訃報がつづきます。米国の音楽プロデューサー、フィル・スペクターさんが亡くなられたとか。81歳。コロナ関連死のようです。
殺人犯として永年、医療刑務所に入ったままだったのですが、そこで感染したのでしょうか。アメリカは、日本と比較できなほど大変な状況ですからねぇ。
私が洋楽を聴き始めた1960年代前半、彼の名は特別な「おごそかさ」を伴って口にされたものです。ポビュラーミュージックを創り出す神様のような存在。
特に「ウォール・オブ・サウンド」と名づけられた音の奔流のごときレコード録音技術。音素材の意欲的蒐集とレコーディングスタジオでの魔術的ミキシング技術によって作りだすシングル盤の音の魔力。
彼はレコードを「3分間のオペラ」と呼び、とにかく劇的な作品に仕上げました。
彼の送りだしたヒットの最高傑作はロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」。今聴いても、そして、何度聴いても、ぞくぞくします。
ロネッツのリードヴオーカル、ヴェロニカ・ベネットとの出遭いは衝撃的だったようで、ヴェロニカは後にフィルと結婚します。
しかし、この「神様」はかなり奇矯な人物で、ヴェロニカを籠の鳥のような存在にして自由を奪い、耐えかねた彼女は逃げだしてしまいます。
奇矯さは服装や薬物の使用にも現れ、あげくの果ては女優の射殺にまで至りました。
レコード製作のカリスマとして一時代を画したフィル・スペクター。
この1曲をあげるとすれば、フランク・チャックスフィールドの名曲をライチャス・ブラザーズに歌わせた「引き潮(Ebb Tide)」を挙げてみたいと思います。
原曲の静かでロマンチックな雰囲気を、最後にはドラマチックで激しい愛の歌に仕上げる手腕は彼ならでは。「3分間のオペラ」が堪能できます。
フィル・スペクターさんにとって、多分この世はあまり居心地の良い場所ではなかったかもしれません。
それでも溢れる才能で、私たちを喜ばせてくれました。どうもありがとう。