近藤久也「暮れに、はみ出る」、和田まさ子「主語をなくす」(「ぶーわー」39、2018年03月10日発行)
近藤久也「暮れに、はみ出る」はローストチキンが食いたいと思い、骨つきチキンを買ってきて料理するときのことを描いている。
「窮屈窮屈」からはじまることばのリズムが、火のついたフライパンの上で悪戦苦闘している感じで楽しい。「69」を挟んで、「はまりこんだはめこんだ」がいいなあ。「はまりこんだ」のか「はめこんだ」のかわからない。
これって、「69」のどちらが「6」で、どちらが「9」かわからないのと同じ。
それはそのままセックスにつながる。この体位のとき、どっちが6、どっちが9? そんなことは区別しない。
でもおかいしね。
焼き終わったら「69」にこだわることはない。けれども「69」にこだわって皿に盛りつけている。一枚に一個の方が食べやすいんじゃない? なんて、チャチャいれたらいけないんだろうねえ。
「69」まで書きながら、「はにかむ」「シャイ」「内気」と言いなおして「自画像」にしてしまう。「自画自賛」してしまう。
なんでもないのだけれど、楽しい。
*
和田まさ子「主語をなくす」の詩は久しぶりに読んだ。そして、ああ、つまらない、と思った。
「壺」を「現代詩手帖」の投稿欄で読んだのは何年前だろうか。とてもおもしろかった。「金魚」の詩もおもしろかった。『わたしの好きな日』『なりたいわたし』は好きな詩集だ。だが、それ以後は知らない。
今回の詩。
「余白」は古くさい「現代詩」の流行語だ。こういうことばを好む人がいるかもしれないが、私はぞっとする。「新世界はここからはじまる」の「新」もつまらない。
以前の和田は「新世界はここからはじまる」というような「客観」を語らず、ただ「いま/ここ」を和田しか知らないことばで語っていた。つまり、無意識に「新世界(独自世界)」をとらえていた。「新世界」と思っていなかったのかもしれない。そこが、たぶんおもしろい要因だった。
この詩のことばは、「展開」が予測できる。その分、安定していると評価されるのかもしれないが、つまらない。
「つまずく」「迷い込む」が定型である。「帝国」もその延長である。
なんとなく新井豊美の詩の変化を連想させる。『いすろまにあ』はとてもおもしろかった。でも、その後の作品は私はおもしろいとは思わない。
最終行だけ
と昔に書いたようなことばをつないでもねえ。
昔の和田なら、電車の中で魚になってそのまま泳いでいただろうに、と思う。あるいは他人を魚にしてしまっていただろうと思う。「主語」をなくさずに、「主語」をまもったまま、「魚になる」というのがおもしろいところだったのに、と残念でならない。
「主語をなくす」というような「現代詩のことばづかい」を「学習」したのが、詩をつまらなくさせている原因だ。
もちん「主語をなくす」というような「現代詩流通語」が好きな人は、いまの和田の作品を高く評価するだろうけれど。
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「詩はどこにあるか」2月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか1月号注文
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ここをクリックして1750円の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
目次
小川三郎「沼に水草」2 岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13 タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21 最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28 鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47 佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64 及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
*
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
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以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
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(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
近藤久也「暮れに、はみ出る」はローストチキンが食いたいと思い、骨つきチキンを買ってきて料理するときのことを描いている。
フライパンに油ひき
大きな骨付きチキン二個並べ焼きたいのだが
窮屈窮屈はみ出してしまう
無茶だ無理だ無茶苦茶に
知恵の輪見たく思案してたら
69にはまりこんだはめこんだ
タレつけ、こんがり焼きあげて
白地の皿に69で盛りつけて
はにかむ姿絵、シャイな抽象、シックスナイン
(ああ、おお)
乱れながら整えて
内気な欲望の
自画(自我)と自賛を密やかに盛りつける
「窮屈窮屈」からはじまることばのリズムが、火のついたフライパンの上で悪戦苦闘している感じで楽しい。「69」を挟んで、「はまりこんだはめこんだ」がいいなあ。「はまりこんだ」のか「はめこんだ」のかわからない。
これって、「69」のどちらが「6」で、どちらが「9」かわからないのと同じ。
それはそのままセックスにつながる。この体位のとき、どっちが6、どっちが9? そんなことは区別しない。
でもおかいしね。
焼き終わったら「69」にこだわることはない。けれども「69」にこだわって皿に盛りつけている。一枚に一個の方が食べやすいんじゃない? なんて、チャチャいれたらいけないんだろうねえ。
「69」まで書きながら、「はにかむ」「シャイ」「内気」と言いなおして「自画像」にしてしまう。「自画自賛」してしまう。
なんでもないのだけれど、楽しい。
*
和田まさ子「主語をなくす」の詩は久しぶりに読んだ。そして、ああ、つまらない、と思った。
「壺」を「現代詩手帖」の投稿欄で読んだのは何年前だろうか。とてもおもしろかった。「金魚」の詩もおもしろかった。『わたしの好きな日』『なりたいわたし』は好きな詩集だ。だが、それ以後は知らない。
今回の詩。
目が覚めて
夢の尻尾の色を考えない
振りきって今日の方に傾く
目の前にある余白が何を呼んでも
たじろがないでいたい
新世界はここからはじまるのだから
「余白」は古くさい「現代詩」の流行語だ。こういうことばを好む人がいるかもしれないが、私はぞっとする。「新世界はここからはじまる」の「新」もつまらない。
以前の和田は「新世界はここからはじまる」というような「客観」を語らず、ただ「いま/ここ」を和田しか知らないことばで語っていた。つまり、無意識に「新世界(独自世界)」をとらえていた。「新世界」と思っていなかったのかもしれない。そこが、たぶんおもしろい要因だった。
この詩のことばは、「展開」が予測できる。その分、安定していると評価されるのかもしれないが、つまらない。
駅前に行く途中
敷石につまずき
迷い込んだ帝国の夏
「つまずく」「迷い込む」が定型である。「帝国」もその延長である。
なんとなく新井豊美の詩の変化を連想させる。『いすろまにあ』はとてもおもしろかった。でも、その後の作品は私はおもしろいとは思わない。
最終行だけ
魚のように泳いでやってくる電車のなかの人になる
と昔に書いたようなことばをつないでもねえ。
昔の和田なら、電車の中で魚になってそのまま泳いでいただろうに、と思う。あるいは他人を魚にしてしまっていただろうと思う。「主語」をなくさずに、「主語」をまもったまま、「魚になる」というのがおもしろいところだったのに、と残念でならない。
「主語をなくす」というような「現代詩のことばづかい」を「学習」したのが、詩をつまらなくさせている原因だ。
もちん「主語をなくす」というような「現代詩流通語」が好きな人は、いまの和田の作品を高く評価するだろうけれど。
*
「詩はどこにあるか」2月の詩の批評を一冊にまとめました。
詩はどこにあるか1月号注文
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ここをクリックして1750円の表示の下の「製本のご注文はこちら」のボタンをクリックしてください。
目次
小川三郎「沼に水草」2 岩木誠一郎『余白の夜』8
河邉由紀恵「島」13 タケイ・リエ「飯田橋から誘われる」18
マーティン・マクドナー監督「スリー・ビルボード」再考21 最果タヒ「東京タワー」25
樽井将太「亜体操卍」28 鈴木美紀子『風のアンダースタディ』32
長津功三良『日日平安』37 若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」40
草森紳一/嵩文彦共著『「明日の王」詩と評論』47 佐伯裕子の短歌54
石井遊佳「百年泥」64 及川俊哉『えみしのくにがたり』67
吉貝甚蔵「翻訳試論――漱石のモチーフによる嬉遊曲」72
西岡寿美子「ごあんない」76
*
谷川俊太郎『聴くと聞こえる』(上)83
オンデマンド形式です。
注文してから1週間程度でお手許にとどきます。
*
以下の本もオンデマンドで発売中です。
(1)詩集『誤読』100ページ。1500円(送料250円)
嵯峨信之の詩集『時刻表』を批評するという形式で詩を書いています。
https://www.seichoku.com/user_data/booksale.php?id=168072512
(2)評論『中井久夫訳「カヴァフィス全詩集」を読む』396ページ。2500円(送料450円)
読売文学賞(翻訳)受賞の中井の訳の魅力を、全編にわたって紹介。
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(3)評論『天皇の悲鳴』72ページ。1000円(送料250円)
2016年の「象徴としての務め」メッセージにこめられた天皇の真意と、安倍政権の攻防を描く。
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問い合わせ先 yachisyuso@gmail.com
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