詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

本郷武夫『日常の 頭・手足の無い胴体だけの彫像』

2019-06-04 15:44:57 | 詩集
本郷武夫『日常の 頭・手足の無い胴体だけの彫像』(待望社、2019年02月10日発行)

 本郷武夫『日常の 頭・手足の無い胴体だけの彫像』には「手」を描いた作品がいくつかある。「殺す」にも手が出てくる。

手はいつもおもっているのだ
なにかをにぎりしめたいと
それがものへの愛であるか
あるいは憎しみであるか
殺すことがにくしみであるか
それともそれへの愛であるか
おお 手があるからにぎらねばならないのか

 三行目の「それ」とは何か。「にぎりしめたいと」思う「なにか」か。本郷は「ある/か」を重ねている。疑問を重ねている。自問と言いなおすべきか。「にぎりしめたい」もそれとは「思い」そのものかもしれない。「思い」を探している、と。

ものにはきまって首があり
手は首しかにぎることをしらない
手があるから 足があるから
いけないとさけんだとて
手は手をしめ殺すことはできないし
手には首しかしめることがないし
愛でもないしにくしみでもなく
手は首をさがしている

 「ある」は消え、「か」も消え、「ない」が増えてくる。
 その変化の境目に「ものにはきまって首があり」と書いているが、これはほんとうか。「問い(疑問)」が「答え」を生み出すように、この「首」は「手」によって生み出されたものだろう。そしてそれはさらに「殺す」を生み出していく。
 では、「首」が生み出すものは何だろうか。「頭」と「頭」以外のものである。
 「ことば」(思考)は、どちらに属しているか。
 「手」はことばにはならないもの、「答え」にはならないものを探している、と読んでみたい。

 「バスに乗って」も印象的だ。

四十人ものが一緒に
温泉を目指して旅行に出る
近頃みんなてんでに勝手なことを言って
集まることのなかった者たち
バスに乗り込んで
廃墟の無明の夕暮れを通って
生き残ったホテルに押し掛ける
みんな生き残ったもの

 この散文のようにはじまったことばが二連目で変化する。

うれしかなしや
かなしうれしや
行きたくないけど行きたい
死にたいけど死にたくない
生きたいけどわからない
残ったけど残りたくない

 反対のことばが結びついている。一緒に存在している。それを「わからない」と言いなおしている。
 ことばは「わからない」ものをめぐって動くものだ。
 簡単に「答え」を求めずに、うろうろしている部分が、私は好きだ。「うれしかなしや/かなしうれしや」が音楽のように酔いをもたらす。






*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(15)

2019-06-04 09:57:21 | 嵯峨信之/動詞
* (肉体よ)

ぼくは自問する
〈時のトゲ〉に被われていないものはどこにあるか

 「被われていない」「被う」。このとき、「トゲ」はどちらに向いているのだろうか。「トゲ」で身を守っているのか。あるいは「トゲ」が身を傷つけているのか。
 私は、トゲが傷つけている姿を想像した。
 これに先立つ二行の影響である。

肉体よ
もうしばらくぼくの生命を閉ざすのを待つてくれ



*

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