森口みや「コタローへ」(「現代詩手帖」2018年03月号)
森口みやの詩を読んでいると、ふと高岡淳四を思い出した。書いていることは違うが「正直」が似ている。自分の知っていることばをきちんと守っている。知っていることばで語っている。
コタローというのは亀なのだと思う。どこかでみつけてきて、飼っている。エサは野菜というか、植物だ。
うーん、亀は飼ったことがないが、視線がこんな具合に亀に吸いついて「ゆっくり」動くんだろうなあ。「ほっぺに緑色を貼り付けたまま」には「幼児ことば」もあって、人間はどうして動物に「幼児ことば」で向き合うんだろうか、なんていうことも考えてしまう。「一口分にも一苦労なんだもの」には笑ってしまう。亀の苦労なんか、森口以外、だれも気にしていないよ。
などと、軽口をたたいていると楽しくなる。
森口は2月号でも「食べる」ことを書いていたなあ。「食べる」というのは基本的な動詞なので、人間をとおりこえて世界につながる。それがおもしろいのかもしれない。
途中に、こんな部分がある。
「一緒に食べる」とき、亀と人間の区別がなくなる。「食べる」という動詞だけが残る。「食べる」ことは「生きる」こと。「一緒に生きると」、その相手がだれであれ楽しくなる。
詩の最後。
「きみは、何も悪くない。」この「肯定力」がいいなあ。亀をかわいがっても、何も悪くない。
「あぷ、あぷ、あぷ」とか「ピカピカ」とか、軽いことばも楽しい。
「現代詩手帖」の今月号は「詩と哲学」という特集を組んでいる。なんだかめんどうくさそうなことを書いてあるのが、「あぷ、あぷ、あぷ」とか「ピカピカ」ということばのなかに生きている「哲学」を語っているひとはいない。(ちらっとみただけだけれど。)「哲学」というような大問題をテーマに掲げるのなら、ぜひ、そういうことばに目を向けてほしいなあと思う。
あ、関係のないことを書いてしまったかな。
でも私は、「特集」の執筆者が語ることよりも、森口の詩の方が「哲学」に近いと思う。なんといっても「正直」だからね。「哲学」とか「思想」は「正直」から始めるしかないものだと私は思っている。
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「詩はどこにあるか」2月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか1月号注文
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目次
小川三郎「沼に水草」2 岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13 タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21 最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28 鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47 佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64 及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
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谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168073009
(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
森口みやの詩を読んでいると、ふと高岡淳四を思い出した。書いていることは違うが「正直」が似ている。自分の知っていることばをきちんと守っている。知っていることばで語っている。
コタローというのは亀なのだと思う。どこかでみつけてきて、飼っている。エサは野菜というか、植物だ。
山盛りの野菜の食事のあと
ほっぺに緑色を貼り付けたまま……
きみは不器用で
一口分にも一苦労なんだもの
「きみの食欲がいじらしいよ。」
うーん、亀は飼ったことがないが、視線がこんな具合に亀に吸いついて「ゆっくり」動くんだろうなあ。「ほっぺに緑色を貼り付けたまま」には「幼児ことば」もあって、人間はどうして動物に「幼児ことば」で向き合うんだろうか、なんていうことも考えてしまう。「一口分にも一苦労なんだもの」には笑ってしまう。亀の苦労なんか、森口以外、だれも気にしていないよ。
などと、軽口をたたいていると楽しくなる。
森口は2月号でも「食べる」ことを書いていたなあ。「食べる」というのは基本的な動詞なので、人間をとおりこえて世界につながる。それがおもしろいのかもしれない。
途中に、こんな部分がある。
あぷ、あぷ、あぷ
きみに溺れてるみたいに、新しい食べものと
格闘する。
何度も食らいつき損ね、前足で茎を押さえな
がらようやく最初の一口を齧りとったきみを
見届けてから、私もフォークの先を口に含む。
一緒に食べると、おいしいな。
「一緒に食べる」とき、亀と人間の区別がなくなる。「食べる」という動詞だけが残る。「食べる」ことは「生きる」こと。「一緒に生きると」、その相手がだれであれ楽しくなる。
詩の最後。
コタローが気に入ったんなら、今日からこの
街のクローバーは全部コタローのものだから、
好きなだけお食べね。
ここらの地面のあちこちが、禿げつるりんの
ピカピカになっても
コタロー、
きみは、何も悪くない。
いっぱい食べて、大きくなるんだよ。
「きみは、何も悪くない。」この「肯定力」がいいなあ。亀をかわいがっても、何も悪くない。
「あぷ、あぷ、あぷ」とか「ピカピカ」とか、軽いことばも楽しい。
「現代詩手帖」の今月号は「詩と哲学」という特集を組んでいる。なんだかめんどうくさそうなことを書いてあるのが、「あぷ、あぷ、あぷ」とか「ピカピカ」ということばのなかに生きている「哲学」を語っているひとはいない。(ちらっとみただけだけれど。)「哲学」というような大問題をテーマに掲げるのなら、ぜひ、そういうことばに目を向けてほしいなあと思う。
あ、関係のないことを書いてしまったかな。
でも私は、「特集」の執筆者が語ることよりも、森口の詩の方が「哲学」に近いと思う。なんといっても「正直」だからね。「哲学」とか「思想」は「正直」から始めるしかないものだと私は思っている。
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「詩はどこにあるか」2月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか1月号注文
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ここをクリックして1750円の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
目次
小川三郎「沼に水草」2 岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13 タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21 最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28 鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47 佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64 及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
*
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
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