池井昌樹『眠れる旅人』(4)(思潮社、2008年09月01日発行)
どんな語ることばも思い浮かばないのだけれど、ただ、好きだなあ、という作品に出会うときがある。
何かあれこれ語るべきことがあるのかもしれない。ほんとうは、語っても語っても語ったことにならないような何かがあるのかもしれない。そして、その何かに、私はまだたどりついていない。だから、何も語ることができないのである。
偉大な人間だけがその何かにたどりつく。そして凡人は、その偉大なひとがたどりついた何かをただ眺める。そして、それが自分が見つけた何かでもないのに、その世界にひきこまれる。自分でみつけだした何かと勘違いしそうである。
いいなあ。でも、どう言っていいのかわからない。ことばが、そのまま自分の肉体のなかをくぐりぬけて、私のなかから声をひっぱりだしてくれる。その声を出すことが気持ちがいい。意味もわからないのだけれど、そこには人間を救う何かがある。そんなことを感じる詩である。
中也の詩の世界に似ているかもしれない。内容が、というのではなく、そのことばの魔力が。そこに書かれていることば、それをただただ自分の舌でころがす。そうすると、そのことばがまるで自分のことばのように肉体になじんでくる。こころになじんでくる。愛唱歌というものがあるが、それに似た愛唱詩となる作品である。
池井の最高傑作である。きっと長く長く、ひとの口伝えで読者のなかに根付いて行く詩である。
ただ、声に出して読んでもらいたい。「豚児」。
どんな語ることばも思い浮かばないのだけれど、ただ、好きだなあ、という作品に出会うときがある。
何かあれこれ語るべきことがあるのかもしれない。ほんとうは、語っても語っても語ったことにならないような何かがあるのかもしれない。そして、その何かに、私はまだたどりついていない。だから、何も語ることができないのである。
偉大な人間だけがその何かにたどりつく。そして凡人は、その偉大なひとがたどりついた何かをただ眺める。そして、それが自分が見つけた何かでもないのに、その世界にひきこまれる。自分でみつけだした何かと勘違いしそうである。
いいなあ。でも、どう言っていいのかわからない。ことばが、そのまま自分の肉体のなかをくぐりぬけて、私のなかから声をひっぱりだしてくれる。その声を出すことが気持ちがいい。意味もわからないのだけれど、そこには人間を救う何かがある。そんなことを感じる詩である。
中也の詩の世界に似ているかもしれない。内容が、というのではなく、そのことばの魔力が。そこに書かれていることば、それをただただ自分の舌でころがす。そうすると、そのことばがまるで自分のことばのように肉体になじんでくる。こころになじんでくる。愛唱歌というものがあるが、それに似た愛唱詩となる作品である。
池井の最高傑作である。きっと長く長く、ひとの口伝えで読者のなかに根付いて行く詩である。
ただ、声に出して読んでもらいたい。「豚児」。
ひとのかわきたひとでなし
でも
ひとりなきたいよるがある
おろかなちちでありました
(こらよ)
おろかなおとこでありました
(つまよ)
おろかなむすこでありました
(ちちよ)
おろかなつみを
ゆるしたまいし
(ちちははよ)
ひとのかわきたひとでなし
でも
ひとりなきたいよるがある
ばけのかわぬぎふとんをかむり
ひとこえぶうと
きえいりそうに
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