惑星ダルの日常(goo版)

(森下一仁の近況です。タイトルをはじめ、ほとんどの写真は交差法で立体視できます)

『ぬけられますか』

2006-10-21 21:11:00 | 本と雑誌
 昨夜は東京オペラシティコンサートホールにて「第75回日本音楽コンクール・声楽部門」本選を鑑賞……というか、観戦という方がいったかもしれません。9人が勝ち残っていて、優勝を競う。
 声楽の「楽器」はヒトの体。演奏を制御するのはヒトの頭。体と頭をフルに使って音楽を奏でる。とても難しいけれど、うまくいったときの快感といったらないでしょうね。
 9人、それぞれ異なる「音色」「技術」「情感」といったものを、たっぷりと感じることができました。
 そして、息子がビアノ伴奏したメニッシュ純子さんは見事2位に入賞。素晴らしい。

 校條(めんじょう)剛『ぬけられますか――私漫画家滝田ゆう』(河出書房新社)を読んでいたら、無性に滝田さんのマンガを読みたくなりました。しかし遺憾ながら、我が家にはありません。
 市の図書館に行って『寺島町奇譚』『泥鰌庵閑話』など7冊を借り出したところ、ズッシリと重いのです。どれも版型が大きめなうえに分厚い。びっしりと描き込まれた滝田さんのマンガは縮小せず、大きいままで出版しないと細部がつぶれてしまうのでしょう。
 いつも持ち歩いている布製のトトバッグに詰め込み、家まで20分の道のりを歩いて帰ってから量ってみると約5キロありました。もっとあるかと思いましたよ。バッグの紐が肩に食い込むんだもの。

 で、あれこれパラパラと読み、私は滝田さんのマンガをじっくり読んだことがなかったのに気づきました。『ガロ』や中間小説誌で馴染んでいて、どんなものかわかっているつもりになっていたのですが、まとめて読むとまるで印象が違う。
 いや、そんなに印象の性質はそんなに違わないのですが、重みというか、濃厚な哀切感がドーンと伝わってきます。腰を据えて読み直すのに値するマンガ家のようです。

 校條さんは、私が〈小説新潮〉に数編ショートショートを書いた時の編集さんですが、すばらしい題材を掘り当てたものだと思いました。
 念のために書いておきますが、この本は店頭で見つけて購入したもの。その著者がたまたまかつての編集者だったというだけで、昔の縁ゆえに手にしたわけではありません。