詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

尾山景子「冬の時間」

2008-07-07 01:01:39 | 詩(雑誌・同人誌)
 尾山景子「冬の時間」(「大マゼラン」11、2008年05月10日発行)
 尾山景子の「冬の時間」。ある一部分だけ、とても気になる。その行だけを引用する。

小船は静かに動いている
暗い空がすぐ頭上に来ている
早くここから逃れたい、と思っている
船の上で立ち上がる
体がふらつく
船が動く
下がってきている空を両手で持ち上げる
意外にかるく
すうーっと上に上がる
手を放すとまた少し下がる
船が動く

 とても美しい。そして、その美しさを破るようにして存在する「意外に」ということば。なんといえばいいのだろうか。「意外に」ということばがなければ、私は、この詩について書くことはなかったと思う。「意外に」が、空と私と船とを一回かぎりの出会いとして結びつけている。
 「意外に」が、たぶん、尾山の「思想」なのだ。

 何かを感じる。何かを見る。何かを聞く。なんでもいいけれど、そのとき「意外に」という感覚がふっと入り込む。「意外に」というのは、「意識」が裏切られるということである。その瞬間に、世界が動く。
 この詩では

船が動く

 と書かれているが、私が動いたのか、海が動いたのか、空が動いたのか、実際はよくわからない。「船」を「私」のいる「場」と考えればいいのかもしれない。その「場」が動いた。「意外」に誘われるようにして「意識」の「外」へ、つまり知らなかった「場」(領域)へ動いていくのである。
 この「動く」が、とても美しい。

コメント
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