ファイナンシャル・タイムズにPeter Tasker氏が「円は金よりも優位性で優っている」Yen has edge over gold in battle for supremacyというエッセーを寄せていた。
彼は2008年9月のリーマンショック前よりも今日の価格が高い金融資産は多くはなく、円と金はその代表的なものだと書き出す。そして金と経済成長力が弱く巨大が政府債務を抱える円との間に共通するものはほとんどない、だが円の方が優位性で優っているのではないかと続ける。
金融危機以降、金投資が高まり価格は上昇しているが、歴史的にみると80年代に高値をつけた金は下落を続け、その後の20年間で実質価値は8割以上減少している。
Tasker氏は「不都合な真実は金を保有することは投資ではないということだ。何故なら金は配当を生まないので(金融資産として)本源的な価値はない。金の買い手は単純にBigger fool theoryを信じているからだ」と述べる。Bigger fool theory直訳すると大馬鹿理論とは「自分が買ったものを後で誰かに高く売ることができる」と信じる理論だ。
だが「円は金と違い、非居住者は円をキャッシュにしろ、債券にしろほとんど持っていない。中央銀行の保有も少ない。だから中国政府が最近少額の日本国債を購入したというニュースが円を押し上げる力を持っているのだ」とTasker氏は述べる。
どのようなセクターが日本国債を保有しているか?ということについては財務省がデータを公表している。http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/saimukanri/2010/saimu01-3.pdf
それによると、2009年12月末時点で海外の保有割合は5.2%。ピークは2008んん9月の7.8%だから海外勢の保有比率は低下していることが分かる。
Tasker氏は「円は金のように配当を生まない資産ではない。CPIは1.5%下落しているので円を保有していると購買力において年に1.5%の非課税の利益を得ていることになる」と述べる。
また彼は昨今円高が進んでいるが、実質実効為替レートベースでみるとそれ程円高ではない。瞬間的1ドル=79円をつけた1995年に較べると円は50%はまだ50%の上昇余地があると述べている。
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円に50%の上昇余地がある・・というのはかなり極論だと私は思っている。例えばエコノミスト誌が発表しているビッグ・マック指数という購買力平価に基く通貨の強弱判断指数があるが、その最新版(7月22日公表)によると円は対ドルでほぼ妥当な価格となっている。その時点でビッグ・マック1個の値段は米国で3.73ドル、日本で320円である。ビッグ・マックから計算される妥当なドル円レートは85.79銭(320÷3.73)だ。当時の市場レートは87.20銭だったから円はドルに対して2%アンダーバリューだったが今の為替水準はほぼビッグ・マック指数に一致するものだ。
因みに人民元の市場レートに基いて中国のビッグ・マック1個の値段を計算すると
1.95ドルで買うことができる。つまりビッグ・マック指数から見ると人民元は約48%ドルに対して過小評価されているということができる。
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ところで「円は金より強い」といって喜んでいて良いのだろうか?
これについては、立場によって意見は分かれるはずだ。今円を持っている人や年金受給者のように名目価値で将来円を受け取ることが決まっている人にとっては「円の実質価値」が高まることは好ましいことだ。
一方これから職に就く人やローンを抱えている人にとっては、デフレ圧力は応える。
政府が有効なデフレ対策をとらないことは、意図するかせざるかは別として高齢者に優しく若者に厳しい政策を実施しているといわざるを得ない。
だがもう少し長い目でものを考えると国の経済基盤が衰退すれば国の年金も危うくなる。実力を伴う円高は良いかもしれないが、マネーゲームのアヤとしての円高であればそれは危険であるといわざるを得ない。