感情/異聞
「迷う」ということばは、やっとその坂道にやってきた。作者が見つからないので、花屋の前で時間をつぶしていることばに道をたずねた。答えることばのとなりでは、別なことばが無関係な方向を向いていた。それは「迷う」ということばがおぼえている風景に似ていた。記憶を重ね合わせてみると、「顔色をうかがった」「女におぼれる」という複雑だけれどはっきりとわかる路地があらわれてくる。店の奥では耳に聞こえない囁きが口の形をしたまま小さく動いた。どれも経験した「感情」のように思え、「迷う」ということばは、そのことを悟られないようにゆっくりと、ていねいにお礼を言って、角を曲がった。
やっと坂を上り詰めると、日が暮れていた。近くのビルの窓は離ればなれに孤立していたが、遠くの明かりが密集してしだいに濃くなるのがわかった。窓にガラスをはめるように、内と外を分け、わかる人にだけはわかるわかるような「動詞」として書き直してほしいという思いがあふれ、「迷う」ということばは悲しくなった。
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「谷川俊太郎の『こころ』を読む」はアマゾンでは入手しにくい状態が続いています。
購読ご希望の方は、谷内修三(panchan@mars.dti.ne.jp)へお申し込みください。1800円(税抜、送料無料)で販売します。
ご要望があれば、署名(宛名含む)もします。
「リッツオス詩選集」も4200円(税抜、送料無料)で販売します。
2冊セットの場合は6000円(税抜、送料無料)になります。
「迷う」ということばは、やっとその坂道にやってきた。作者が見つからないので、花屋の前で時間をつぶしていることばに道をたずねた。答えることばのとなりでは、別なことばが無関係な方向を向いていた。それは「迷う」ということばがおぼえている風景に似ていた。記憶を重ね合わせてみると、「顔色をうかがった」「女におぼれる」という複雑だけれどはっきりとわかる路地があらわれてくる。店の奥では耳に聞こえない囁きが口の形をしたまま小さく動いた。どれも経験した「感情」のように思え、「迷う」ということばは、そのことを悟られないようにゆっくりと、ていねいにお礼を言って、角を曲がった。
やっと坂を上り詰めると、日が暮れていた。近くのビルの窓は離ればなれに孤立していたが、遠くの明かりが密集してしだいに濃くなるのがわかった。窓にガラスをはめるように、内と外を分け、わかる人にだけはわかるわかるような「動詞」として書き直してほしいという思いがあふれ、「迷う」ということばは悲しくなった。
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谷川俊太郎の『こころ』を読む | |
クリエーター情報なし | |
思潮社 |
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購読ご希望の方は、谷内修三(panchan@mars.dti.ne.jp)へお申し込みください。1800円(税抜、送料無料)で販売します。
ご要望があれば、署名(宛名含む)もします。
リッツォス詩選集――附:谷内修三「中井久夫の訳詩を読む」 | |
ヤニス・リッツォス | |
作品社 |
「リッツオス詩選集」も4200円(税抜、送料無料)で販売します。
2冊セットの場合は6000円(税抜、送料無料)になります。