ワイルド・スワンの著者ユン・チアンが書いた「マオ 誰も知らなかった毛沢東」を3週間がかりで漸く読み終えた。これは誠に重い本だ。内容は当然だが本自体も重い。上下各500頁を超えるハードカバーなので、布団の中で読む時は本当に腕が疲れてしまった。
「マオ」は訳者土屋 京子氏が言うように「とにかくショッキングな本」である。私は学生時代毛沢東の詩集を読んだことがあり、毛沢東の中にある種の哲学者的高潔さを感じていたことがあった。しかしこの本はそのような毛沢東のイメージを根底から覆すものだった。
「マオ」の中で毛沢東とは何か?を端的に語っている部分がある。それは下巻92頁だ。「毛沢東は子孫を残すことに興味がなかった。・・・・大多数の中国人、とくに中国の歴代皇帝とちがって、毛沢東は跡継ぎをもうけることに無関心であった。・・・この後(朝鮮戦争が終結した後)数十年にわたり、生きているうちに軍事超大国の支配者になりたいという毛沢東の一念が、中国人民の運命を左右する唯一最大の要因となった」
ではその野望はどうなったのか?筆者は最晩年の毛沢東をこのように描く。「世界的野望が達成できなかったことを痛切に悔しがる一方で、毛沢東は、自分の無謀な欲望追及が中国人民に多大な人的・物的損害をもたらしたことにはいっさい無関心だった。・・・他人には憐憫のかけらも示さなかった毛沢東の最後の日々を埋めたのは、若い頃から相も変らぬ自己憐憫の感情だった」
毛沢東はソ連から原爆や戦闘機等の武器を買うために、中国農民から食糧を取り上げそれを輸出したのである。このために数千万人の農民が餓死した。つまり軍事超大国になるという毛沢東の欲望のために、全日本人の半数以上の人民が餓死したのである。
著者は480名に登る人とインタービューを行って新しい事実を発掘していった。まことに労作である。この本は現代中国史のみならず、日本を含む東アジアの現代史を書き直す貴重な材料を提供する。何度も読み返したい本である。「どうして最後の最後まで毛沢東という暴君を誰も倒すことが出来なかったのか?」という疑問を持ちながら。それにしても拷問の記述などを見ると中国人の中には凄まじく残忍な人間がいるなぁという感想を持つ。殺人の数などを見ても余りに数が多くて、実感が湧かない位だ。とにかく凄まじい衝撃を受ける本である。