金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

Phased retirement(段階的退職)をもっと考えては?

2019年09月11日 | ライフプランニングファイル

色々なところで「70歳まで働く時代が来る」という意見を聞くようになりました。働きたい人が働き続けることができる社会の到来は歓迎するべきですが、政府がいう「みんなに70歳まで働いてもらう」社会というのは歓迎できません。人間の能力は様々であり、年を取るにつれて「雇用される能力格差」は拡大します。不都合かもしれませんが、これが真実です。

また一定年齢に達すれば、働くことを止めて、健康な内に自分のやりたいことをやる、という人を称賛する社会でないと何のために働くのか分からなくなってしまいます。

「働きたいと思う人が、年齢で差別されることなく働くことができる社会」の到来が望ましいのですが、それは人生の選択肢を広げるものでなくてはならないでしょう。

米国は年齢による雇用上の差別を撤廃している(従って定年制度がない)点では理想的な社会です(もちろん別の色々な点で多くの問題を抱えていますから全体として理想的な社会かどうかは別問題です)。定年制度がないので、従業員は働きたいと思えば、会社がその人の能力が競合する従業員と比べてそん色ないと認める限り働き続けることができる訳です。

 ただし実際にはソシアルセキュリティと呼ばれる老齢年金が100%支給される66歳頃を目途に職場を離れていく人が多いのです。それはリタイアして自分のやりたいことをやるというのが、大部分のアメリカ人の理想だからです。またその準備として完全退職の前に勤務時間を減らし、自分の時間を増やす勤務形態を希望する人も多いようです。この段階的な退職は英語でPhased retirementと呼ばれています。ただし言葉はあるのですが、実際に制度としてPhased retirementを持っている会社は多くはありません。段階的退職を希望する従業員はそれなりに悩みを抱えているようで、WSJにHow to negotiate a "Phased retirement " with your boss(上司と如何に段階的退職を交渉するか?)という記事がでていました。

記事のポイントは次の二点です。

  • まず段階的退職を行うと給料やその他福利面でマイナスがでるが、その備えがあるかどうか十分確認しておく。
  • 上司に対しては段階的退職が自分にとってメリットがある(自由な時間が増える)だけでなく、会社にとってもメリットがある(たとえば教育係として後継者の育成にあたり、ノウハウを移転するとか2,3年で終了するプロジェクトに参加するなど人繰りを助けるなど)ことを強調して良く話し合う。

段階的退職という言葉は日本では定着していないと思いますが、仕組みとしてはかなり定着しています。たとえば「一定年齢に達すると役職定年を迎え、管理監督者責任のない仕事に従事する」とか「定年後嘱託として勤務する」「嘱託としての勤務日数を週3日程度にする」とかです。

ただ日本の場合の段階的退職は、本人の希望を無視した制度的・強制的なものであることが大きな問題でしょう。その問題の本質は「年齢によって雇用を差別する」という点で定年年齢制度と同じでしょう。一方完全なリタイアメントの準備期間として嘱託制度などは有効に機能している面があるとも私は考えています。つまり自由時間を増やして、ボランティア活動や地域社会デビュー等を行い、完全なリタイアメントへの移行をスムーズにしているという面です。。

また会社側としても、支払賃金を抑制しながら、本人のノウハウの活用を図ることができる(場合もある)ので、段階的退職をもっと積極的に活用して良いと思います。

その時のキーワードは、「個別対応」だと私は考えています。つまりある年齢に達したから、ハイ、あなたは嘱託、などというのではなく、本人の希望や職務能力、会社としての必要性などをじっくり話し合いながら、テーラーメードの段階的退職を考えるということが必要なのだろうと私は考えています。

70歳まで働く社会を働くもの・会社・社会全体にとって有意義なものにするには、個別対応の段階的退職をまじめに検討することではないでしょうか?

コメント
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