池井昌樹+石井敬「ひらがなの調べ奏でる/心の最深部をつなぎたい」(「東京新聞」2009年06月06日夕刊)
東京新聞の石井敬が池井昌樹にインタビューした記事。そこに一か所、不思議なことばを読んだ。
『眠れる旅人』について語ったことばである。不思議なことば--というのは「死への自覚」ということばである。
私は、10年ほど前(『晴夜』のころ)から、池井はもう死んでしまうのではないかと、ずーっと恐れている。ことばがどんどん透明になり、現実とつながるのではなく、この世ではない血とつながる。この世ではない血とつながることで永遠になるという感じがしたからである。
私にとって、池井は特別な存在である。私が詩を書きはじめたときから、池井は詩人として存在していた。池井がいなかったら、私は詩を書いていないと思う。
私がはじめて池井の詩を読んだのは中学生のときである。「雨の日の黄色い畳」だったか、なんだったか、よくは覚えていないが、雨の日の古い畳の部屋を描いていた。それは、とても古くさい感じがした。その古くささは、畳の古くささではなく、古い畳の向こう側の世界と通じていた。遠い遠い「過去」とつながっていた。当時は「昭和」であるけれど、「昭和」ではなく、「明治」とつながっている。そういう印象があった。
この「いま」ではない時代とつながっているというのは、とても気持ちが悪い。そして、怖い。私は「怖い」というかわりに、いつもいつも、「池井の詩は気持ち悪い」と言い続けていた。
それが『晴夜』で、印象がかわった。
「古い時代」とつながっているのではなく、この世ではない「遠い血」とつながっている感じがしたのである。「遠いいのち」とつながっている気がしたのである。(そういうことを、私は『晴夜』の感想で書いたように思う。)そして、それは、私には、池井がこの世を去っていくときの「あいさつ」のように感じられた。
私には、そのことがとても怖かった。
だから、池井と話す機会があると必ず「まだ死んでいないのか」「まだ死なないのか」と、わざと口にした。「死」を現実よりも先にことばにすれば、「死」の方が「現実」に「死」があると勘違いして、私と池井の間に入ってこないような気がしたのである。
池井は、いま、死への自覚が芽生えたと書いている。もしそうだとすると、詩人というのは、自覚よりもはるか昔から、知らないことを書いてしまう人間のことなのだろうと思う。
東京新聞の石井敬が池井昌樹にインタビューした記事。そこに一か所、不思議なことばを読んだ。
池井さんは「この年になって『死への自覚』が私の中で芽生えたことが、これまでの詩集と違う」と語る。
『眠れる旅人』について語ったことばである。不思議なことば--というのは「死への自覚」ということばである。
私は、10年ほど前(『晴夜』のころ)から、池井はもう死んでしまうのではないかと、ずーっと恐れている。ことばがどんどん透明になり、現実とつながるのではなく、この世ではない血とつながる。この世ではない血とつながることで永遠になるという感じがしたからである。
私にとって、池井は特別な存在である。私が詩を書きはじめたときから、池井は詩人として存在していた。池井がいなかったら、私は詩を書いていないと思う。
私がはじめて池井の詩を読んだのは中学生のときである。「雨の日の黄色い畳」だったか、なんだったか、よくは覚えていないが、雨の日の古い畳の部屋を描いていた。それは、とても古くさい感じがした。その古くささは、畳の古くささではなく、古い畳の向こう側の世界と通じていた。遠い遠い「過去」とつながっていた。当時は「昭和」であるけれど、「昭和」ではなく、「明治」とつながっている。そういう印象があった。
この「いま」ではない時代とつながっているというのは、とても気持ちが悪い。そして、怖い。私は「怖い」というかわりに、いつもいつも、「池井の詩は気持ち悪い」と言い続けていた。
それが『晴夜』で、印象がかわった。
「古い時代」とつながっているのではなく、この世ではない「遠い血」とつながっている感じがしたのである。「遠いいのち」とつながっている気がしたのである。(そういうことを、私は『晴夜』の感想で書いたように思う。)そして、それは、私には、池井がこの世を去っていくときの「あいさつ」のように感じられた。
私には、そのことがとても怖かった。
だから、池井と話す機会があると必ず「まだ死んでいないのか」「まだ死なないのか」と、わざと口にした。「死」を現実よりも先にことばにすれば、「死」の方が「現実」に「死」があると勘違いして、私と池井の間に入ってこないような気がしたのである。
池井は、いま、死への自覚が芽生えたと書いている。もしそうだとすると、詩人というのは、自覚よりもはるか昔から、知らないことを書いてしまう人間のことなのだろうと思う。
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