山佐木進『絵馬』(ワニ・プロダクション、2008年04月25日発行)
山佐木進『絵馬』に1篇、おもしろい詩がある。「同行二人」。
夏の風景がスケッチされている。ちぎれ雲を「え」の字に見立てた。それだけといえばそれだけのことなのかもしれない。それでも、私はおもしろいと思った。「ひらがなになって流れている」の「ひらがな」のていねいさが、いいなあ、と思う。見えたものを、ただそのまま見えるままにしておくのではなく、定着させるための工夫--そういうていねいさがある。
そのていねいさは、2連目では少しありきたりである。「秘めごと」「ささやき」というのは、「え」ほどの新鮮さがない。
3連目の「岬の歯ぐき」はおもしろいと思う。ここに「肉体」が出てきたので、そのあとの「夏の背中」が単なる比喩ではなく、リアルなものになっている。「夏の背中」などというものは現実にはないのだけれど、「歯ぐき」につられて、そのないものが見えてくる。そのないものを見えるようにする、ということばの動きが「え」と通い合って、気持ちがいい。
山陰(ちょっと広すぎて、どこなのだろう)へ行って、ちぎれ雲が「え」の字になって流れていくのを見てみたい。そういう気持ちになった。
山佐木進『絵馬』に1篇、おもしろい詩がある。「同行二人」。
え っと
ひと文字
ひらがなになって流れている
ちぎれ雲
地の上の
どんな秘めごとを見てしまったのか
あるいは
ききそびれた誰のささやきが
横切っていったのか
岬の歯ぐきに
白い言葉の泡を散らかしている波よ
山陰本線単線電車から
海の方向へ
夏の背中が降りて行く
夏の風景がスケッチされている。ちぎれ雲を「え」の字に見立てた。それだけといえばそれだけのことなのかもしれない。それでも、私はおもしろいと思った。「ひらがなになって流れている」の「ひらがな」のていねいさが、いいなあ、と思う。見えたものを、ただそのまま見えるままにしておくのではなく、定着させるための工夫--そういうていねいさがある。
そのていねいさは、2連目では少しありきたりである。「秘めごと」「ささやき」というのは、「え」ほどの新鮮さがない。
3連目の「岬の歯ぐき」はおもしろいと思う。ここに「肉体」が出てきたので、そのあとの「夏の背中」が単なる比喩ではなく、リアルなものになっている。「夏の背中」などというものは現実にはないのだけれど、「歯ぐき」につられて、そのないものが見えてくる。そのないものを見えるようにする、ということばの動きが「え」と通い合って、気持ちがいい。
山陰(ちょっと広すぎて、どこなのだろう)へ行って、ちぎれ雲が「え」の字になって流れていくのを見てみたい。そういう気持ちになった。
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