矢ヶ崎 正
はらはらと落ち葉が舞ったようでいて
よく見ればそれは紙吹雪だった
「おめでとうございます。
あなたは地球百兆回転目の訪問者です!」
わたしは訪問者なんかじゃないと
オフィーリアは思ったが
くす玉を割って迎えられ戸惑うばかり
谷内修三
折鶴をほどいて平たい紙にしているのは誰?
残った折れ線を手のひらに重ね合わせているのは誰?
市堀 玉宗
水を売る女淋しき月の路地
小田 千代子
晩秋はつるべ落としにこぼれ萩 決して太らぬ月を観ている
キタダヒロヒコ
千人のオフィーリアは月の裏に住む王を想ふ
膝まで覆ふ草ぐさの吐く真昼のエゴイズム
彼女たちの腰骨で螺旋のやうに死ねば本望
ほそいほそい光合成が遠い手紙のなかで繰り返す
ただ千人のピカソだけが信頼を得て肖像(にがほ)を描き
はるかな場所で暴かれる日を待つてゐる
坂多 瑩子
恋夢見まっさらな十月抱きしめて
小田 千代子
箸あらう女にあたる幻夢の月の
蒼き光は胸絞るだけ
キタダヒロヒコ
真水で描いた月のにほひは消えやすく
うたごゑなびく女子感化院
山下 晴代
「尼寺って、どちらの尼寺ですの?」
谷内修三
瀬戸内寂聴のところだけはいやだわ。
誰にでも過去はあるけれど、
過去は物語じゃないんだもの。
ことばにとじこめられるのは、
死ぬより悲しいわ。
ことば、ことば、ことば、
word word wors
ことばはみんな嘘つきよ。
茸地 寒
菜切り包丁買ひ来し夜の流星
ロマの娘たちにまじって
その子は 浮かんでいる。それは
南禅寺の水道橋の上だったり
モネの睡蓮の池だっりした。
市堀玉宗
いはれたるまゝに一文字買ひしのみ
金子忠政
尽くそうとして過剰になる
言葉の応酬が
じとじとのうつろを編み上げる
田島安江
路地を抜けてすぎる
あなたの後ろ姿を
明るい陽が追っていく
明るい言葉が
あなたの影を染める
市堀玉宗
木漏れ日に浮かび出でたる秋の蝶
谷内修三
それはきのうのオフィーリア、あしたのオフィーリア
そして五年前の、百年前のオフィーリア、
十億年前は誰もいない草原で光と風に酔い、
千年先には異国の街でジュリエットになると信じていた。
それは一万日あとの憧れいづる泉式部、
三日目の雲居にかくれる紫式部のあまたある女御、
橋本 正秀
とめどなく落ち続ける星屑に埋もれる千人のオフィーリア。彼女らの光る眼に星屑がきらめき覆う。
金子忠政
かっ、と眼を見ひらいたまま
くるくる落ちていく
落ちていく
「哀しき狂乱のひと」、それも類?
すべてのオフィーリアたち
音もなく襲いかかる大気に
心砕かれ深い淵に投身していく
硬雪のようなしんたいたち
冷たくまばゆい白に輝いて
迷宮を描き降下していく
忘却の河、そう、歴史の真っ只中を
市堀玉宗
まぐはひの女落ちゆく銀河かな
矢ヶ崎 正
千人のオフィーリアには千の星
それらはみな遠い宇宙の隅々にあって
誰かしらを見守っているようだ
だがそれは ひとから見た風景であり
本当のオフィーリアを知ったことにはならない
はらはらと落ち葉が舞ったようでいて
よく見ればそれは紙吹雪だった
「おめでとうございます。
あなたは地球百兆回転目の訪問者です!」
わたしは訪問者なんかじゃないと
オフィーリアは思ったが
くす玉を割って迎えられ戸惑うばかり
谷内修三
折鶴をほどいて平たい紙にしているのは誰?
残った折れ線を手のひらに重ね合わせているのは誰?
市堀 玉宗
水を売る女淋しき月の路地
小田 千代子
晩秋はつるべ落としにこぼれ萩 決して太らぬ月を観ている
キタダヒロヒコ
千人のオフィーリアは月の裏に住む王を想ふ
膝まで覆ふ草ぐさの吐く真昼のエゴイズム
彼女たちの腰骨で螺旋のやうに死ねば本望
ほそいほそい光合成が遠い手紙のなかで繰り返す
ただ千人のピカソだけが信頼を得て肖像(にがほ)を描き
はるかな場所で暴かれる日を待つてゐる
坂多 瑩子
恋夢見まっさらな十月抱きしめて
小田 千代子
箸あらう女にあたる幻夢の月の
蒼き光は胸絞るだけ
キタダヒロヒコ
真水で描いた月のにほひは消えやすく
うたごゑなびく女子感化院
山下 晴代
「尼寺って、どちらの尼寺ですの?」
谷内修三
瀬戸内寂聴のところだけはいやだわ。
誰にでも過去はあるけれど、
過去は物語じゃないんだもの。
ことばにとじこめられるのは、
死ぬより悲しいわ。
ことば、ことば、ことば、
word word wors
ことばはみんな嘘つきよ。
茸地 寒
菜切り包丁買ひ来し夜の流星
ロマの娘たちにまじって
その子は 浮かんでいる。それは
南禅寺の水道橋の上だったり
モネの睡蓮の池だっりした。
市堀玉宗
いはれたるまゝに一文字買ひしのみ
金子忠政
尽くそうとして過剰になる
言葉の応酬が
じとじとのうつろを編み上げる
田島安江
路地を抜けてすぎる
あなたの後ろ姿を
明るい陽が追っていく
明るい言葉が
あなたの影を染める
市堀玉宗
木漏れ日に浮かび出でたる秋の蝶
谷内修三
それはきのうのオフィーリア、あしたのオフィーリア
そして五年前の、百年前のオフィーリア、
十億年前は誰もいない草原で光と風に酔い、
千年先には異国の街でジュリエットになると信じていた。
それは一万日あとの憧れいづる泉式部、
三日目の雲居にかくれる紫式部のあまたある女御、
橋本 正秀
とめどなく落ち続ける星屑に埋もれる千人のオフィーリア。彼女らの光る眼に星屑がきらめき覆う。
金子忠政
かっ、と眼を見ひらいたまま
くるくる落ちていく
落ちていく
「哀しき狂乱のひと」、それも類?
すべてのオフィーリアたち
音もなく襲いかかる大気に
心砕かれ深い淵に投身していく
硬雪のようなしんたいたち
冷たくまばゆい白に輝いて
迷宮を描き降下していく
忘却の河、そう、歴史の真っ只中を
市堀玉宗
まぐはひの女落ちゆく銀河かな
矢ヶ崎 正
千人のオフィーリアには千の星
それらはみな遠い宇宙の隅々にあって
誰かしらを見守っているようだ
だがそれは ひとから見た風景であり
本当のオフィーリアを知ったことにはならない