立川談志師匠のDVD全集で、いちばん最初に入っている「明烏」を観ました。この有名な噺は、なぜか小学館のCD『東横落語会』には入ってないんですよね。
1978年、家元が42歳の時の高座。
遊びの今昔のマクラから始め、自分の政治家生活をダシにしたり、昨今の18歳頃の女性の違いに触れたりしてから、本編へ。
上手いんだよなぁ。堅物の若旦那の口調や肩のすぼめ方に対して、若旦那を吉原へ連れてゆく源兵衛と太助の能天気でありながら、世話好きなところ。店の婆さんの首のすくめようまで、やはり映像で観ると格別。テンポもメリハリも絶品で、若い頃から家元は別格級の上手さだったことがわかります。
なぜ、東横ではやっていないのか。
立川志らくさんの「解説」によれば、この噺に「〈童貞喪失〉というテーマしか見出せず、やがて興味の対象ではなくなったからであろう」とのこと。童貞喪失というか、女性との交遊の喜びがテーマなんですよね。それだけじゃあ、足りなかったのか。
赤瀬川原平『世の中は偶然に満ちている』(筑摩書房)を読んでいると、1981年12月22日の項に、渋谷東急プラザ2階の喫茶「フランセ」で、たまたま川本三郎さんと出遭った、とありました。
ここを読んで、突如として懐かしい気分に襲われたのです。
渋谷フランセ。私も利用しました。文春の編集者・A宮さんに原稿を渡すのは、だいたいここだったと思います。当時、私は駒沢に住んでいたので、渋谷まで出て、東急プラザ2階のこの店で編集者と会ったりしていたのです。
A宮さんは、元アナウンサーでパリに行ったりなさってるA宮塔子さんのおじさん。〈オール讀物〉の書評原稿や短い小説を注文してくださってました。
趣味の豊かな、楽しい方で、コーヒーも実に美味しそうに飲んでたなあ。
その後、私は転居し、フランセも店をたたみ、この春には東急プラザが取り壊されてしまった。過ぎ去った年月を感じます。
同じ頃、赤瀬川さんもフランセに行ってたのだと知ったのも、うれしいような、なぜか寂しいような。