詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

森口みや「コタローへ」

2018-03-01 10:16:31 | 詩(雑誌・同人誌)
森口みや「コタローへ」(「現代詩手帖」2018年03月号)

 森口みやの詩を読んでいると、ふと高岡淳四を思い出した。書いていることは違うが「正直」が似ている。自分の知っていることばをきちんと守っている。知っていることばで語っている。
 コタローというのは亀なのだと思う。どこかでみつけてきて、飼っている。エサは野菜というか、植物だ。

山盛りの野菜の食事のあと
ほっぺに緑色を貼り付けたまま……
きみは不器用で
一口分にも一苦労なんだもの
「きみの食欲がいじらしいよ。」

 うーん、亀は飼ったことがないが、視線がこんな具合に亀に吸いついて「ゆっくり」動くんだろうなあ。「ほっぺに緑色を貼り付けたまま」には「幼児ことば」もあって、人間はどうして動物に「幼児ことば」で向き合うんだろうか、なんていうことも考えてしまう。「一口分にも一苦労なんだもの」には笑ってしまう。亀の苦労なんか、森口以外、だれも気にしていないよ。
 などと、軽口をたたいていると楽しくなる。
 森口は2月号でも「食べる」ことを書いていたなあ。「食べる」というのは基本的な動詞なので、人間をとおりこえて世界につながる。それがおもしろいのかもしれない。
 途中に、こんな部分がある。

あぷ、あぷ、あぷ
きみに溺れてるみたいに、新しい食べものと
格闘する。
何度も食らいつき損ね、前足で茎を押さえな
がらようやく最初の一口を齧りとったきみを
見届けてから、私もフォークの先を口に含む。
一緒に食べると、おいしいな。

 「一緒に食べる」とき、亀と人間の区別がなくなる。「食べる」という動詞だけが残る。「食べる」ことは「生きる」こと。「一緒に生きると」、その相手がだれであれ楽しくなる。
 詩の最後。

コタローが気に入ったんなら、今日からこの
街のクローバーは全部コタローのものだから、
好きなだけお食べね。
ここらの地面のあちこちが、禿げつるりんの
ピカピカになっても
コタロー、
きみは、何も悪くない。
いっぱい食べて、大きくなるんだよ。

 「きみは、何も悪くない。」この「肯定力」がいいなあ。亀をかわいがっても、何も悪くない。
 「あぷ、あぷ、あぷ」とか「ピカピカ」とか、軽いことばも楽しい。
 「現代詩手帖」の今月号は「詩と哲学」という特集を組んでいる。なんだかめんどうくさそうなことを書いてあるのが、「あぷ、あぷ、あぷ」とか「ピカピカ」ということばのなかに生きている「哲学」を語っているひとはいない。(ちらっとみただけだけれど。)「哲学」というような大問題をテーマに掲げるのなら、ぜひ、そういうことばに目を向けてほしいなあと思う。
 あ、関係のないことを書いてしまったかな。
 でも私は、「特集」の執筆者が語ることよりも、森口の詩の方が「哲学」に近いと思う。なんといっても「正直」だからね。「哲学」とか「思想」は「正直」から始めるしかないものだと私は思っている。


 

*


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目次

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河邉由紀恵「島」13  タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21  最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28  鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37  若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47  佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64  及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
     *
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谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(17)

2018-03-01 08:46:59 | 谷川俊太郎『聴くと聞こえる』
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(17)(創元社、2018年02月10日発行)

 「ひとり」という詩のなかに、どんな音かあるのか。どんな音楽があるのか。

きらめく朝の陽差しの中で
あなたの裸の心を見たい
そよ風をわたる林の中で
かくされたのぞみを知りたい
人は傷つけあうしかないとしても
この世に生まれた初めての時に
あなたが触れた世界がいとしい

 「そよ風のわたる林」には「音」があるかもしれない。でも、ここから「音」が聞こえるというのは強引な読み方だろうなあ。
 「音」は聞こえない。
 では、「沈黙」はどうだろう。「沈黙」ももともと「音」がないから聞こえるはずがない。
 でも、こう考えてみよう。
 これまで読んできた詩で、「沈黙」は「音(音楽)」と深く結びついていた。ともにあった。
 この詩の中で、ともに「ある」けれど、書かれて「いない」(ない)ものはないだろうか。もし「ある」とすれば、それは「沈黙」ではないのか。
 「見たい」「知りたい」という動詞がある。主語は「あなた」ではない。「私」だ。
 私が「ある」のに隠されている。
 では、「私」が「沈黙」なのか。
 「あなたの裸のこころ」を「見たい」、「かくされたのぞみ」を「知りたい」。そういうとき、そこに「ない」のは「私」ではなく、「ことば」にされている「裸のこころ」と「のぞみ」である。
 「ことば」になっているものが「ない」(かくされている)。
 「ことば」をとおして、その「ない」ものと向き合っている。
 「ことば」にされていない「私」は「ある」。けれども「ことば」にされている「裸のこころ」と「のぞみ」は「ない」(見えない、知り得ない)。
 そして「あなたが触れた世界」も「いま/ここ」に「ない」。「ことば」にできる、「ことば」として「ある」けれど、「ない」。
 この「ある」と「ない」の関係が「音/音楽」と「沈黙」の結びつきにとても似ている。

 「強い結びつき」(切り離せないもの)は、「見たい」「知りたい」という「欲望」(動詞)のなかにも隠れているかもしれない。
 「見たい」「知りたい」は、単に「見る」「知る」という欲望ではない。「見る」「知る」ことで、その「見たもの」「知ったもの」と「ひとつ」になりたいということだ。
 でも「主語」が違うもの、「あなた」と「私」が「ひとつ」になれど、それは「傷つけあう」ということになるかもしれない。
 そして、この「傷つける」という動詞は「いとしい」という「ことば」と向き合っている。「いとしい」を「欲望」の形でいいなおすと「愛したい」になるかもしれない。「傷つける」「愛する」、「傷つけたい」「愛したい」は、「ある」と「ない」のように出会っている。固く結びついている。
 これもまた「音/音楽」と「沈黙」の結びつきに似ている。

 この一連目には、また「生まれる」と「触れる」という動詞がある。この動詞の主語は「あなた」である。あなたが生まれ、あなたが触れる。それと同時に世界が生まれる。世界があなたに触れる。「あなた」が世界を「生む」、世界が「あなた」に触れる。これも切り離せない。
 そこに「初めて」ということばもある。
 「初めて」は、それまで「世界」がなかった(ない)、ということを語っている。それまではなかった。それが「初めて」「ある」にかわった。
 「ない」が「ある」にかわる。
 その「初めて」という「瞬間」こそ、谷川は「見たい」「知りたい」「愛したい」と思っている。

 詩の後半には、「問い」と「答え」という抽象的な「対」が登場してくるが、前半の方が私は好きである。

 

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どこを防衛する?

2018-03-01 00:00:09 | 自民党憲法改正草案を読む
どこを防衛する?
             自民党憲法改正草案を読む/番外181(情報の読み方)

 2018年02月27日の朝日新聞(西部版・14版)の一面

沖縄本島にミサイル部隊/地対艦 政府、配備を検討/中国軍の航行牽制

 という見出し。

 沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を中国海軍の艦艇が航行するのが常態化していることから、政府は地対艦誘導弾(SSS)の部隊を沖縄本島に配備する方向で検討に入った。すでに宮古島への部隊配備は決まっており、海峡の両側から中国軍を強く牽制する狙いがある。

 これを地図入りで紹介しているのだが、これって、どこを守るためのもの?
 沖縄本島と宮古島との間は 290キロも離れている。
 いわゆる「離島防衛」というのなら、沖縄本島には必要ないだろう。沖縄本島には巨大な米軍基地がある。
 だいたい、宮古海峡って、中国の艦船が通ってはいけないところ? 日本の領海?
 記事の最後に、こう書いてある。

 宮古海峡をめぐっては、中国海軍の艦艇4隻が08年11月に初めてここを通って太平洋に進出。(略)今年1月には原子力潜水艦が航行しているのが確認された。公海部分を通るのは国際法上問題はないが、防衛省幹部は「西太平洋で活動する米軍にとって大きな脅威になっている」と話す。

 これでは日本の防衛ではなく、「アメリカ軍を防衛する」ためのミサイルということになる。でも、アメリカ軍って、自衛隊が守らないといけないくらいに脆弱な部隊?
 違うね。
 これは、自衛隊が米軍の「下働き」に過ぎないという「証拠」(証明)。アメリカに言われて、宮古海峡を通る中国の艦隊にプレッシャーをかける、ということだ。

 こんなアメリカのいうがままの状態のなかで憲法9条を改正して、自衛隊を「合憲化」したとして、自衛隊はどう動くのだろう。内閣総理大臣(安倍)が「最高指揮官」とも明記したいらしいが、実際に指揮できるのか。アメリカ軍が指揮するだけだろう。
 自衛隊員が戦死したら、安倍は「最高指揮官は内閣総理大臣である私だが、実際に指揮したのはアメリカ軍であり、私には責任はない」と言い張るんだろうなあ。



#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


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「天皇の悲鳴」(1500円、送料込み)はオンデマンド出版です。
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松井久子監督「不思議なクニの憲法」上映会。
2018年5月20日(日曜日)13時。
福岡市立中央市民センター
「不思議なクニの憲法2018」を見る会
入場料1000円(当日券なし)
問い合わせは
yachisyuso@gmail.com


憲法9条改正、これでいいのか 詩人が解明ー言葉の奥の危ない思想ー
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