月山礼賛
山は皆好きだがとりわけ好きな山というものがある。
その一つが月山(1,979.5m)である。なぜ好きかというとまず「月の山」という名前が良い。
深田久弥は日本百名山の中で「月山の名の起こりは、半輪の月の形からではなく、その山を仰ぐ平野の人々が彼等のもっとも尊崇している農業の神、月読尊(つきよみのみこと)を祀ったからである。しかし、その心の底には。やはり月のように優しい山という感じがあったに相違ない」と述べている。
月のように優しい山という感じを昔の人が持っていたかどうかは知らないが、丸くて広大で無立木の山頂は月の山を想起させる。
芭蕉は悪戦苦闘して月山に登り山頂で一夜を過ごした。
「雲の峰いくつ崩れて月の山」
月山にはこれまで二度登った。最初は夏にワイフと姥沢からリフトを使って往復した。降りだしてもう少しでリフト乗り場に着くという時、バケツの底が抜けたような激しい雨に見舞われたことを覚えている。
二度目は鳥海山にスキー登山に行った翌日、姥沢小屋に泊まり、山岳部時代の後輩二人とスキーで往復した。この時は天候に恵まれていて、快晴無風の登山だった。
三度目になるはずだったこのGWの登山は強風と小雪混じりの悪天候のため、登山を中止した。
「月山は平凡にして非凡な山だ」と戦前の登山家・小島烏水は述べている。茫洋とした山容は平凡だが、懐の深い山である。
今回月山でバックカントリースキーをしている時に広い四谷川の雪原を登ってくる2名の登山者を見た。姥沢かあるいはもっと下の志津温泉からシールを着けて登ってきたのだろう。手軽さなら月山リフトを使うにこしたことはないが、月山の広大な雪の谷は自分の足で歩てみたいという衝動を起こさせる何かがあるのだろうか?
残念なことにそのような「衝動」を覚えるには少し年を取ってしまった。今ではリフト終点から月山に登るが精々であろう。
山形県には月山以外にも鳥海山・飯豊山・朝日連峰といった名山が幾つかある。姿かたちが颯爽としている点では鳥海山に軍配があがり、山深さの点では飯豊山や朝日連峰に軍配があがることは間違いない。
夏の月山は8合目までバスで登ることができる「易しい」山である。だが日本屈指の豪雪地帯だけに雪が降ると状況は一変し、時として大変タフな山に変貌する。
昔の人は月山に降り積もった雪が庄内平野を潤し米どころとしていたことを知っていて農業神の月読尊を祀ったのである。
今の月山は春には春スキー愛好者のメッカとなった。4月の月山も良いが一度もう少し夏に近い時期の月山に来て雪渓スキーを楽しんでみたいと考えている。2千メートルに満たない月山だが強風と豪雪のため上部は草原や砂礫地となり高山の様相を呈している。雪渓脇に咲く高山植物を楽しみながら3,4本滑ってビールを飲んで昼寝して午後を過ごしたいなどと思うことがある。
恐らくそれに勝る一日の過ごし方はほとんどないだろうなあ・・・・と私は思い始めている。
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