高橋睦郎『百枕』(15)(書肆山田りぶるどるしおる、2010年07月10日発行)
「枕詞--九月」。「枕」がだんだんほんものの「枕」から「意味」としての「枕」にかわってきた。「もの」から「ことば」にかわってきた。
エッセイで高橋は、「枕詞」を
と定義している。「共寝」を「ともね」ではなく「きょうしん」と読ませている。あ、寝てしまわないんだ、同じ振動(バイブレーション)で(共振することで)、高まっていくんだ、遊ぶんだ--と、おもしろく感じた。そうだねえ、「共寝」って「寝る」ことが目的じゃないんだから……。
ことばはおもしろいもんだなあ、と思った。
句は、いつものことだが最初の句がおもしろい。
「胸枕」は腹這いになって、そのままでは鼻・口が塞がって息ができないので、胸の下に枕をおいている状態をいうのだろう。長い夜、寝つかれずに体のむきをあれこれ変えてみる、そうしてますます眠れなくなる--その長い時間が、「胸枕」という具体的なことばではっきりしてくる。
「胸枕」という「枕」はないかもしれないが、いまなら、「抱き枕」がある。やはり寝つかれないときにつかうんだけれど、そういうものも句に登場するとおもしろいかな、とも思った。
というのは。
という句があって、その「りんの玉」を高橋は次のように説明している。
あ、よくわからない。どうやってつかうの? 高橋はつかったことがあるの? 末尾の「という」という伝聞形式の表現が気になる。
「共寝」が「寝る」ことを指さないように、「枕」はどうしても「閨房」とつながる。「枕詞」という「ことば(文学)」に視点を誘っておいて、その実、こっそりセックスをしのばせる。その感じが、すけべこころを刺激する。好奇心を刺激する。そして、好奇心が働くからこそ、ことばを読む気になるんだなあ、とも思った。
*
反句は、折口信夫に捧げた一句。
それに先立って、
と高橋は書いている。
この実より虚という、ことばにかける思い--それは「枕詞」だけではなく、あらゆる表現に共通するものかもしれない。ことばがことばと出合う--そのとき、「共寝」するものがある。
「共寝」が詩なのだ。

「枕詞--九月」。「枕」がだんだんほんものの「枕」から「意味」としての「枕」にかわってきた。「もの」から「ことば」にかわってきた。
エッセイで高橋は、「枕詞」を
詞(ことば)の枕で土地の神霊と共寝(きょうしん)して、詩(ポエジー)の夢天に遊ぶ
と定義している。「共寝」を「ともね」ではなく「きょうしん」と読ませている。あ、寝てしまわないんだ、同じ振動(バイブレーション)で(共振することで)、高まっていくんだ、遊ぶんだ--と、おもしろく感じた。そうだねえ、「共寝」って「寝る」ことが目的じゃないんだから……。
ことばはおもしろいもんだなあ、と思った。
句は、いつものことだが最初の句がおもしろい。
あしひきの長ガ夜を寝(い)ねず胸ナ枕
「胸枕」は腹這いになって、そのままでは鼻・口が塞がって息ができないので、胸の下に枕をおいている状態をいうのだろう。長い夜、寝つかれずに体のむきをあれこれ変えてみる、そうしてますます眠れなくなる--その長い時間が、「胸枕」という具体的なことばではっきりしてくる。
「胸枕」という「枕」はないかもしれないが、いまなら、「抱き枕」がある。やはり寝つかれないときにつかうんだけれど、そういうものも句に登場するとおもしろいかな、とも思った。
というのは。
たまくしげ箱枕にはりんの玉
という句があって、その「りんの玉」を高橋は次のように説明している。
「りんの玉」は閨房具で鳩の卵大の二玉から成り、中実の一玉で中空の一玉を突けば、りんりんと美音を発する、という。
あ、よくわからない。どうやってつかうの? 高橋はつかったことがあるの? 末尾の「という」という伝聞形式の表現が気になる。
「共寝」が「寝る」ことを指さないように、「枕」はどうしても「閨房」とつながる。「枕詞」という「ことば(文学)」に視点を誘っておいて、その実、こっそりセックスをしのばせる。その感じが、すけべこころを刺激する。好奇心を刺激する。そして、好奇心が働くからこそ、ことばを読む気になるんだなあ、とも思った。
*
反句は、折口信夫に捧げた一句。
歌つひに枕序詞落葉焚
それに先立って、
歌の生命の中心はむしろ序詞や枕詞の虚にあって、それらに飾られている実のぶぶんにあるのではない、
と高橋は書いている。
この実より虚という、ことばにかける思い--それは「枕詞」だけではなく、あらゆる表現に共通するものかもしれない。ことばがことばと出合う--そのとき、「共寝」するものがある。
「共寝」が詩なのだ。
![]() | 百人一首高橋 睦郎ピエ・ブックスこのアイテムの詳細を見る |
