詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

どう指示するか、どう読み取るか

2018-03-20 12:22:57 | 自民党憲法改正草案を読む
どう指示するか、どう読み取るか
             自民党憲法改正草案を読む/番外195(情報の読み方)


 「森友学園文書改竄」に関する参院予算委。2018年3月20日の読売新聞
(西部版・14版)の一面では

森友書き換え/佐川氏「廃棄」答弁が契機/集中審議財務省側/証人喚問来週に

 という見出し。これは安倍側の描いた「構図」をそのまま述べたものだ。
 責任を財務省と佐川におしつけて収拾をはかろうとしている。
 大きくは取り上げられていないが、私が読んだかぎりでは、今回の審議のポイントは2点ある。いずれも太田財務省理財局長が関係してくる。

 (1)自民党の和田政宗が太田に対して、民主党政権時代に野田首相の秘書官を務めたことに触れたあと、

「(財務省は)増税派だから、安倍政権をおとしめるために、意図的に変な答弁をしているのではないか」と指摘した。(読売新聞4面)

 これは何としてでも財務省に責任をおしつけようとする意図を鮮明にあらわしている。安倍を擁護できれば、何でも言うといたぐいのものである。
 自民党議員を名乗って質問しているのだから、これは自民党の基本姿勢だといえる。読売新聞は小さくしか報道していない。こういう「暴論」は取り上げるに値しないと判断しているのかもしれないが、「ちいさなほころび」こそが、今回の事件のポイントである。
 こういう発言を自民党幹部が「容認」しているのは、自民党全体が、財務省にすべてを押しつけようとしているということである。
 これに対して麻生が何も反論していないのがひどい。財務省を管轄する大臣として、「財務省を侮辱することは許せない」と言うべきである。言わないのは、財務省の職員がどうなろうと知ったことではないと思っているからだろう。

(2)共産党の小池が、なぜ昭恵の名前が記述されていたのか、と問うたのに対して、太田は、

「それは基本的に総理夫人だということだ」

 と答えている。文書の改竄をしたといわれている佐川ではなく、太田がそう答えている。だとすれば、これは財務省の職員の多くに共有されている認識である。「総理夫人」が関係している案件であると認識していない担当者はいないとさえ言える。
 安倍は関与していないと主張しているが、財務省職員は「関与」と認識している。そして、その「証拠」が昭恵の名前である。安倍は「私の発言がきっかけとの仮説が事実なら、全ての削除された箇所に妻の記述がなければならない」と言うが、すべての削除箇所に昭恵の名前がないと、昭恵が関与しているかどうか財務省職員に認識されないと考える方がおかしい。「秘密」の共有は一回でいい。
 「回数」は関係ない。「一回」であるとしても、そこから「何を読み取るか」である。

 「昭恵」を総理夫人と読み取るなら、昭恵の秘書の谷の名前も総理夫人秘書と読み取るだろう。そういう「読み取り方」を「仕事」としているのが官僚なのではないのか。そういう「読み取り方」を指導しているのではないのか。
 これは官僚に限らない。どんなビジネスの世界でも、個人を個人としては見ない。「組織」というか「体系」を念頭において動いている。

 今回の事件の「黒幕」が誰なのか、わからない。それが、たとえば安倍の側近だとする。その側近の指示で佐川が動き、佐川がまただれかを動かす。こういうとき、「黒幕」の指示は、そのまま安倍の指示である。安倍が直接指示しているかどうかは問題ではない。指示を受けた人間は「安倍の指示」と受け止める。
 どんなことでも、指示する方と支持される方があり、指示される方がどう受け止めたかが「事件」を解明するカギになる。もし指示された方の「理解」が間違っていたのなら、間違いを誘うような指示をした方が悪い。「意図」が共有されないシステムがおかしいということになる。
 で、ふつうは、こういうときトップが責任をとる。
 いろいろなメーカーで、「資料(データ)の改竄」がおこなわれた。社長は「データを改竄しろ」とは指示していない。「もっと、もうけろ(利益を上げろ)」と指示しただけかもしれない。それを、下部組織がどう受け止めたか。データを改竄してでも利益を上げろと受け止めたのだとしたら、それは指示の出し方に問題があったということになる。だから辞任するのだ。



憲法9条改正、これでいいのか 詩人が解明ー言葉の奥の危ない思想ー (これでいいのかシリーズ)
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松岡政則「ありがとう」

2018-03-20 11:21:51 | 詩(雑誌・同人誌)
松岡政則「ありがとう」(「交野が原」84、2018年04月01日発行)

 松岡政則「ありがとう」を読む。

つれあいの
髪を洗っている
一週間ぶりだという
たからの持ち腐れだとよくぼやいていた、
ちちふさのあたりをぬらさぬように
注意ぶかく洗っている
あーいいきもち
もっとつよくして
あっそこっ

 状況はいろいろ考えられる。「一週間ぶりだという」からは、「つれあい」が自分では髪を洗えない状況だと推測できる。病院か、どこかの施設か。そういうところにいるのかもしれない。「たからの持ち腐れだとよくぼやいていた、/ちちふさ」から、乳房に関係する病気とも想像する。でも、深くは考えない。
 つれあいが「いいきもち」と言った。そのことを松岡はしっかりおぼえている。短いことばだが、「もっとつよくして/あっそこっ」とつながっていく。「実感」をいっしょに共有している。
 少し省略するが、この「きもちがいい」がかわっていくところがとてもいい。

つれあいの髪を洗っている
九浅一深のリズムで
いのりのような純一で
どこかでおんなの髪を洗ったことがあるのだろうという
だまってないでなんとかいえという
お國はこわれているのに
わたしはしんそこうれしくて
のどのあたりがいっぱいになる
もう返事すらできないでいる
(うごくと、ぬれるよ

 髪の洗い方があまりにもうまいので、つれあいは松岡のことを疑い始める。「どこかでおんなの髪を洗ったことがあるのだろう」と。さらに「だまってないでなんとかいえ」と追い打ちをかける。
 松岡はいわば叱られているのだが、それがうれしい。叱るくらいに女は元気になっている。それがわかる。「きもちいい」だけではなく、「きもちいい」と感じ、そこからこころを開いている。思っていることを言い始めている。
 ひとは思っていても言わないことがある。
 無防備に「あーきもちいい」と言ったことが引き金になって、こころが無防備に開いたのだ。こんなことを言えば喧嘩になる、というような心配などふっとばして、思っていることを思っているままに言う。
 いま女(つれあい)は「あるがまま」を生きている。
 それが松岡には「しんそこ」うれしい。「しんそこ」から込み上げてくるものがある。こういうことを「しんそこ」とか「うれしい」ということばをつかわずに書くのが詩なのかもしれないが、女の無防備なことばに突き動かされて、松岡のことばも無防備になっている。
 「ありがとう」はタイトルにしか書かれていないが、いまふたりは「あるがまま」に生きている。そのことに「ありがとう」と言っている。女に「ありがとう」といっているだけではない。




*


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長津功三良『日日平安』37  若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
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谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(36)

2018-03-20 10:03:27 | 谷川俊太郎『聴くと聞こえる』
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(36)(創元社、2018年02月10日発行)

 「武満は好きな絵を仕事場は置かなかったそうだ。」で始まる文章に、こういう一段落がある。

 武満が浅香さんをなぐったのを、私はただ一度だけ目の前で見た
ことがある。彼が音楽をつけたある芝居を、浅香さんが私たち夫婦
に同調して批判したのが理由だった。そのとき私はおろおろするば
かりだったが、いまはそれが愛情からだったということがよく分か
る、妻への、音楽への、そして生きることへの。

 わかるようで、わからない。つまり考えさせられる。いや、考えさせられるではないなあ。ここから「何か」を感じてしまう。
 こういうことは「感じた」ままにしておくのがいいと思う。
 この文章を書いている谷川は、もう「おろおろ」していないかもしれない。
 でも、私は「おろおろする」。そして、おろおろしたままにしておく。

 かわりに、私の武満徹への思い出を書いておく。
 ある日、FM放送を聴いていたら「海へ」という曲が聴こえてきた。武満の曲である。曲に刺戟されて「海へ」という詩を書いた。詩を書いたあと、もう一度聴きたいと思ったが、レコードがわからない。
 どうやって調べたのか忘れたが、私は武満に手紙を書いた。「あの曲をもう一度聴きたい、レコードは出ていないだろうか」。書いたばかりの詩を同封したかもしれない。
 武満から返事が来た。北欧の音楽祭へ行く途中の羽田空港(あるいは成田だったろうか)から書いているという。演奏者とレーベルの名前が書いてあった。FMで聴いたのはフルートとギターだったか、フルートとピアノだったか、あるいはバイオリンだったか。その奏者(また楽器の構成)とは違うのだが、という断り書きがあった。
 そのときのはがきも、レコードも、そして私の書いた詩も、なくなってしまった。
 覚えているのは、出国する寸前のあわただしい時間を割いて、武満がはがきをくれたということだけだ。それが忘れられないのは、そこに武満の「人間性」を感じたからだ。見ず知らずの私の質問に、きちんと答えてくれる。そこには、谷川のことばを借りて言えば「愛情」がある。音楽への、生きることへの。




*


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キーワードの分析

2018-03-20 00:45:28 | 自民党憲法改正草案を読む
キーワードの分析
             自民党憲法改正草案を読む/番外193(情報の読み方)

 インターネットで、おもしろい記事を読んだ。

[東京 19日 ロイター] -安倍晋三首相は19日午後、森友学園への国有地売却問題に関する参院予算委員会の集中審議で、決裁文書書き換えは、自身と妻がこの問題に関与していれば首相も国会議員も辞めるとの首相発言がきっかけでは、との質問に「私の発言がきっかけとの仮説が事実なら、全ての削除された箇所に妻の記述がなければならない」と述べた。


一か所あれば十分。
「選挙の連呼」ではないのだから、すべての箇所に「昭恵、昭恵、昭恵、昭恵」と書くわけがない。

というか。

たった一か所なのに「まずい」と思って削除したということだ。
一か所くらいあっても、そんなのは無関係、と言えるなら、それはそのまま残っているだろう。

どんなときでも「キーワード」は一回しか出てこない。
そのことばを省略しても通じるのだが、どうしてもそのことばを書くしかないときがある。
それが「キーワード」の特質なのだ。
本質に深く深くくいこんでいることばは、言う必要がない。
言わなくても、「本人」(関係者)には自明のことだから、書かない。

これは、私が詩を読むときの「方法論」だが、あらゆることに通じる「方法論」でもある。
頻繁につかうことばは「キーワード」ではない。

これはもう、完全に「墓穴を掘っている」答弁だ。

「昭恵」を消したから、少しでも「昭恵」に関係する部分は全部改竄し、削除しなければならなくなったのだ。
値引き交渉の背後に「昭恵」がいたから、交渉が進んだ。
「昭恵」がいなかったら、すすまなかった。
「昭恵」の存在が、すべての「特殊」要因なのだ。

むかし刑事が殺人者の映画があったなあ。
殺人現場にゆき、指紋をみんながみている目の前でどんどん残す。
現場からどんどん刑事の指紋が出てくるが、犯行時の指紋かどうかわからなくさせる、という作戦だ。

その逆だね。
逆も、命取り。
だれもが知っているのに、どこにも「昭恵」の名前がない、影響力がないように「工作」している。
それが「犯人」である証拠。





#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


*

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詩人が読み解く自民党憲法案の大事なポイント 日本国憲法/自民党憲法改正案 全文掲載
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