北朝鮮がロシアに約3千名の部隊を派遣し、彼らがウクライナ戦線に投入されるだろうというニュースは、米国や韓国で大きな話題になっていますね。
私もいくつかの情報源を読みながらこの問題の背景を考えてみました。
まず基本的な事実(らしいこと)を確認しておきましょう。
それは「北朝鮮が送った兵士は、精鋭部隊ではないようだ」ということです。
この点について、WSJのNorth Korean soldiers arrive on Russia's front line. How ready are they to fight?という記事は冒頭で、The North Korean troops nearing Russia's front lines with Ukraine may not be the cream of the crop in Kim Jong Un's army.
「ウクライナとのロシア最前線に近づいている北朝鮮軍は、金正恩軍の精鋭ではないかもしれない」と述べています。
Cream of the cropは直訳すれば「穀物のクリーム部分」とまり最良のものです。記事はビデオ映像や情報当局の分析から判断して、10代か20代前半の徴兵初期段階の兵士である可能性が高く、背が低く、スリムに見えるのは貧しい北朝鮮に蔓延する栄養失調の現れだと述べています。
この点について、別の情報源によると韓国の金竜彰国防相は「弾除けの傭兵にすぎない」と述べています。
日本のテレビでは北朝鮮は「暴風軍団」と呼ばれる精鋭部隊を送ったなどと報じられていましたが、実は違うというのが真相のようです。
ではなぜ北朝鮮は精鋭部隊を送らなかったのでしょうか?
可能性をあげると次のようなことが考えられます。
- 第一にロシア側が北朝鮮部隊をいきなり、最前線に投入せず、後方支援などサポート部隊で使う予定なので、最精鋭の部隊でなくても良いという見方です。この見方の問題は、現代的な装備や兵器の運用に慣れておらず、言語の壁もある北朝鮮兵士がサポート部隊として役に立つのか?という点です。
- 次にウクライナがロシア領土に侵攻している地域などの最前線に投入し、弾除けの傭兵として使うという考え方です。ロシアの伝統的な戦争戦略は敵より多くの犠牲を出しても、最終的な勝利を得るという消耗戦です。現代戦の経験・知識がない北朝鮮の若い兵士が実戦経験豊富なウクライナ軍に対抗することは困難でしょう。
- 近現代戦の実戦経験不足という点では、北朝鮮の精鋭部隊も同じですから、精鋭部隊を投入しても北朝鮮兵の犠牲は増えると思います。しかも精鋭部隊の損耗が大きい場合は北朝鮮側に次のような問題を引き起こします。精鋭部隊は国防と金政権下の治安維持を担っていますから、精鋭部隊が減少すると、治安維持面で困難が起きると金正恩が判断していることです。
- また今回北朝鮮がロシアの派兵要請に応えて軍隊を送った理由を考えると第一に「外貨稼ぎ」(韓国国家情報院によると北朝鮮は派兵の対価として一人当たり2千ドルを受け取るという話)です。次にロシアから高度な軍事技術や装備を受け取ることが期待されるでしょう。またロシアとの関係強化は、日米韓に対する対抗力の強化につながると北朝鮮は考えています。
次に北朝鮮から派兵を受け容れるロシア側の問題を考えてみましょう。
- 国内的には徴兵や自国兵の損耗を抑えることで、国内の反プーチン感情を抑制できるとプーチンが考えた判断できます。
- 一方西側諸国には「ロシアはプーチンが喧伝しているほどには勝っていない」という分析の根拠を与えることになります。アメリカのシンクタンク38 North(ジョンズ・ホプキンス大学の南北問題研究サイト)はpart of the answer is that Russia is not winning, at least not to the degree that Vladimir Putin would have the world believe と述べています。
西側諸国が「ロシアはいうほどには戦果をおさめていない」と判断すれば、ウクライナ支援を高める可能性があるでしょう。北朝鮮兵のロシア派遣は、色々なシグナルを送っていますね。
戦争とは前線で血を流すだけのものではありません。色々な情報を分析して、敵味方の本当の戦争遂行能力を測るというのも、戦争の大事な部分です。誰がこの情報戦で勝っているのかを考えてみるのも面白いですね。
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