岩佐なを「のぞみ」、たかとう匡子「部屋の内外」(「交野が原」84、2018年04月01日発行)
岩佐なを「のぞみ」。岩佐は、いつごろから、こういう詩を書くようになったのかなあ。思い出せない。昔はただただ「気持ち悪い詩」だったんだけれど。
「匙を投げる」は「あきらめる」という「意味」でつかわれるが、語源は医者が薬の調合のあきらめるということらしい。うろ覚えの記憶だが。だから、これは引用した部分の三行目とも通い合っているのだ。ことばが緊密に動いているのだ。
こういう「ことばの肉体」の動き方は好きだなあ。
でも、そのあとの「はしを立てる」は?
「匙」から「箸」への動きは自然だけれど、ごはんに「箸を立てる」って、これ、仏前の供え物じゃない? 医者が匙を投げて、人が死ぬという「意味」のつながりがあるんだろうけれど、この「毒」が刺激的だなあ。
「毒」をのみこんで、平然としている。
最後の部分にも、おもしろいことばの「連絡」がある。
面積を「ひろげる」、景色が「ひろがる」。面積をひろげるは、水のことだから「流れる」にもつながる。それが「身も心も流しこむ」へとつながる。
「連絡」の仕方が、ゆったりしている。
不思議におもしろい。
*
たかとう匡子「部屋の内外(うちそと)」。
「時間」と「密室」の関係がおもしろいなあ、と思って読んだ。「時間」がテーマ、「密室」はテーマを語るための「比喩」と思って読み始めた。
しかし、最後はこの関係が逆転する。
これが「密室」がぬれないように、「時間に施錠している」という展開ならいいのになあ、と残念に思った。
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「詩はどこにあるか」2月の詩の批評を一冊にまとめました。
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目次
小川三郎「沼に水草」2 岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13 タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21 最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28 鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47 佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64 及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
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谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83
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注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
岩佐なを「のぞみ」。岩佐は、いつごろから、こういう詩を書くようになったのかなあ。思い出せない。昔はただただ「気持ち悪い詩」だったんだけれど。
テーブルに突っ伏して眠るこのごろ
湯呑みの湯はさめ
くすりは散らかって
湯をこぼさなかっただけが
この日のしあわせなことなんて
なんだかなあ
さじを投げるわけにはいかず
はしを立てるわけにはいかず
「匙を投げる」は「あきらめる」という「意味」でつかわれるが、語源は医者が薬の調合のあきらめるということらしい。うろ覚えの記憶だが。だから、これは引用した部分の三行目とも通い合っているのだ。ことばが緊密に動いているのだ。
こういう「ことばの肉体」の動き方は好きだなあ。
でも、そのあとの「はしを立てる」は?
「匙」から「箸」への動きは自然だけれど、ごはんに「箸を立てる」って、これ、仏前の供え物じゃない? 医者が匙を投げて、人が死ぬという「意味」のつながりがあるんだろうけれど、この「毒」が刺激的だなあ。
「毒」をのみこんで、平然としている。
最後の部分にも、おもしろいことばの「連絡」がある。
ふりむくと
突っ伏した自分の前で
コップが倒れて
冷めた液体がテーブルに
面積をひろげていた
窓の外に
気持ちよくやすらかな景色がひろがれば
身も心も流しこんでゆけるものを
面積を「ひろげる」、景色が「ひろがる」。面積をひろげるは、水のことだから「流れる」にもつながる。それが「身も心も流しこむ」へとつながる。
「連絡」の仕方が、ゆったりしている。
不思議におもしろい。
*
たかとう匡子「部屋の内外(うちそと)」。
わたしの時間が知らないうちにねずみにでも齧られていたのか
どこからともなく雨が激しくぶつかりながら侵入してくる
わたしは密室だから
こじあけられる心配なんて夢にもしていなかったのに
「時間」と「密室」の関係がおもしろいなあ、と思って読んだ。「時間」がテーマ、「密室」はテーマを語るための「比喩」と思って読み始めた。
しかし、最後はこの関係が逆転する。
溶けていく生の時間がぬれて落ちないようにと
かがみこんでうつつの密室に施錠している
これが「密室」がぬれないように、「時間に施錠している」という展開ならいいのになあ、と残念に思った。
*
「詩はどこにあるか」2月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか1月号注文
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ここをクリックして1750円の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
目次
小川三郎「沼に水草」2 岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13 タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21 最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28 鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47 佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64 及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
*
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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