年末の本をあれこれ今頃になって消化しているのは書評家としてどうかと、自分でも思うのですが、能力やスケジュールの都合上どうしようもないことでもあります。どうか許してくださいm(__)m
で、やはり年末に出た坂本康宏『逆境戦隊バツ[×]1・2』(ハヤカワ文庫JA)なのですが、あきれるほどいいんです、これが。やられました。
育った年代の関係から戦隊ものヒーローには何の思い入れもありません。しかし、ここに出てくるクルミレンジャーには心を奪われました。
運動オンチでデブでハゲで彼女いない歴25年のオタクの騎馬武秀をはじめとして、それぞれ強烈なコンプレックスを抱える社員たちが、社長の趣味(?)の戦隊ヒーローになって敵と戦うお話。
生れて初めてデートを申し込まれ、ちょっといい目を見ようかという騎馬に、社長がいう――
「そういうのは困るんだよ。クルミレンジャーとしての任務を自覚して、人をうらやましがったり、妬んだり、恨んだり、そういう卑屈な気持ちを大事にしてくれたまえ」
なんちゅう社長やねん。なんちゅう戦隊やねん。
すぐわかるようにオチャラケのアンチヒーローものですが、でも、真実のヒーローものでもあります。あきれて、笑えて……実は、泣ける。バカバカしいストーリーに濃厚な感動と惚れ惚れするようなキャラクターたちが盛り込まれているのです。
アンチヒーローもので、これまでいちばん好きだったのは、平井和正原作・池上遼一画の『スパイダーマン』、その次はジョージ秋山の『パットマンⅩ』と、マンガが主流だったのですが、今回この小説が加わりました。
本屋さん大賞の候補になんで入ってないのだ?! と叫びたいくらい。