ニューヨーク・タイムズにAPEC関連の短い記事が出ていた。Obama and Asia-Pacific Leaders vow to work toward free trade「オバマ大統領とアジア・太平諸国首脳は自由貿易に向けて努力することを誓う」という題だ。もし普通の日本人がこの記事を読んだらかなり愕然とするだろう。何故か?この記事は何か特別日本に不利な情報でも伝えているのか?
いやそうでなない。何故愕然とするかというと、オバマ大統領とロシアのメドベージェフ大統領の会談については報じられているけれど、オバマ大統領と菅総理の会談には一言も触れられていないのである。それどころかAPECでホストを務めたはずの菅総理には一言の言及もない。
記事は「横浜を発ったオバマ大統領はヘリコプターで鎌倉に行き鎌倉大仏を見た。オバマ大統領は『この偉大な日本文化の宝のもとに戻ってきたことは素晴らしい。長い間その美は私の中に留まっていた』とゲストブックに書いた」と結んでいる。
ニューヨーク・タイムズが意識するのは当然のことながら、ニューヨーカーを中心とするアメリカ人。記者が読者の関心を引く記事を書くのは当然のことだ。その観点でものを考えると、オバマ大統領と菅総理の会談についてニューヨーカーは鎌倉大仏以下の興味しか持っていなかったということになる。
一方日曜日のオバマ・メドベージェフ会談でオバマ大統領は4月調印した新戦略核兵器削減条約(新START)の批准を外交のトップ・プライオリティと述べた。同条約の批准については上院で3分の2の賛成を得る必要があるからオバマ外交の正念場である。
またオバマ大統領はメドベージェフ大統領に冷戦時代の貿易制限を廃止しロシアがWTOに参加する動きを容認するだろうとも述べた。またその後のプライベート・ミーティングではアフガニスタン問題から人権問題まで広範な問題が論じられたということだ。
また記事はTPPについては、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、シンガポールで締結された自由貿易協定に米国を含む5カ国が参加を表明したと述べているが、ここでも日本の名前は出てこない。参加を表明していないのだからでなくて当然だが。
これでは日本はまったく蚊帳の外である。蚊帳の外でも国益が守られるならそれでも良いが、そうは行かない。ロシアとの親密化を図るアメリカが、北方領土問題で真剣に日本を擁護するとは考え難い。TPP参加問題にしても早々に態度を表明しないと参加希望各国から「あんたのためで遅れるのはごめんだ」というブーイングがでるだろう。
☆ ☆ ☆
では一体何故こんな状態になってしまったのか?
色々な原因があるが、政治家のレベルでいうと「市民運動家」や「弁護士」はいるが本当の政治家がいないということが大きな原因だろう。オバマだって弁護士あがりだという反論が聞こえそうだが、そこにはコモンローの社会と成文法の社会の違いがある。コモンローつまり判例法の社会では、法よりもその背後にある実態社会や精神が重視される。だから変化に対して柔軟なのだ。ところが日本では文字となった法が一人歩きして不必要に絶対視され時として実社会の変化への対応がおざなりとなる。
日本の政権の実現力の欠如を考えるとオバマ・菅会談などニュースバリューがないということだろう。
まあ、そんなこんなで鎌倉大仏しかニュースにならなかった。テレビでは抹茶アイスを舐めているオバマ大統領が大写しになっていた。平和といえば平和だが、オバマが舐めてるのは抹茶アイスだけではなく、菅政権であることを悔しいと思うのは私だけだろうか?
尚、管首相はSesoul G20で並行して開催されたBusiness summitでは自由貿易の重要性をスピーチし、貿易のRound table discussionに参加した旨報道されていましたが、自身のスピーチが終わると中座しています。