アーサー・ビナード、木坂涼「詩のジャングル」(「朝日新聞」2009年01月28日夕刊)
今回、アーサー・ビナード、木坂涼が取り上げているのは、エリザベス・ロバーツの「ミルクしぼりたて」。とてもおいしそうだ。しぼりたての牛乳が飲みたくなる。前半の2連。
この詩の魅力は「オノマトペ」である。英語と日本語では「オノマトペ」は同じではない。原文がどうなっているか知らないが、「オノマトペ」の翻訳はとても難しいと思う。(難解な学術語の方が定義が明確だし、用法が決まっているから、なれれば簡単だろう。)
少女の空腹と、牛の空腹が重なり、むしゃむしゃ、もしゃもしゃという音の後、
これは何だろう。もちろん食べる音ではない。でも、なんだか食べている感じ。何を食べる? 匂いを食べるのだ。「匂いを食べる」なんて日本語はない。「匂いにつつまれる」と「正しい日本語」は主張するだろう。でも、つつまれているだけじゃない。つつまれた瞬間から、つつまれたことを忘れ、それを自分の中に取り込んでいる。つまり「食べている」。そして、食べた幸福で、からだが「ふわらーっと」広がっていく。
いいなあ。
詩はこのあとも続くが、幸福なオノマトペがつづく。
アーサー・ビナード、木坂涼は、こういう「幸福」な詩の天才である。
今回、アーサー・ビナード、木坂涼が取り上げているのは、エリザベス・ロバーツの「ミルクしぼりたて」。とてもおいしそうだ。しぼりたての牛乳が飲みたくなる。前半の2連。
もうすぐ夕飯。でも、もうすぐって
いわれても、わたしは待てないの!
そんなときはマグカップもって
坂をくだって、牛のいる小屋までいくの。
牝牛(めうし)さんはその時間、トウモロコシの皮を
むしゃむしゃ、口の横からはもしゃもしゃ
こぼしてる。やさしい紫(むらさき)色の目は大きくて
いつもふわらーと全身、ミルクの匂(にお)い。
この詩の魅力は「オノマトペ」である。英語と日本語では「オノマトペ」は同じではない。原文がどうなっているか知らないが、「オノマトペ」の翻訳はとても難しいと思う。(難解な学術語の方が定義が明確だし、用法が決まっているから、なれれば簡単だろう。)
少女の空腹と、牛の空腹が重なり、むしゃむしゃ、もしゃもしゃという音の後、
ふわらーっと
これは何だろう。もちろん食べる音ではない。でも、なんだか食べている感じ。何を食べる? 匂いを食べるのだ。「匂いを食べる」なんて日本語はない。「匂いにつつまれる」と「正しい日本語」は主張するだろう。でも、つつまれているだけじゃない。つつまれた瞬間から、つつまれたことを忘れ、それを自分の中に取り込んでいる。つまり「食べている」。そして、食べた幸福で、からだが「ふわらーっと」広がっていく。
いいなあ。
詩はこのあとも続くが、幸福なオノマトペがつづく。
アーサー・ビナード、木坂涼は、こういう「幸福」な詩の天才である。
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