでは悪い気持ちはしない。いい感じがする。
 いろいろな料理が出てくるが、別にそれを食べたいという気持ちにはならないが、愛するひとといっしょに料理を作って食べたいという気持ちになる映画である。



 母を亡くした少女を演じたのは、「ミス・リトル・サンシャイン」の少女である。この映画では脇役なのだが、びっくりするくらい「脇」を演じている。キャサリン・ゼタ・ジョーンズとアーロン・エッカートの恋の引き立て役なのだが、単なる「つなぎ」の役ではなく、生活に奥行きを持たせる役どころをきちんと把握している。的確に表現している。一度目が吸いよせられると、もう、少女から目をはなすことができない。むさぼるようにみつめてしまう。「脇」をこんなにしっかり演じてしまうのは、いったいどういうことだろうとびっくりするしかない。この少女の演技を見るだけでも、この映画を見る価値はある。
コメント
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