詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

「こころ」再読が本になります

2014-06-08 11:10:52 | 詩集
「こころ」再読が本になります


 ブログで連載した「こころ」再読が本になります。
 「谷川俊太郎の『こころ』を読む」(思潮社、06月30日発行、定価1800円)(予定)

 谷川俊太郎さんが「帯」を書いています。

 「びっくりしました、詩ってこんなに面白く読めるんですね。
  詩人になりたい人、詩が好きな人、詩が苦手な人、
  詩を教えている人に読んでほしい。」
 
 実は、谷川さんにお会いし、出版の話をしていたとき、
 「谷内くん、こんな本を出したら詩壇から抹殺されるかもしれないなあ(爆笑)」
 と言われてしまった。
 そのことばを「帯」につかいたいと言ったところ、「そんなのじゃだめ」というので、一転して、上記のような「帯」を書いてくれました。
 矛盾の多い、型破りな、思潮社らしくない本かもしれません。
 担当してくれた思潮社の高木さんも、「そのまま活字にして大丈夫なのかなあ。谷川さんがいいと言ってくれるかなあ」とずいぶん心配していましたが……。

 それやこれや、付録(?)のような形で、ブログの「日記」が本になるまでの過程(裏話)も収録しています。ブログでいろいろな発表活動をしている人、出版をめざしている人の参考にもなるかもしれません。
 谷川さんの『こころ』(朝日新聞)とあわせて読むと楽しく読めるのではと思っています。

 最寄りの書店、思潮社(TEL03・3267・8153FAX03・3267・8142、sichosha@sight.ne.jp) でご予約下さい。Amazonでは、まだ予約はできません。


 ツーショットの写真は、打ち合わせのために谷川さん邸を訪問したときものです。高木さんが撮ってくれました。
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中井久夫訳カヴァフィスを読む(78)

2014-06-08 06:00:00 | カヴァフィスを読む
中井久夫訳カヴァフィスを読む(78)          

 カヴァフィスの詩には歴史に詳しくないとわからないものが多い。「アレクサンドリアからの使節」もそのひとつ。中井久夫は注釈で「プトレマイオス『愛母王』とプトレマイオス七世『善行王』との王位争い」を描いたものであると簡単に説明しているが、歴史に疎い私には、何のことかよくわからない。
 けれども詩の「口調」から、史実とは違った何かがわかる。

こんな素敵な供え物はなかったな、そう、何世紀も、
プトレマイオス家の二兄弟、このライバルの二王ほどのは。
頂戴はしたが司祭らはびくびく、
どう予言する? 微妙妙のきわみ、
生涯の経験全てを総動員して、さあ、どう表現するか、
二人のどちら、こういう兄弟ならどっちを斥けるべきか、
司祭らは深夜ひそかに頭を集めて
ラギデス家の家庭問題を討議。

 どちらを王に相応しくないと「予言」すべきなのか(斥けるべきか)、悩む司祭たち。「予言」はそのまま実行・実現されるだけではなく、どうしたって生身の反動をともなう。王に相応しくないと言われた方の男が力づくで司祭を殺害し、予言を変えてしまうということだってあるだろう。権力争いにけりをつけるはずが、権力争いの渦中にまきこまれる。斥ける(亡き者にする)は、そのまま司祭に跳ね返る。
 そのときの司祭の不安の「声」が、司祭の「主観」があざやかに描かれている。王位争いという「歴史」の舞台裏の、司祭の姿が、「歴史」を卑近なもの、庶民に近いものに変える。王位争いは庶民には縁がないが、王次第でどんな政治がおこなわれ、その結果どんな苦労をしなければならないかは庶民の問題である。そういう不安があるから、庶民は王位争いを注目する。
 さて、そのときの司祭たち。「深夜ひそかに頭を集めて」という描写がおもしろい。実際に頭をつきあわせている司祭たちの姿が見える。頭をつきあわせるのは、ひそひそ声で会話しているからだ。ほかの人間には聞かれないよう、小さな場所にあつまり、さらに小さくなって会話している。
 そして、その会話の内容といえば、「王位争い」と言えば聞こえはいいが、なに、たかが「家庭問題」である。兄弟のだれが王になるかというのは、司祭にも庶民にも関係がない「王家」の「家庭問題」である。
 この「家庭問題」はいうことばが、とてつもなくなまなましい。「家庭問題」なら、だれでも知っている。体験している。うんざりしている。こういうことばが、「歴史」をぐいと「いま」に引き寄せる。
 この詩も「ネロの生命線」のように短編小説ふうの「オチ」がついている。
 司祭たちの不安は、「オチ」によって一気に解決されるのだが、この急展開のことばはこびも、「歴史」を身近に引き寄せる力になっている。
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