詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

岩佐なを「のぞみ」、たかとう匡子「部屋の内外」

2018-03-21 20:24:38 | 詩(雑誌・同人誌)
岩佐なを「のぞみ」、たかとう匡子「部屋の内外」(「交野が原」84、2018年04月01日発行)

 岩佐なを「のぞみ」。岩佐は、いつごろから、こういう詩を書くようになったのかなあ。思い出せない。昔はただただ「気持ち悪い詩」だったんだけれど。

テーブルに突っ伏して眠るこのごろ
湯呑みの湯はさめ
くすりは散らかって
湯をこぼさなかっただけが
この日のしあわせなことなんて
なんだかなあ
さじを投げるわけにはいかず
はしを立てるわけにはいかず

 「匙を投げる」は「あきらめる」という「意味」でつかわれるが、語源は医者が薬の調合のあきらめるということらしい。うろ覚えの記憶だが。だから、これは引用した部分の三行目とも通い合っているのだ。ことばが緊密に動いているのだ。
 こういう「ことばの肉体」の動き方は好きだなあ。
 でも、そのあとの「はしを立てる」は?
 「匙」から「箸」への動きは自然だけれど、ごはんに「箸を立てる」って、これ、仏前の供え物じゃない? 医者が匙を投げて、人が死ぬという「意味」のつながりがあるんだろうけれど、この「毒」が刺激的だなあ。
 「毒」をのみこんで、平然としている。
 最後の部分にも、おもしろいことばの「連絡」がある。

ふりむくと
突っ伏した自分の前で
コップが倒れて
冷めた液体がテーブルに
面積をひろげていた
窓の外に
気持ちよくやすらかな景色がひろがれば
身も心も流しこんでゆけるものを

 面積を「ひろげる」、景色が「ひろがる」。面積をひろげるは、水のことだから「流れる」にもつながる。それが「身も心も流しこむ」へとつながる。
 「連絡」の仕方が、ゆったりしている。
 不思議におもしろい。



 たかとう匡子「部屋の内外(うちそと)」。

わたしの時間が知らないうちにねずみにでも齧られていたのか
どこからともなく雨が激しくぶつかりながら侵入してくる
わたしは密室だから
こじあけられる心配なんて夢にもしていなかったのに

 「時間」と「密室」の関係がおもしろいなあ、と思って読んだ。「時間」がテーマ、「密室」はテーマを語るための「比喩」と思って読み始めた。
 しかし、最後はこの関係が逆転する。

溶けていく生の時間がぬれて落ちないようにと
かがみこんでうつつの密室に施錠している

 これが「密室」がぬれないように、「時間に施錠している」という展開ならいいのになあ、と残念に思った。

 



*


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目次

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河邉由紀恵「島」13  タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21  最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28  鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37  若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47  佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64  及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
     *
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谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(37)

2018-03-21 15:27:58 | 谷川俊太郎『聴くと聞こえる』
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(37)(創元社、2018年02月10日発行)

 「音楽」は「音楽」について書いているが、具体的にどの音楽、誰の曲、誰の演奏かはわからない。

穏やかに頷いて
アンダンテが終わる
二つの和音はつかの間の訪問者
意味の届かない遠方から来て
またそこへ帰って行く

 「二つの和音」は、二通りに読むことができる。「一つの和音」と「もう一つの和音」、つまり「二種類の和音」と読む読み方と、「一つの音」と「もう一つの音」によって構成される和音、つまり「二つの音による和音」と。
 私は「二つの音による和音」と読んだ。「一つの音」が「もう一つの音」と出会い、「和音」になる。
 そしてこのとき、それぞれの「一つの音」は、たとえばピアノの「ド」と「ミ」ではなく、一つはピアノ、もう一つは谷川の「肉体」のなかにある音と読んでみたい気持ちになる。たとえピアノの「ド」と「ミ」の「和音」であったとしても、「ド」と「ミ」のどちらから谷川の「肉体」に深くしみついている音、谷川の「肉体」にひそんでいる音と読みたい。誰の「肉体」にも何か「基本の音」がある。それが別の「音」と出会って、「和音」となって響く。そういうことがあると思う。
 そう読むと、つづく二行がとてもおもしろい。
 「意味の届かない遠方」というときの「遠方」も二通りに読むことができる。谷川の「意味の領域(圏域)」の彼方というのは、一つはたとえば「宇宙の彼方」のような「遠方」ととらえることができる。存在を知らなかった「未知の意味」「まったく新しい意味」と呼び変えてもいい。それとは別に「肉体」のなかにあって「意識されない意味」があり、それはやはり「遠方」と呼べないだろうか。それは「未生の意味」と言いなおすことができると思う。
 どこか谷川の「肉体」の外の「遠方」から「未知の意味」があらわれる。それは谷川の「肉体」のなかの「未生の意味」と出合い、それまで存在しなかった「意味」を生み出す。「和音」のように、出合いの瞬間に結晶し、「意味」になる。
 そして、これは、いまは便宜上、「肉体の外にある意味」を「新しい意味」、「肉体のうちにある意味」を「未生の意味」と区別したけれど、逆かもしれない。「新しい」と「未生」の関係は、出会った瞬間に決まることで、どちらがどらかとは言えない。
 「ド」の音に「ミ」の音が出会うのか、「ミ」の音に「ド」の音が出会うのか。区別がつかない。というよりも二つの音が出会ったとき、それぞれを「ド」「ミ」と認識し、同時に「和音」になるということが起きるのではないだろうか。一つ一つの音が「生まれ」、また「和音」が生まれる。二つの音が「和音」を生み出し、同時に「和音」が不つたの音を生み出す。そういうことが起きると思う。(こういう思いつきを書くと、絶対音感の持ち主からは、ドはドの音、ミはミの音と叱られそうだが。)

 こういうことは、長く書き続けられない。つまり「明確」に論理化できない。強引に書けば、どうしても「破綻」してしまう。瞬間的に感じる「錯覚」のようなものである。
 「意味」は、また「未生の意味」へ帰っていく。
 同じように「音(和音)」もどこか、それが生まれ来たところへ帰っていく。それは「遠方」なのか、「肉体の奥」なのか、わからない。区別ができない。




*


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長津功三良『日日平安』37  若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47  佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64  及川俊哉『えみしのくにがたり』67
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聴くと聞こえる: on Listening 1950-2017
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安倍の「点と線」

2018-03-21 00:12:39 | 自民党憲法改正草案を読む
安倍の「点と線」
             自民党憲法改正草案を読む/番外196(情報の読み方)

 いま「政治」の話題は「①森友学園文書改竄」と「②前川講演への文部省介入」でもちきりだが、裏では「③憲法改正」も動いている。三つは別々のことのように見えるが、「ひとつ」の線でつながっている。これに「④天皇制限退位」もつけくわえることができる。
 どうつながっているか。「沈黙作戦」である。安倍は、国民に議論させない。「民主主義」を否定し、独裁を狙っている。すべてが、これで説明できる。

 ①森友学園の文書改竄は、「議論」のもとになる「資料」を隠してしまうところから出発している。不都合な「事実」を隠蔽する。これでは議論ができない。議論が成り立たない。いちばんわかりやすい「点」である。

 ②は「教育への介入」なのだが、これは③と密接につながっている。自民党の改憲案は、最初は「教育費の無償化」を売り物にしていたが、いまは「教育環境を整える」である。この「教育環境を整える」というのは、だれもが教育を受けられるようにするというのではなく、独裁政治がしやすいような人間を育てる教育環境をつくるということである。安倍批判をしない学校(安倍をほめたたえた籠池の保育園)なら優遇し、金を出すが、安倍批判をする学校には金を出さない。圧力をかける。
 今回の「前川事件」には金はからんでいないが、「文部省からの質問」という形で圧力をかけている。その背後には自民党の議員がいた。
 「教育の無償化」について触れたとき、私は何度も「学問の自由は守れるか」「安倍政権を倒せという研究をするとき、そこに金は支払われるか」というようなことを書いたが、もう圧力がかけられている。
 自民党の改憲案は、先取りする形で実施されている。

 私の書いた「天皇の悲鳴」は2017年の3月末までのことを中心に書いている。そのため、

国民から批判力を奪う洗脳作戦は学校から始まろうとしている。

 という文章で終わるしかなかったのだが、安倍が「学校(教育)」を利用しようとしていることは明らかだ。
 「森友学園」も、いまは鎮静化している「加計学園」も学校が舞台である。その学校ではどういう教育がおこなわれるのか。森友学園は挫折した。加計学園の獣医学部は政治とは無関係の学部に見えるが、学校の基本は「考える力」を生徒に身につけさせることである。「考える教育」をしないなら、それは何を教えていようが独裁を支える要素になる。無批判の人間を育てることを安倍は狙っている。

 ④に移る。「天皇の悲鳴」で書いたことだが、「生前退位」は天皇に健康に配慮したものではない。ビデオメッセージで天皇は「天皇に国政に関する権能はない」と二度言わされている。安倍が言わせたのである。天皇は即位するとき「憲法を守る」と宣言している。こういう天皇がいては改憲は進まない。なんとしても天皇を沈黙させる必要があったのだ。「天皇に国政に関する権能はない」と、天皇自身に語らせる必要があった。
 それが成功した。
 天皇さえもが「沈黙」しているだから、国民は安倍を批判するな。安倍の決めたことに従え、というのである。(このことは「天皇の悲鳴」を参照してください。)

 このことに私が気づいたのは、これも「天皇の悲鳴」に書いたことだが、2016年の参院選のときである。「選挙報道」がとても静かになった。NHKは放送時間を減らしただけではなく、選挙前日の7月9日に「あす7月10日は、ナナとトウで納豆の日です」ということばで7時のニュースをしめくくった。参院選があることを知らせないようにした。そうすることで巨大政党に与した。
 議論を封じることで、少数意見を抹殺した。

 反対意見を言わせない。反対の「根拠」になる資料を隠す。あるいは、データを捏造して「反対の根拠」を否定する。
 自分にとって都合のいい「声」だけを他人におしつけ、支配する。
 ①の森友学園は、そういう「作戦」がとてもわかりやすい形で出ている。森友学園は安倍を支えている「日本会議」とつながっている。「安倍首相がんばれ」と園児にまで言わせている。安倍昭恵がそれに感動して「名誉校長」になっている。そうすることで、「森友学園」に便宜をはかれと「無言」で圧力をかけている。
 これにみんなが反応し、森友学園を優遇した。
 しかし、そのことが問題になると、籠池を詐欺師と断定し、さらに森友学園と安倍とのつながりを隠すために文書を改竄し、破棄させた。「反対」の意見を封じるためである。議論させないためである。

 民主主義の基本である「議論」。これを封じることで「独裁」を完成させる。その「線」ですべての「事件」、あるいは「できごと」はつながっている。そして、批判力を身につけさせないための「学校づくり」を、その根底においている。これが安倍のやっていることなのだ。憲法を変え、独裁者になるための下準備なのだ。







#安倍を許さない #憲法改正 #天皇退位 
 


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松井久子監督「不思議なクニの憲法」上映会。
2018年5月20日(日曜日)13時。
福岡市立中央市民センター
「不思議なクニの憲法2018」を見る会
入場料1000円(当日券なし)
問い合わせは
yachisyuso@gmail.com

憲法9条改正、これでいいのか 詩人が解明ー言葉の奥の危ない思想ー (これでいいのかシリーズ)
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