金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

消費税引き上げはリセッションを呼び込むか?

2019年09月02日 | 社会・経済

消費税引き上げまで一カ月を切った。テレビのニュースでは、もはや導入の可否よりも小売店の軽減税率対応の苦心ぶりを報じている。しかしWSJは執拗に消費税引き上げがリセッションのトリガーになると警鐘を鳴らし続けている。

私は個人的には消費税引き上げを支持しているが、消費税引き上げがリセッション(景気後退)の引き金になるというリスクは認識しておくべきだと思う。ただしWSJの主張は財政再建問題を軽視しているので全面的には賛成しかねるが・・・

WSJ記事(Japan's sales-tax increase threatens a labor market miracle日本の消費税引き上げは労働市場の奇跡を脅かす)は、日本の求人倍率は今年4月に2.48倍という記録的倍率になったが、その後鈍化していることを持って消費税増税の影響が出始めていると書きだす。

ただし夏にかけての求人倍率の鈍化(それでも2倍は超えている)が、消費税増税による景気鈍化を先取りしているのか、米中貿易摩擦による世界経済の景気鈍化を先取りしているのかははっきりしない。おそらく双方の影響で企業や家計は少しづつブレーキを踏み始めているのだ。

消費税増税が家計、特に年金生活世帯を直撃することは間違いない。仮に毎月の消費支出を25万円とすると2%の増税は5千円の支払い増となる。この家計の毎月の収入が25万円に限られている場合、5千円の負担を減らすには消費支出を5千円減らす他に対策はない(ただしストックを取り崩して消費レベルを維持するという選択はある)。だから高齢化が進んでいる日本の場合消費税引上げが消費を冷え込ませることは間違いない。

勤労世帯については、労働需給のひっ迫→賃金の上昇→家計支出の増大→景気拡大→労働需給のひっ迫というポジティブなサイクルが回ると家計は消費税増税を吸収できるのだが、有効求人倍率の上昇はそれほど賃金上昇にはつながらなかった。従って勤労世帯も消費抑制的な動きを示す可能性が高い。

従って消費税引き上げがリセッションのトリガーになるという可能性は否定できない。ただしリセッションのリスクがあるから消費税を引き上げないという政策判断にはつながらないと思う。なぜなら税収を増やさずに、社会保険料を中心とした支出を拡大させ続けることは財政を悪化させ、長期的には財政破綻のリスクを高めるからだ。

これに対してWSJの記事は「日本は超低金利国なので国債の利払い負担は相対的に軽いから今財政再建を考える必要はない」という。実際対GDP比で国債の利払い負担を見ると日本の利払い費用はGDPの0.5%程度で、OECD平均の1.2%や米国の3.2%に較べてかなり低い。現在の低金利環境が未来永劫に続くならば、この理屈は成り立つが、日本の低金利が永久に続くとは考えにくい。国債の金利水準は最終的には需給で決まるから、将来日本が国内市場だけで国債を消化できなくなると金利は上がると見るべきだろう。

よって目先の金利が低いから借金を恐れることはないという理屈は危険な理屈である。

以上のように考えると消費税を引き上げながら、消費支出の減少を抑え、リセッションを回避するには次のような施策が必要なのだろう。

勤労世帯については、企業の労働配分を高める施策を進めるとともに、退職世帯については「必要以上の貯蓄」をしなくても老後の不安をなくすことができる(少なくとも軽減できる)施策を考えていく必要がある。

 

 

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中国製品への関税強化で利益を得るのは、中国の隣国

2019年05月30日 | 社会・経済

WSJにThe real winners from Trump's tariffs are China's Neighborsという記事がでていた。

中国からの輸入品に対する関税強化は、結局台湾・韓国・東南アジア諸国など中国の隣国を利するという見方だ。

この見方の元になっているのは、ニューヨーク連銀のエコノミストが、2018年の関税強化の影響を分析したレポートだ。

それによると25%の関税により米国の一世帯当たりの負担は年間831ドル(9万円強)増えた。これは輸入業者が中国製品の関税分を消費者に転嫁したこともあるが、輸入業者が中国以外の外国からの輸入に切り替えたインパクトの方が大きい。中国の隣国の製品は、関税課税前では中国製品より高くても、25%の関税がかかった中国製品よりは安い場合があるからだ。

それを裏書きする事実として、今年3月に中国からの輸入品は前年比18%減少したが台湾・ベトナム・韓国からの輸入は顕著に増加している。

記事は「中国の東南アジアや台湾に対する今年第1四半期の輸出増加率は加速しているから、中国の製造業者はこれらの国を通じて製品を米国に輸出しているのかもしれない」と述べている。

記事は米国の中国製品に対する関税強化は、米国の輸入製品価格の上昇と中国の雇用悪化を招き、中国の輸出業者が市場シェアを失い、その分関税がかからない隣国がメリットを受けることになる可能性が高いだろうと結んでいた。

米国の政治家は米国民に対して「中国製品に対する関税強化は、家計に幾らか負担をかけるが、中国をアメリカのルールに従わすという戦略目的が達成されると意義あるものだ」という説明を行っている。

だがこの記事を読むと、政治家の説明に懐疑的になる米国人が増えるかもしれない。

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必要なのは「働き方改革」ではなく「暮らし方改革」

2019年01月21日 | 社会・経済

昨今「働き方改革」が声高に叫ばれることが多い。

だが私は「働き方改革」を推進するには「暮らし方改革」を考えるべきだと考えている。

「働き方改革」の目的は、色々あるが政府や企業経営の観点から考えると「人口減少が続く中で働きやすい環境を作ることでより多くの人に労働力になって貰う・一人当たりの生産性を上げる」ことが大きな目標であるはずだ。

なぜなら経済成長は労働者の頭数と一人当たりの生産性の積で決まってくるからだ。

労働人口の減少は先進国共通の悩み。緩やかな人口増加を維持している米国も例外ではない。

その米国の中で、高い人口増加率とそれに伴う高い経済成長率を維持している州がある。ソルトレイクシティを州都とするユタ州だ。

WSJによると、2010年以降の全米の中核労働年齢層(25歳~54歳)の増加率は1%程度だが、ユタ州の人口増加率は10%に達している。

モルモン教の本山があるユタ州は元々出生率が高い上、それに加えて各地から移住者が増えているのだ。

ユタ州に移住者が増えているには幾つかの要因がある。一つは住居費が西海岸などに較べると安いことだ。これは子供の多い家族にとっては大きなメリットだ。だが住居費が安いだけで人は集まらない。雇用を生み出す産業があることが重要だ。

ユタ州はスキーリゾートなど観光産業で有名だが、ハイテク産業などその他の産業も伸びている。

ハイテク産業などの従事者が増えると外食産業など消費関連産業も増え、経済成長が促進するというプラスの循環が始まる。

トップレベルのスキーリゾートや自転車専用道路があるのもユタ州の魅力。働くだけでなく、アウトドアで余暇を楽しむ人にとって暮らしやすい土地であることは間違いない。

我が国では「休む」=「さぼる」と考えている人がまだまだ多いそうだが、このような意識は労働生産性を押し下げている。

リフレッシュすることで、活力と新しいアイディアが生まれるからだ。

つまり「働き方改革」を進めようと思うなら「暮らし方改革」を進める必要があり、暮らし方改革の一つの突破口は「休み方改革」を考えることである。

ユタ州から学ぶことは多そうだ。

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米、ネットショッピング好調で配送要員需要が急増

2018年09月05日 | 社会・経済

昨日(9月4日)の米国株式市場は小幅安でぱっとしなかった。明るい話題はアマゾンの株価が上昇して、同社の時価総額が1兆ドルに乗せたことだった。

アマゾンの時価総額は今年1月6千億ドルだったから半年強で時価総額が7割近く増えたことになる。

アマゾンの株価を急速に押し上げている要因は、AWS(クラウドサーバービジネス)だと思うが、社会全般に与える影響はネットショッピングの隆盛だろう。

分かりやすくネットショッピングと書いたが、これは和製英語で英語ではE-Commerceかonline shoppingという。

それはさておき、WSJにEコマースの隆盛が、フルフィルメントセンター(配送センター)やドライバーへの需要を押し上げているという記事がでていた。

商業用不動産ブローカーCBERのレポートによると、このセクターの雇用者増は2017年には18万人だったが、今年・来年の雇用者増は22万6千人になると見込まれる。

雇用市場がタイトな米国では、配送関係の人員を確保するため他の業界からの引き抜きや、より労働力が得やすい地域に配送センターを移転するような動きがでているとレポートは報じている。

配送センターは大消費地に近いほど便利なので労働コストが安いからといって田舎に移すことにはアマゾンなどオンライン業者にとっては頭の痛い問題だろう。

そこで配送センターの自動化も喫緊の課題になる。

米国の配送センターはアジアや欧州の配送センターに較べると自動化が遅れているというので改善の余地はありそうだ。

以上は米国の話だが、投資の観点からは次のようなことは頭の隅に入れておきたいと思う。

一つは倉庫・物流の自動化を手がけているメーカーには今後とも需要が期待できるということだ。

またeコマースが日本でも一層活発になれば、配送センターの需要がさらに高まるだろう。

マクロ的にみると物流リートは手堅い投資になると思う。もちろん買うタイミングは個別の株価によるだろうが。

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敵の敵は味方~ウオールマートとマイクロソフトがIT分野でパートナーシップ

2018年07月17日 | 社会・経済

アマゾンは二つの顔を持っている。ネットを通じた「小売業」の巨人という顔とAWS(アマゾンウェブサービス)というクラウドサービスを提供する「IT業」の巨人という顔だ。

クラウドサービスの2番手がAzureという名前でサービスを提供するマイクロソフトだ。

WSJは小売業でアマゾンと覇権を争うウオールマートとクラウドサービスでアマゾンと激突するマイクロソフトがウオールマートのIT戦略強化に向けて5年間のパートナーシップを組んだと報じていた。

ディールの狙いはマイクロソフトの持つ人工知能技術などIT技術を活用して、ウオールマートの販売データ分析や在庫管理システムを強化するというものだ。

米国の小売業大手の中には、アマゾンのIT技術を使うことを嫌がっている先が幾つかある。その主な理由はアマゾンの稼ぎ頭であるAWSを使うことは、アマゾンに塩を送るようなものだからだ。

そこで自分たちのライバルでないマイクロソフトを使おうとウオールマートが判断したことに間違いはないだろう。

小売業とITという異なる分野で巨人になったアマゾンに対抗するのは、それぞれの分野の競争相手という図式だ。

この競争、どちらが勝つか負けるではなく、どちらもそれなりに成功を収めるのではないか?と私は考えている。ITにしろ小売業にしろ一番でなくても2,3番位までは利益の出る商売ができるだろうが、それ以下になると儲けが薄くなるはずだ。

ウオールマートが西友からの撤退を決めたことはこの戦略に照らして正しいといえる。

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