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カナダ産相続キットをのぞいてみた

2014年09月18日 | うんちく・小ネタ

先日知り合いの女性税理士さんから、依頼されていたカナダ産の相続キットの抄訳と簡単な解説を行った。この時期は本職?の山登りのスケジュールが混んでいるが、合間を見つけてやっつけ仕事をした次第。

相続キットというのはCD-ROMに入っているフォーマットに従って、必要事項を入力していくと「遺言書」Willが自力で作成できるというソフトだ。日本にも相続(税)キットと名前を付けたソフトがあるが、基本的な違いがある。違いは何か?というと「パソコンで作った遺言書がそのまま法的に有効な遺言書になるか?どうか?」という点だ。

結論からいうと、日本ではパソコンで作った遺言書は法的に拘束力のある遺言書にはならない。なぜなら日本の法律(民法968条)が自分で作成する遺言書は「自筆」(肉筆)でなければならないと定めているからだ。また日本では公証人に依頼して作成する「公正証書遺言」が専門家により推奨されている場合が多い。

ところがカナダの相続キットの説明によると「遺言書は手書きでもワープロでもタイプライターでもOK」「利害関係のない二人の人の前で本人が署名をすると法的に有効な遺言書になる」とある。

一般社団法人 日本相続学会の専務理事という立場を離れて、個人的な意見を述べると私は実は民法968条の自筆証書の要件(自筆)に長い間疑問を感じていた。理由は簡単。パソコンのワードソフトが普及する前のレガシーが延々と生き続け、IT時代にそぐわないからだ。

ただし「自筆証書のワープロ化を容認しよう」という声は、一般社団法人 日本相続学会の中からはまったく聞こえてこない。

その理由は明快である。学会員の中に「遺言書の作成アドバイスを飯の種にしている」士(さむらい)族が多くいるからだ。公正証書遺言を作成する場合でも、多くの場合は司法書士等のアドバイスを受けて、原案を作ってから公証人役場に赴くというのが通常の流れのはずだ。日本の場合「遺言書の作成」は士族にビジネスチャンスを提供していると考えてよいだろう。

ところがカナダでは2千円程度のCD-ROMを購入すると、かなりの人は弁護士(日本の司法書士を含む概念)の力を借りることなく、自力で遺言書を作成することができる訳だ(例外は離婚した人など)。

もっとも法律の枠組みが違う点は指摘しておかねば公平を欠くだろう。ざっと見たところカナダ(英国法)の場合は、相続に関する被相続人に自由裁量部分が大きい。法定相続とか遺留分に関する法律上の規定が表面には出ていない(遺言書がない場合は、種政府が遺産配分を取り扱うという規程はあるようだが)と思われる。

ところが日本の民法はかなり細かく遺産配分に踏み込み、難しい法律用語が乱舞しているので、2千円程度のソフトで素人が「法的に問題のない」遺言書を作成するのは困難なのかもしれない。

しかしである。これだけ色々な取引(特に証券・銀行など)のIT化が進む中で、ワープロで作成された遺言書は認められないというのは、かなり時代遅れではないか?と私は考えている(あくまで一般社団法人 日本相続学会の意見ではなく個人の意見である)。

IT技術と遺言書の連携ということでは、たとえば金融取引のagregation service(銀行・証券・クレジット会社等の取引をインターネット上統合して統合するサービス)と遺言書をリンクさせるサービス、など考えられると私は考えている。

そのメリットは何か?というとリアルタイムに取引内容や金融資産時価を遺言書に反映できるというものだ。こうすれば遺産の透明性は飛躍的に高まるし、相続人の手続き負担は軽くなるはずだ。中々の提案だと思うが如何なものだろうか?

と言ってもハードルは高い。理由は幾つか考えられる。一つは被相続人や被相続人の財産を実質的に管理している一部の相続人に「財産の実態を(他の)相続人に隠しておきたい」という気持ちがあるからだ。また前述したように士業族の中には「遺言書のIT化」に反対する勢力があることが想定されるからだ。金融機関側からは個人の口座情報の漏えいを懸念する声が上がるかもしれない。

ところで今精々1割弱の人しか作成していないと言われている日本の遺言書はこれからもっと普及するだろうか?

私はyesと考えている。理由は高齢化・少子化・非婚等によるライフスタイルと価値観の多様化だ。自分が残す財産を自分の意思に従って誰かに譲りたいという思いは高まるのではないだろうか?

恐らく民法が改正されて「相続キット」で法的に有効な遺言書を作成することが可能になれば、遺言書の作成件数が相当増えることは間違いないだろう。ただしその影響についてまで私の想像力はまだ及んでいない。それは次の山から帰ってからの研究課題だ。

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