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山好き金融マン(OB)のブログ
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低金利下で米国年金基金は何に投資するのか?

2012年07月25日 | 金融

低金利下で米国の巨大年金基金は何に投資するのか?どう動くのか?ということは非常に興味のある話だ。というのは、株式などの金融資産の値段もまた一般の商品と同様需給で決まるから、最大級の需要者である年金基金の動向が将来の金融資産の値段に大きく影響すると考えるからだ。

FTによると米国最大の公的年金基金カルパースCalpers(カリフォルニア州職員退職年金基金)の過去1年間(6月30日まで)の投資リターンは1%だった。米国の公的年金基金の長期的な目標利回りは7.5%と言われているから、大幅な目標未達だ。またカルパースの資産は1年前の2,390億ドルから2,330億ドルに減少した。このことは年金給付が掛金収入と運用収益の合計を下回ったことを意味する。

最終的な数字ではないが、カルパースの年金債務に対する資産の割合(ファンディングレシオ)は昨年の74%から悪化する見込みだ。今年4月のカルスターズ(カリフォルニア教職員退職年金基金、全米第二の基金)の報告では、ファンディングレシオは69%であり、資産運用改善により穴埋めするには、ギャップが大き過ぎる、このままのトレンドが続くと30年で資金は枯渇すると述べている。

今世紀初めごろの米国の公的年金基金では、ファンディングレシオが100%を超える、つまり積立超過だと言われていたが、10年の内に様変わりだ。これは株式等の投資環境の悪化、市場金利の低下、ベビーブーマーの退職による年金給付の増加が主な要因だ。

巨大な年金基金が運用収益を改善できる余地は限られている。基本的に超長期的に安定運用を求められる年金基金の場合、国債等主要資産に分散投資を行う必要がある。無論その配分割合は時々に変更するだろうが。

つまり年金基金にできることは「微調整」なのである。例えば前述のカルスターズの運用責任者はカバードコール(現物資産を保有しながら、コール・オプションを売却する戦術)で、オプションプレミアムを稼いでいると述べている。カバードコール戦略をとる基金は多いと思うが、これは目先株式市場に弱気のビューを持っている証左でもある。

目先の利回りにハングリーになっている基金が投資しているのは、テレコム株やユーティリティ株だ。だが大きな資金を持つ機関投資家が同じ戦略を取ると、自らの買いで株価を押し上げてしまうリスクが伴う。

企業の長期社債も年金基金の投資対象だが、JPモルガンはもし年金が社債に対する資産配分を現在の15%から60%に引き上げると、約1兆ドルの需要が生まれるが、これは現在の市場の供給量を上回るという。

また年金基金の不動産投資は、テナントが固まった商業ビル物件に向かっているという指摘もある。

以上のような話をまとめてみると、年金基金は長期的な目標である7.5%には満たないものの、キャッシュフローが生まれる高配当株式、社債、オフィスビルなどへの資金の配分を高めている。リスク資産としての株式への資産配分が減っている理由は、経済の先行き見通しの不確実さと年金給付圧力だ。年金財政の悪化は母体(たとえばカリフォルニア州)の拠出で防がなければならないが、母体も弱体化していて多くは望めない。公的年金基金という機関投資家の株式投資意欲が出にくい環境にあるということは、相場を重くする一つの要因であろう。

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